2.3 魔術等級
一般に魔術師はどこの国出身であろうとも、魔導協会に登録する必要がある。
この魔導協会はどこの国にも与しない、中立機関であると協会はしている(実際にどうだったかは余談になるため割愛する、詳細が知りたければ魔導協会の項を読むこと)。
魔術等級というのは、この魔導協会によって定められた、主に魔術の希少価値や習得難度から決められる等級である。
魔術等級は十に分かれ、基本的に数字が若くなるほど難度が高く、価値が高い、とされる。
また、これとは別に特とつく、三級を下限とした別枠が存在し、これは俗に秘術と呼ばれるものが集められている(もっとも、それらの情報を開示する魔術師はごく少数だが)。
なお、概念魔術は当時、下級、中級、上級の三つで分けられており、資格や免許の類は存在していなかったがこの書では人界での記載に乗っ取ることとする。
では以下に、各等級の魔術の例と、おおまかな危険等を示す。
十級
必要資格
無し。
習得危険度
極めて低い。
習得者の多くが幼いものの、幼いために魔力量が少なく、また基本的に大人の庇護下で行われるため、家庭内治療で済むケースがほとんどである。
概説
人界においては一般的に呪い師と呼ばれ、ラディーアにおいては七歳になったと同時に、専用のローブが与えられる習慣がある。
魔界においてそういった文化はあるものの、種族ごとで異なるためにその数は膨大で、それゆえにこの書に魔界での魔術的文化についてはほとんど記載しない。
人界魔界、両界のほとんどの汎用魔術がこの等級に値し、多くの者は主に両親や兄弟などの血縁者から習うことになる。
もっとも魔界において、血縁者から魔術を習うことはより上位の魔術においてもままあることではある。
種族によっては、血縁者以外から魔術を教わることを忌避する文化もあるほどだ。現在ではその文化も大分薄らぎはしたが、今もなお根強く残っている地域もある。
この位に値する魔術
人界:点火、涼風、窪穴など
魔界:火雇い鼠、水吹き蛙、風行き猫など
九級
必要免許(資格)
無し。
習得危険度
極めて低い~低い。
物心がつき始めたことで、親や教師の言いつけを破った多くの子供が保健室や救急箱、そして親からのげんこつのお世話になっているようだ。
余談だが、意外とこういう子たちのほうが、魔術に対する恐怖を理解し、好奇心も旺盛のために魔導の道で成功する事が多い。
概説
人界においては一般的に術師と呼ばれ、小学校の卒業とともに智の象徴とされる梟と、それを囲むように"魔導の子らに、祝福あれ"とラディーア地方の文字で書き込まれた帽子が与えられる。
この等級の魔術には一部の汎用魔術と攻性、防性魔術が含まれる。
この位に値する魔術
人界:惹電、風針、操水など
魔界:着流し魚鱗、手繋ぐ柵、野次馬根性など
八級
必要免許(資格)
無し。
習得危険度
低い。
軽傷を負う可能性はままある。程度よっては魔術による簡単な治癒が行われる。
この等級の魔術による事故は習得よりも、習得した術者同士による諍いや悪ふざけによるものが多い。
概説
人界においては一般に幼魔術師と呼ばれ、中学の卒業と同時に自己判断による魔術の私用を許される。もっとも、昔と違い今ではこのルールは形骸化してるため、形式なものではあるが。
ここまでは、基本的に十四歳(要は中学校までに)習得する。また、各属性に対する適正や個々人の才能の差が色濃く出始めるのも、この等級からである。
ただし、魔術は打ち止めのない学問、もっとも才能が影響する反面、もっとも努力が反映される学問であることを補足しておく。
余談ではあるが、この等級でもっとも人気がある魔術は否妻、理由は派手かつ見目が良いからである。
この位に値する魔術
人界:砂時雨、水丸、否妻など
魔界:気合羽織、赤糸想、風喰らい
七級
必要免許(資格)
無し。
習得危険度
やや低い。
だが、習得する者が未熟なことが多く、年頃ゆえか自尊心が高いところがあるため、実質はやや高いといったところ。
軽傷を負う可能性が高く、中傷となることも少なくないので、よくよく注意して修練に及ぶ必要がある。また、この等級以上から死亡事故が毎年確認されるようになる。
概説
一般高校で教えるところもあるが、基本的には魔術学園で習得する。
この等級の魔術を規定数習得することで、ついに魔術師と名乗ることを許される。
いわば、偉大な大魔導師(賢者とも呼ばれるが一般的ではない)を目指す者達にとって、この七級は険しい魔導の道への第一歩なのである。
この位に値する魔術
人界:恨火球、風刃、電茨など
魔界:足跡残す火山猫、槍作願望、土人形の腕
六級
必要免許(資格)
無し。
習得危険度
やや低い~中。ここからいよいよ魔術による事故が目立ち始め、魔術恐怖症を抱く者が出始めるのもこの等級。
治る者は七対三で、治らない者の方が多い。
重度の者は魔術学園を辞めるが、軽度の者は術具科など他の科に移る者も多い。
治った者は得てして優秀な魔術師となるが、そういった圧力からか心身に不調を来す者も居る。
概説
ここの術を一つや二つ習得すれば、ギルドで戦闘が予想される依頼を受けても問題ないだろう。
事実、自習兼アルバイトとして、魔術都市ラディーアでは都市では低難度の戦闘依頼は大人気だ。
代わりに往々にしてプライドが高いところがある魔術師達は雑用や店番など雑事、出来るかどうかわからない高難度の戦闘依頼は学生の集団が去った後も、掲示板に張り付けられたままだ。
とは言え、前者を重度の魔術恐怖症患者が手に取り、後者をそうしてこつこつと実力を積んだ魔術師が手に取るため、結果的にラディーアのギルドはうまく回っている。
この位に値する魔術
人界:火片の剣、風乱刃、砕岩鎧
魔界:纏い燕、鬼哭怨闘、熾火の毛皮
五級
必要免許(資格)
無し。
習得危険度
中。
この等級での事故は意外と少ない、これは六級で満足する者が多いことや、上を目指す者の多くが上級魔術師の資格試験に向けての勉強、鍛錬を始めるからである。
概説
この等級まで普通魔術師に習得を許される。これ以上は上級魔術師の資格を所持をしていなければ指南書の購入や貸与、指導を受けた場合は、指導を受けたものに加え、指導した者も免許剥奪などの罰則が与えられる。
魔界においてもこのような規律は多くの種族で設けられていたようだ。
この位に値する魔術
人界:心炉:第一焼、雷伝:初轟、砕塵霧など
魔界:怨鬼再臨、火群れる貪犬、旗縋りの喜骸
四級
必要免許(資格)
中等魔術師
習得危険度
中~やや高い。
多くの魔術が死の危険を伴う。が、免許が必要なこともあり、魔術事故件数こそ多いものの、死亡件数は少ない。
とは言え、事故によってまともな生活が出来なくなる魔術師も多い、いっそのこと死んだ方がマシだとさえ言われる。
実際、魔術師の自殺者が最も多いのがこの等級を魔術の習得を試みたものだ。
古人曰く、魔導の道深く険し、汝生中な覚悟で進むこと無かれ。
すぐに自死を選ぶ様な者だからこそ、大事故を引き起こすことになったのかもしれない。
概説
威力、魔力消費、攻撃範囲など総合的な判断から、実際に前線に立つ魔術師であれば、人界魔界でそれぞれ準戦術級、準始祖級とも称されるこの等級の魔術を切り札としていることが多い。
なお、この等級の攻性および防性魔術を習得する殆どの者は、軍人及び学園の関係者である。
これは、上級魔術師免許を習得した者は例外なく、それぞれの国の軍からスカウトされるからである。
この位に値する魔術
人界:赤の衝動、いがみ合う蒼、腰掛ける小金など
魔界:崩哮、戦鬼荒肝、死鎧の勇士
三級
必要資格
高等魔術師
習得危険度
高い。
高名な魔術師の死を告げる報道の多くは、この等級での魔術事故と知らせる。大抵は他の多くの者を巻き添えにした。
だが、それでもこれより積まれたであろう骸を思えば、よかったと思うべきなのかもしれない。
概説
一般的に、高等魔術師と呼ばれる(女性の場合はハイ・ウィッチ)。
軍の魔術師の多くは、この等級までで留まっていることが多い。
理由は単純に以降の魔術を学ぶにはリスクが高過ぎるという事に加え、この等級の魔術さえ扱えれば威力だけならば十分だからである。
この等級に値する魔術は人界において戦術級魔術、魔界において始祖級魔術と呼ばれ、数多くの戦争で絶望的な戦況をひっくり返してきた。
ゆえに、軍にとって高等魔術師たちは何よりも守るべき警護対象である。
この等級に値する魔術
人界:――データ破損――
魔界:――データ破損――
二級
必要資格
特等魔術師。
習得危険度
極めて高い。
魔導の道歩むものは皆、天秤を持っている。痛み、体、己、他者……魔に合わせ、秤にかけるものは大きくなってゆく。
この秤の掛けるものは何なのか。叡智の裏で犠牲は尽きない。
概説
遍く魔を導く者、魔導師。振り返らずとも、後進はその背を追っていく。
なぜならば、それは何度も死線をくぐり抜けた者に冠せられる称号。偉大な栄誉であり、畏怖すべき異名。
準戦略級、準幻想級とも呼ばれる魔術を用いて、戦争を一方的な虐殺へと変える者らを、人々は"英雄"と持て囃す。
この等級の魔術を習得したほぼ全ての者らは歴史に名を残し、多くの尊敬と好意、それを軽々上回る嫉妬と敵意を手に入れる。
名を残せなかったもの? それは恐らく、魔導師などという器で収まらぬ者達だったのだろう。
この等級に値する魔術
人界:――データ破損――
魔界:――データ破損――
一級
必要資格
大魔術認可証
習得危険度
不明。
言えることは一つ。過去の文献の多くに、一夜にして消えた国、種族があるということだけだ。
概説
大魔導師。そう呼ばれる者達にのみ認められた魔術がこの等級に載せられている。
もっとも、そのどれもが国家機密に属するため、名前すら知られていない。
大魔導師の名もまた同様、暗殺を防ぐために第一級国家機密となっている。
木を隠すなら森のなか、魔導師の名が公表されるのは彼彼女らの為の囮となってもらうためだ。
その秘匿性ゆえに、一級魔術と大魔導師は存在しているのかさえ疑問視されることも多々ある。
だが、間違いなく存在するのだ、人界では戦略級、魔界では幻想級と称される、それらの魔術は。
この等級に値する魔術
人界:――データ破損――
魔界:――データ破損――