Last Letter
部屋の掃除をしていると、手紙を見つけた。彼女から届いた手紙は、後にも先にもこの一通だけだ。十年の時を経て、僕はもう一度読み返した。
川島春樹君へ
約一年ぶりですね。お元気ですか? 私は何とかやっています。ただ、少し寂しいです。だから手紙を書いたのかもしれません(笑)
私たちが出会ったのは、二年前の冬、五年生の冬でしたね。覚えていると思うので、ここでは書きませんが……。今思うと、あの日私たちが出会ったことは運命だったと思います。同時に、同じ小学校だったのに、何でもっと早く会えなかったのか、と神様を恨んでしまいます(笑)
私は転校する日を、春樹君に伝えていませんでした。怒られて当然だと思います。だけど、そうしなければ私はこの町から、春樹君から離れられなかったのです。どうか許してください。
私たちが離れた期間が、共に過ごした日々を上回ってしまい、その差はこの先大きくなっていくでしょう。これから、過去を振り返る余裕もなくなるくらい、忙しくいきます。そして、お互いのことを忘れてしますと思います。それは仕方がないことです。だからこそ、私は伝えなければいけません。
私は本当に春樹君のことが好きでした。
もう過去形にしなければいけないことが、何より悲しいけど、そうせざるを得ません。
もしこの先、偶然に出会った時、私のことを忘れていても怒ったりしません。でも覚えていてほしいと願います。
最後に、春樹君。どうか幸せになってください。それだけを約束してください。
では、さようなら。
中村千紗より
僕は返事を書かなかった。どうしても千紗と、精神的に離れたくなかった。その結果、後悔だけが僕という物体の奥底に蓄積し、千紗という、もっとも輝いていたものを忘れてしまった。この手紙を読み返した今では、あの頃を鮮明に思い出している。それ故に悲しくなる。
返事を書こうと思った。この手紙に書かれた住所に今もいるとも限らない。千紗も僕を忘れているかもしれない。だけど書く。
十年の時を経て、ようやく僕は千紗から別れるのかもしれない。