8話
昨日の疲れもあり、私は愛犬のロコットと過ごしていました。外に出ることもなく、ゆっくりと。
午後になり、食料を買いに出かけることにしました。車庫から車を出すと、用水路が見える。その中に静かに眠る黒い猫も。
「お前はいつまでそこにいるつもりなんだ。それとも、本当にウチに呼ばれてきたのか?」
心の中では、ある二つの感情が湧き立ってきました。
受け入れの感情と拒否の感情。
まずは道路管理のところに電話をして、回収を依頼する。正規の手順を踏んで、それでもまだお前がそこにいるなら、私はお前を受け入れるべきなのだろう。
でも、そんなことが起こるはずがない。
そんな感情を心の中に、一本の電話をかけることにしました。
詳細は省きますが、私が電話をして、真っ先に感じたことは、電話の相手が使えねぇ奴だなと思ったことでした。
今日が日曜だから、明日行きますと言われたものの、自分の中ではきっと来ないだろうと嫌でも思ってしまう。電話越しで伝わってくる無能さ。そのくらい使えない奴だと思いました。
そうなると徐々に黒い猫を受け入れる感情が高まってくる。正規の手順を踏んで、回収依頼をしているはずなのに。
翌朝、私は用水路の中で静かに眠る黒猫を見ながら、仕事に向かいました。
夕方、仕事が終わり帰宅すると、そこには黒い猫が眠っていました。
「やっぱり来なかったんだな……」
もう私の心は決まっていた。この子を受け入れよう。でもすぐに動くわけにはいかなかった。
妻のアキコに納得してもらうために、もう一日待ってみることにしました。
次の日。やはり来ることはありませんでした。
黒い猫は回収されることなく、静かに用水路の中に眠り続けていた。誰の目にも留まらぬようにひっそりと、その場に横たわっていた。
「やっぱりお前はウチに呼ばれてきたんだな」
私は白い軍手を手に取り、古びたバスタオルに包んで、用水路から引き上げました。
それから、家の庭に穴を掘る。少し深めに穴を掘り、枯れ草の布団を引いてあげる。ゆっくりと眠れるように。
「死んでから出会う運命って不思議だな」
私は心のどこかで思っていました。これは予行練習なんだろうと。老犬のロコットが亡くなったら、こういう風にすれば良い。
そんな風に思いながら、黒い猫を埋葬しました。
お分かりの通り、亡くなった黒い猫を招き入れたのは私自身です。
そして、これが死を呼ぶ黒い招き猫の怪異の始まりでした。




