10話
父が亡くなって、妻はリゾートバイトを辞めることにしました。
色々とバタバタしてる中で、家から離れた寮で暮らすのが大変になったということもあるが、一番の理由は愛犬のロコットの体調が日に日に悪くなってきたからだった。
妻はもう少しで仕事を辞めて帰って来れる。
そんな中で、ロコットはついにドライフードを食べれなくなってしまった。
そうなると身のお世話も大変になってくる。白内障で目が見えない中での食事は大変なものになった。
それまで、ドライフードを出せば、匂いを嗅ぎながら、食べていた。
でも、今度はそうはいかない。
ロコットを抱きしめながら、介護用フードを食べさせる。慣れない手つきでロコットも疲れてくる。
ゆっくりと抱きしめながら食べさせる。ゆっくりとゆっくりと。
そうしていると時間が過ぎるのはあっという間だった。
でも、それで良かった。
それまではスマホを見ながらロコットを撫でていたりしたが、今はロコットと向き合いながら、最後の時を一緒に過ごせるように、大事に大事にゆっくりとコミュニケーションを取るようにした。
そして、その日がついにやってきました。
土曜日の朝のことでした。いつも起きてくる時間に起きてこない。一緒に寝ているロコットが起きてこない。
その日のロコットは荒い息づかいをしていました。そこで私は悟ってしまいました。
きっと今日亡くなるのかもしれない。でも、今日は土曜日で休みの日。最後の日はずっと一緒にいられる。
私はずっとロコットのそばに付き添い、看取ることにしました。
時刻はお昼過ぎ。
目が見えなくなってからは鳴く事もしなくなったロコットが急にワンと鳴き出して、足をバタバタとし始めました。
「ロコット……お迎えが来たんだね……」
私はそっとロコットの背中を撫で始めた。
「お父さんかな……ロコットのこと、いつも可愛がってくれたもんね……」
グッタリと横になりながら、まるで走っているかのように足を何度もバタバタさせてはワンワン鳴き出すロコット。
「ロコット、久しぶりに走り回る感じは楽しい?昔はイタズラして怒られて、よく追いかけっこしてたもんね……」
相変わらず私の声には何も反応しない。少しするとロコットはハァハァと荒い息づかいをしながらも落ち着き始め、再びグッタリし始めた。
時刻は夕暮れ。
気付くと私はロコットの背中を撫でながら寝てしまっていた。
「!!!」
指先に微かに伝わるドクンドクンと脈打つロコットの鼓動。
「よかった。まだ生きている……ロコット?ねぇロコット?!」
指先にかすかに伝わっていたロコットの鼓動は動きを止めてしまい、ロコットが再び動く事はありませんでした。
「ロコット……今までありがとうね。ゆっくり休んでね」
私はそっとロコットを抱きしめました。
少し落ち着きを取り戻した頃、私は買い物に出かけました。
ロコットを丁寧に埋葬するための買い物を。
棺桶として新品のダンボール、包むためのバスタオル、軍手ではない白手袋。
父の葬儀の時に見た段取りとできるだけ同じようにするために。
その日は仏壇の前にロコットを寝かせて、灯りの火を消さないように務めました。
日曜日。
私はロコットを庭に埋めることにしました。
あの黒い猫の隣りに。
「これでロコットも寂しくないよね。それに……」
私は黒い猫が埋められているほうをじっと眺めました。
「キミはこのために我が家にきてくれたんだね」
たしかに黒い猫は死を呼ぶ招き猫だったのかもしれません。
ですが、それは私を人として成長させてくれるものでした。
これは私が実際に体験したお話です。
次は、怪異と呼んだら失礼になりますが、私の親しい友人の話をしたいと思います。
その人を一言で表すなら、『月の太陽曼荼羅を見る女性』というべきでしょうか。




