表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/1

選ばれただけでは足りない

この物語には、

「役」が存在します。


「役」には選ばれたから強いわけでもなく、

願われたから辿り着けるわけでもなく、

神託があったから勝てるわけでもない。


それでも人は、

「選ばれた」という言葉に希望を託してしまう。


これは、

勇者というだけでは足りないという物語です。

第一話 継ぐ者たち


大国の名 エイレーン王国。


街が複数点在し、山の街から平原の都市まで、人の営みが国土を覆っていた。

交易路は張り巡らされ、騎士団が街や都市の秩序を守っていた。魔物たちの被害はあったが、「王」の統治は長く安定していた。


――しかし、一つの出来事が起きた。


魔王が死んだ。

それはこの国にとって、終わりではなく始まりだった。


何十年と続いた魔王による魔物の生産は、己の寿命により終止符を告げる。しかし魔王は自らの心臓を幹部たちへと分け与えていた。


その心臓を分け与えられた幹部たちは各地に散らばり、

それからだった…魔物の気性が荒くなり、活動は年々激しさを増していた。



それから5年後…

王城の執務室。

エイレーン王は積み上げられた報告書に、黙って目を通していた。


討伐失敗。

村の放棄。

交易路の寸断。


すべてに目を通している。

だが、どれも結論は同じだった。


「被害は想定内」

「増援は不可能」

「次の機会を待つ」


――耐えろ、という意味だ。


王は書類を置き、深く息を吐いた。

疲れていた。

王である前に、一人の人間として。


そのとき、扉が叩かれた。


「陛下、失礼いたします」


入ってきたのは秘書兼護衛魔法使いのスクラ・ロースだった。

本来は別件の報告で来たはずだが、どこか言い淀む様子がある。


「……城下に、“我こそは導きを授かる者”と名乗る人物がおります」


王は顔を上げた。


占い師。

いや、この国では、もう少し飾った呼び方をされる――神託者。


「“魔に抗う者”の名を告げたと」


疲れた様子の王は鼻で笑いかけ、途中でやめた。


「……その名は?」


「騎士団に所属しているとされる者。

 名は"サイ"」


「サイ… ?サイとは、何者だ」


「年齢は25歳。

 ただの騎士団の一人です。

 特別な功績があるわけでも、突出した実力があるわけでもない。ごく一般的な兵士に過ぎません」


王はしばし沈黙し、書類の山へと視線を戻した。


魔物の被害は増え続けている。

兵を出さねば民が死に、

やがて国が滅ぶ。


「……小さな隊でよい。彼に任せよ」


王は静かに言った。


「試験的でいい。失敗しても構わん……いや、構わなくはないが、何もしないよりは、まだましだ」


信じたわけではなかった。

ただ、日々激しくなる魔物の活動に、

王自身が見えぬ希望にすがりたくなっただけだった。



こうしてサイは、

ただの騎士団の一人から、神託を理由にたった4人の小さな隊を任されることになった。


旅は順調とは言えなかった。

街から街へ、村から村へ。

民からの依頼やお手伝いをし、魔物と戦い、たまに逃げたり、

そうして物資を補給しながら進んだ。


最初から明確な目的があったわけではない。

各地の魔物を倒しながら、進んだだけだった。


神託を忘れ、鎧に補修痕が増え始めた頃、

気づけば彼らは人々から勇者と呼ばれていた。


そして、勇者と呼ばれる彼らの前にそれが現れるのは必然だった。


魔王の心臓を分け与えられた幹部


背筋に嫌な汗が流れる。

他の魔物とは一線を画す雰囲気

これまで、魔王の幹部には数多の強者が挑み、

誰一人として傷一つ与えられずに敗れてきた。

それが、魔王の心臓が持つ力だった。


サイは仲間たちに聞こえる声で呟く

「……ここで、討ち取る」


仲間の1人が火球を放ち、もう1人、またもう1人と幹部に切りかかる。

しかし幹部は異様な笑みを浮かべ、一切の攻撃を避けなかった。まるで無意味かのように嘲りが混じった笑いだった。


「人の身で、我に刃を向けるか」


放たれる魔法も、剣も、すべて受け止める。

避ける素振りすら見せない。


――自分は不死だ

ーー魔王の心臓を持つ存在だ。


その驕りが、確かにあった。


サイは一歩、前に出る。

仲間の制止も聞こえない。


幹部の注意は、他の仲間たちに向いていた。

“無意味な足掻き”を眺める余裕があった。


その瞬間だった。


刃が、幹部の胸元へと滑り込む。


「……なに?」


それは致命打ではなかった。

だが――確かに通った。


魔王の心臓が、初めて痛みを訴えた。


それは思いもしなかった一撃、サイ自身にも入るとは思わなかった一撃だった。

その隙を逃さず、サイは攻撃を続けた。


長い戦いの末、

幹部はついに倒れた。


魔王の心臓の一つが、確かに止まった。


だか、勝利には代償を伴った。


帰還したのは、サイの仲間たちだけだった。

彼らは幹部の亡骸を携え、

そして――サイの亡骸を運んできた。



王国は歓喜した。

街は勇者一行を讃え、声を上げた。


「よくやった!」

「平和への一歩だ!」


だが、帰還した仲間たちの表情は重かった。

剣の刃こぼれ、無数の傷。

その痛々しさは、誰の目にも明らかだった。


王は幹部の亡骸を見てすぐにこう言った。


「あの神託者と名乗る者を、連れて参れ」


見つけるのは容易だった。

最初の神託者は、すでに捕らえられていたからだ。


王に神託を告げた後、殺人を犯し、

正気を失っていたため牢獄に入れられていたのだ。

長い年月がたちあの頃に比べ貧相な体つきだった。しかし顔は笑っている。まるで私にまた会いたかったかのように…


王の前で彼は笑いながら叫んだ。


「役は継がれる……!

 サイという者は選ばれし勇者!

 勇者の死後には勇者が続き、

 私の死後にも、誰かが続くのだ……!」


「ならば次の勇者は誰だ?」

その場にいるスクラが問い詰める


神託者は答えなかった。

騎士が怒り「答えよ!」というが

彼はそれ以上何も喋らない。首を掴まれた彼はまるで壊れたブリキのおもちゃのように首がぐらぐらと揺れていた。


数日後、彼は牢の中で死んだ。

持病による急死、と記録された。


「新たな神託者を探し出せ」

王が告げる前からすでに噂は街や都市で広がっていた。


――王が、新たな神託者を探している。


そう聞きつけ、

我こそはと各地から名乗りを上がった。


その数、十三名。


その数を聞き王は、ボソリと言った。

「やはりな…」


スクラが疑問に思い、王に問いかけた

「やはり…とは?」


「私欲に駆られた者たちも含まれているだろう」


王は分かっていた。金や名誉を欲しがるもの、政治に取り入ろうとするもの、王に近づこうとするものがいることを、


その後王は彼らに告げた。


「選ばれし神託者たちよ。

新たな勇者の名を示せ」


十三の神託者たちは、それぞれ勇者の名を挙げた。


そして再び、

各地の街や村から、神託者にえらばれた新たな勇者たちが旅立っていった。



勇者が旅立ってから1年後


王の前に、2人の勇者だけが戻ってきた。

傷だらけの勇者と包帯まみれの片足のない仲間1人、

そしてびくびく震え戦いから逃げたであろう勇者


傷だらけの男は告げた。


「……幹部と交戦しました。

 ですが、私の攻撃は傷一つとして通りませんでした」


王は黙って聞いていた。


サイは確かに、魔王の幹部を倒した。

だがそれは――

誰にでも与えられる役割ではなかった。


それを理解した瞬間、

王の中で一つの結論が固まった。


――「役は継がれる」。

だがそれは、魔王を倒す運命が

継がれるという意味ではない。


サイは確かに、魔王の幹部を倒した。

だがそれはサイが勇者であったから、

だけではない。


そこに辿り着き、

臆せず刃を振るうことができた者だったからだ。


王は、静かに問いかけた。


「お前を選んだ神託者は、誰だ」


スクラは信託者の名を告げた。


王は、目を伏せる。


その名を――

この国に、これ以上残してはならないと判断した。


「……下がれ。治療を受けよ」


勇者たちが退出した後、

王はスクラにだけ、低く告げた。


「その神託者と臆病者を消せ」


「処刑ということで?」


「違う」


王は言い切った。


「“最初から、存在しなかった”ことにする」


偽物の役は、この物語には不要だ。


王はそう確信していた。


――第一話・完


勇者とは、

役であり、称号です。

神託だと誰かが言って量産できるものではありません。


王が勇者に対して

「運命により必然」で物事が進むと最初は思っています。

しかし違います。

選ばれた上で、そこに辿り着いたものが勇者であったということなのです。


「選ばれた上で倒すことができる」


たまたまサイだけが、

役と運や実力をそなえた存在だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ