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8−15 巡行の狙い

 夕食後のお茶の間に、私は口を開いた。

「ねぇ…」

「ああ、もう一段落ついたから、知っている事は何でも答えてやるぞ」

ヨハンの口ぶりに子供扱いの匂いがしたので、私は質問方向を少し変えた。

「私の南部巡行が罠として、東の第三騎士団が北の制圧に向かったのも罠だったの?」

「いや、東部駐留の第三騎士団の移動は偽装して行われた。王都の南側を移動したし、北部の連中には意図を気付かれなかっただろう」


「じゃあ、その意図は何?」

「前にも言ったが、国が抱える兵力とはその国力に見合ったものだ。臨時に招集する兵役があるにせよ、一般的には農閑期だけだ。だから、用兵とは限られたリソースを上手く配分する事を意味する。今回は北部に隙を見せない為に東部の兵を用いた。理由は分かるか?」

「つまり、北部に向けた兵を動かさずにアシュリー伯爵領を制圧する必用があった?」

「そうだな。王家と北部とには協約があり、魔獣の南下を北部で押し止められない時、王家はサーバント川の南岸で魔獣を阻止する、それを北部が受け入れる代わりに、北部には中央への納税の軽減措置と、兵力査察の簡素化措置が取られている」

「え…つまり、非常時には北部を見捨てると!?」

「もちろん、サーバント川が小川である西部寄りの北部は王領を設置して魔獣狩りを騎士団がやっている。サーバント川以北は独立性を高めて、自助努力を促す協約だ」

「独立性を高めたら、独立の機運が起きない?」

「そう。そこで扇動家が蠢いた訳だ」


「う~ん、つまり、ラッセルの蠢動は王家にも責任があると…」

「とまでは言い切れないけどな。普通に考えれば、魔獣対策で戦力はいくらあっても足りない。その戦力を反乱で消耗すれば、次の春に北部が滅ぶ可能性すらある。そういう理性が働かなくなるのが、感情論で人々を唆す扇動家の罪だ。連中がやっているのは詐欺だ。刹那的な利益や見栄や人間の暴力性に訴え、理性的な判断を阻害し、結局自分のみ利益を得ようとする。扇動家が通った後には憎しみ合う国内勢力が残り、外国からの侵略に耐えられなくなる」

「いや、反乱勢力が国を纏める可能性もあるんじゃない?」

「無理だ。扇動家はまず民衆に既存の権力を憎む様に唆す。偽情報で憎しみを植え付けられた人々は、もう真実を見極める事が出来なくなる。公式発表を疑う様に仕向けられているのだからな。そうなると、反乱勢力内でも疑心暗鬼になる。デマ一つで誰かを憎む様に仕向けられるからな」

「え~と、既存権力側と反乱側が憎しみ合い、反乱側内でも憎しみ合う様になると」

「信じられるものを無くす事が扇動の基本だからな。だからエリザベスもまず足元を崩された」

「あっ…」


「まあ、いずれにせよ、権威を憎ませる、これが扇動の基本だ。だから聖女候補も憎ませた訳だ」

「…治療して回っているだけなのに…」

「善を悪に書き換える扇動家が絶対悪だという事は分かったな?」

「うん…」


「と言う訳で、王家としてはラッセルの息の根を止める必要が出て来た訳だ。それでまず城を一つ落とす事にした。その為の餌が聖女の南部巡行だ」

「国にとっては良い事でも、餌にとってはたまったもんじゃないんだけど…」

「済まんな、文句はリチャードに言ってくれ。あいつとその親父が決めた事だ」

「お情けで貴族令嬢をやらせてもらっている身としては、そこに文句は言えないでしょ…」


「それはともかく、そういう訳でアシュリー領を奪う事にしたんだが、その結果ラッセルの反乱が始まるのでは意味がない。だから、サーバント川南岸の兵力を動かさずにアシュリー領を制圧する必用があった。そういう理由で、東部の兵を動かした訳だ」

「つまり、ラッセルと対峙しない兵力を動かしたと」

「ああ、また、東部の兵力には特色がある。東部の騎士団は何と対峙している?」

「黒い川を渡って来る敵?」

「そう、シュバルツブルグが主な仮想敵となるが、現時点で俺の親父がこの国を攻める理由がない」

「まあ、友好的な関係だけど」


「そうじゃない。俺とお前に関しての報告書が親父に回っていてな。シュバルツブルグの聖女候補が聖女になろうが、この国の聖女候補が聖女になろうが、どっちにしろシュバルツブルグのものになる。だから、聖女審査をさっさと終わらせたい訳だ。つまり、聖女審査が終わるまで、特にお前が聖女になる可能性が高い内はこの国を攻める事はない」

「計算づくの友好関係…ちょっと!気になる発言があったんだけど!?」

「まあ、そこは今度話す。聖女はいざという時にこの国とシュバルツブルグ、両国の貴族議会と王家の仲介をする大事な権威だ。それが不在な状態は早く終わらせたい。だから今俺の親父がこの国に介入する事は無い」

「え…と、簡単に言うけど、その役目を私に押し付けるつもり?」

「我が聖女は慈悲深い女だ。必用な役目は務めてくれると信じている」

私としては無言でヨハンを睨む以外に出来る事は無かった。


「そういう訳で、現在の東部の兵は遊兵だ。だからそれを利用するのが一番良い。また、川べりの広い範囲を守備している東部騎士団は騎馬が多く機動力に勝る。アシュリー領の電撃侵攻には一番適していた訳だ」

「餌を使った理由と、東部の兵を使った理由は分かったわ。でも、黒い川の川べりを無防備にしていいの?」

「無防備じゃない。農閑期だからサマセット公爵領の農民を兵役と労役でひっぱり出し、河畔のやぶ狩りをやって渡河した兵や手引きをする裏切者が隠れる場所を無くしている。まあ、人気があるから渡河はしづらいと言う事もある。サマセット公とファインズ候は例のサイクロプス事件でラッセルが無責任な事を議会で責めている。ラッセルに痛手を与える事には喜んで協力してくれた訳だ」

「ああ、貴族の面子を利用した訳ね」

「まあ、恩賞は必要だろうがな」

 今ひとつ上手く説明出来ていない気がする…読んで分からなかったらごめんなさい。

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