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8−9 聖女候補の南部巡行 (5)

 カーライル領を出たテティス達は、子爵領に入った。歓迎の場で子爵は言った。

「北部と違って南部には鳥獣被害が少ないとは言え、農地収入はどこも伸びを欠いていまして。祝宴がささやかになってしまい申し訳ない」

「いえ、お気遣いなく。聖女候補に過ぎない私は、何かを要求する立場には無いし、余裕が無い事はよく存じております」

他の領地を見て思うのは、南部においてもどこも裕福でないと言う事だ。農業中心であるため投資の失敗などと言う大きな損害など無いが、商業流通の発達から取り残されて金の流れが少ないから発達も少ない。それでも魔獣討伐の重い業務が無いだけマシかもしれない。北部はもちろん、西部でさえ魔獣被害で領政が逼迫してしまっているのだから。


 この地での治療行為も様々な症例を見せられ、治療方法も分からない事が多い為、一つ一つの治療の経緯を書き残しておいて後でカミラ女史に検討をお願いする事にした。


 ただし、聖女候補という額縁に入れられた私の評価は各地で良好だった。

「さすが聖女候補なだけはある。お美しい上に治療の才能も絶大だ」

「早く聖女様になって、我が国を救ってくださいね」

…いや、私、本当に水魔法使いなんで、治療も聖女も他人事に思えてならないんだけど。


 人々の前では作り笑いを浮かべながら、いただく言葉と自分の正体との差異や、治療能力の限界に悩む私を近くで見ていたヨハンが話しかけて来た。

「数々の治療を成功させて、自信を深めたって顔じゃないな?」

「…成功しているのかが分からないの。出来る事をやっているんだけど、これが正解かどうかが分からない」

「もちろん、満点じゃないだろう。誰も満点の治療を分かっちゃいないんだからな。医療とはそういうものだ」

「医師の先生なら経験を積んで適切な治療を理解していると思うけど…」

「人間の身体は十人十色だ。治療に正解など無いと言うのが経験を積んだ医師の言葉として正しいと思うぞ」

「それでも経験から正解に近い方法を導き出すでしょう…」

「こうして経験を積んでいるところだろう?足らざるを知るのが学びの成果だ」

「…そこは謙虚に学んで行こうと思ってる。一方で、何か『聖女』だから綺麗に見えるみたいに言われて戸惑って…」

「背景が主役を映えさせる事はあるさ。それでも、本当に醜女ならそうも言われない」

「…聖女候補になる前に私の見栄えなんかを認めてくれた人がいるのか、と思うと…」

「目の前の男が認めていただろう?それに、田舎娘が都会に出て綺麗と言われるように成長する事はよくある。とりあえず胸を張って聖女候補をやる事だ。それにふさわしい見栄えはしてるんだ」

「醜女で治療が凄い人と、治療はそこそこで見栄えもそこそこではどっちが聖女っぽいかしら」

「人それぞれに価値観がある。お前が思っているよりは評判が良い事は誇れば良い」

「…この間は言葉に踊らされる事もあるって言ってたじゃない」

「お前の場合は魔法の実力が聖女の実力である、と理解しているだろう?だからそこを磨く事を考える事だな。少なくともこの巡行中は」

「そうね。見た目はとりあえず後回しよね」

「王都に帰ったらまたドレスを買ってやる。餌に釣られて頑張れよ」

「物で釣れると思っているのね?」

「言葉が届かないから物で釣ろうとしているんだ」

「…ごめん。言葉はしっかり噛みしめます」

「まあ、そこまで殊勝にならなくてもいい」



 テティスは餌だった。だから破壊工作の為に王都を迂回して南部に流れる物資は要所に控える第二騎士団が摘発していった。第二騎士団の臨時司令部には毎日情報が入って来た。

「麻薬、弓矢、軽武装と見つかっていますが、大荷物は見つかっていません」

「敵さんも急な話に対応しているから、重武装を移動させる余裕はないのだろう。そもそも狙いは聖女候補だ。短剣と毒で事足りる」

「北部からは聖女候補を出さない、そして数少ない聖女候補を暗殺する、その目的は何でしょう?」

「王国から聖女候補が出せなければ、当然シュバルツブルグの聖女候補が聖女となる。そうなれば我が国王家としては赤っ恥だろうよ。まだ聖女候補を出して負けるなら仕方が無いが。やはり王権簒奪を狙っているとしか思えん」

「それに対して、我々の防護体制は充分とは言えませんが…」

「聖女候補自体が優れた攻撃魔法・防御魔法の使い手だと聞いている。それに、どうせ実行犯は分かっている。そこで問題が起きた時に駆けつける白馬の騎士がいれば良い訳だ」

「はあ、リチャード殿下でも駆けつけられるので?」

「リチャード殿下は北部捜査の指揮をとっておられる。王都防護は王太子のトーマス殿下が第一騎士団を統括しておられる。まあ、それらしい味方が颯爽と現れるだろうよ」

「第二騎士団としては他人事なのですか?」

「まあ、俺達は捜査と摘発が今回の役目だ。まず与えられた任務を果そうじゃないか」

「仰る通りですね」

 繋ぎが上手く行かなかったので、半分半分の合体話になっております。


 例えば野球少年が正しい目標を知ること無く、壁にボールを投げて跳ね返ってきたボールを捕球する練習だけ続けている状態。指導者がいない人は辛いでしょうね。楽天に入った大学生は少年時代には畑で捕球練習をしていたとか。結果プロに入れたとしても、それが正解かどうかは分かりませんよね。

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