2−1 クラスメイト
大講堂で入学式が行われた。最前列には特待生が並んで座った。左から家の爵位の高い者順に並び、右よりに三人の平民扱いの者が座った。その一番右にアルベルト商会の子供を名乗るヨハン王子が座った。王子並みの魔力があれば当然特待生になるのだろう。私は伯爵家出身だけれど、女性だから右端に座った。ヨハンの右になる。
学院長の祝辞はよく聞こえた。多分風魔法で伝達しているんだろう。新入生の答辞はジェラルド・ファインズ侯爵子息だった。次期侯爵だから当然だろう。同い年にしては固い喋りに聞こえた。次期侯爵だけに大人な発言が求められるのだろうか。大変だろうけど他人事だ。きっと仲良くはならないし。危険人物その2だから。
教室に戻ると簡単な入学説明の後、自己紹介が始まった。特待生は上位貴族中心の1組に属する。特待生は魔法アカデミーの研究員または魔法兵の候補生で王家預かりだから、自己紹介が最初だった。八人の自己紹介が終わったところで、私の隣に座るラルフことヨハンが自己紹介に立った。
「ラルフだ。アルベルト商会の商会長の息子だ。若干言葉が拙いところがあるが外国生まれのせいだから気にしないでくれると嬉しい。魔法属性は火だ」
ヨハンがちらりとこちらを見ながら座る。だから特待生の最後の十人目として私が自己紹介する。
「テティス・カーライルです。水属性です」
上位貴族の子女もクラスにいるから、目立つのはよろしくないし、そもそも田舎で過ごした私は王都に知人がいない。だから超簡略化した自己紹介になった。
ここからは爵位が上の家の子女から順に自己紹介となる。
「サマセット公爵家のプリシアです。お見知りおきを。魔法属性は土属性です」
公爵家のご令嬢は、濃いめの化粧をしている割りには地味な土魔法師だった。入学生の答辞がこの人でなかったのは、辞退したのか侯爵家の嫡男を優先したのか。辞退したのなら奥ゆかしい人なのかも知れない。
「ファインズ侯爵家の長男、ジェラルドだ。魔法属性は火属性だ」
…この男に関わると未来の侯爵夫人の座を狙う女達に袋叩きになる訳で。綺麗な薄い金色の髪を伸ばして、首の後ろで纏めている。白い焼けていない顔はまだ若年故の可愛げを残しているけれど、中々の色男だ。嫡男でなくてもこの顔で女の子の人気は集めるだろうね。まあ、ヨハンのお友達役になった以上、この男と必要以上に話す事はないよね、きっと。
そして、いくつかの伯爵家の子息の後で、いらいらした態度で自己紹介を始めた少年が、危険人物その3だった。
「カペル伯爵家の長男、ダミアンだ。主家のラッセル侯爵閣下の為なら命を賭けるつもりだから、皆、そのつもりで付き合うが良い。属性は土だ」
…知らんがな。他人に聞かせる必要のない事を口にするこの男は、やはり危険人物だろう。決して近づかない方が良いと思う。ちらっ、とヨハンを見ると、面白そうな顔をしていた。そうだろうね。王家に忠義を誓うならともかく、人前で他の貴族への忠誠を口にするのは、隣国とはいえ王家の人間には嘲笑の対象だろう。そしてこのダミアンが先程ヨハンに絡んでいた男の一人だった。こうなると、こいつがヨハンと何らかのトラブルを起こす度に仲裁しないといけないらしい。貧乏くじだよね。
この日は日程の説明と各種書類を渡されただけだった。だから昼前に授業は終わった。
特待生の寮は他の貴族寮、平民寮からは隔離されている。男子寮と女子寮の他に特待生食堂も壁に囲まれた中にある。ヨハンはその中の個室の予約を取っていたとの事で、私の分の食事もそこまで運び込まれた。
「さて、これからの予定だが、午後には魔法練習場を予約してある。友人なら付き合ってくれるだろう?」
「あ、私も予約してあるんですが…」
「友人同士だ、敬語は止めようや」
「ああ、そう…じゃあ、私の予約分を取り消してからそちらの予約した練習場に行った方が良いわね」
食事の後に各自休憩をした後の待ち合わせ場所に、ヨハンは一人の侍女を連れて来た。私に悪い噂が立たない様にする為の配慮か、ヨハンに悪い噂が立たない様にする為の配慮かは分からない。
ヨハンの予約した魔法練習場は、上級魔法の練習用の特別練習場で、高く厚い壁に囲まれた広い練習場だった。この外部の人目に付かない様になっている練習場で、男性の中に女一人(ヨハンは当然私服の護衛を連れている)なのは悪い噂に成り兼ねない。侍女を連れて来る訳だわ。
その中で低い壁で隔てられた魔法投射の目標領域に対して、ヨハンは長い呪文を唱えて範囲魔法、ヴァルカンを発現させた。20ft四方に高い火柱を起こす魔法だった。熱いよ、4月始めだと言うのに。
「消してみろ」
ヨハンに言われ私はウォーターフォールで消そうとするが、もっと狭小な範囲に大量の水を落とさないと消せないと思う。
「無理!」
「ふん、王族の範囲魔法をそう簡単に消せる奴がいたら困る」
無理な要求をしないでよ!まあ王子なんてこんなもんか。俺様野郎!ヨハンは軽く手を振っただけで火魔法を消した。火魔法使いは後始末が出来ないと務まらないんだろうね。
「氷結系の魔法は使えるか?」
「ボールと壁とランスは出来るけど」
「じゃあ、やって見せてくれ」
アイスランスを打ってみる。どすん、と的の隣の地面に突き刺さる。的を歪めたり曲げたりして怒られるのが嫌だったから横に打ったんだ。
「固そうだな?」
「これで高台の粘土質の川岸を掘っていたら固くなったの」
「何でそんなことを?」
「川の横に増水した時に貯める池があったら日照りの時に役に立つと思わない?」
「役に立ったか?」
「私が物心ついてからは領地に日照りや干ばつは起こってないわ」
「幸運だったな」
「変に役に立つと、領地の水撒き女として一生こき使われそうだものね」
「親はそういう人でなしか?」
「そこまで酷くないけど、姉の婚約者が冷たい人だから、私を家族扱いはしそうにないの」
「なるほど、ところで一つ忠告をしてやる。アイスランスの硬度を落とせ。つまりそこまで冷やすな、という事だ」
「え、どうして?」
「特待生として試験では実力を見せて良い。だが、普段の練習で殺傷能力のある魔法を使うのは不味い」
「ああ、手違いで事故を起こしたら大変だものね」
「それもあるが、爪を見せるのは良い。戦う武器があると知らせるのは他者への抑止になるからな。だが、殺傷能力まで見せると今度は脅威と見做され抹殺の対象になる。程ほどにしろ」
「…まあ抑える方向ならそれ程難しくないから、自重するわ」
魔法練習を終え、テティスと分かれて特待生の男子寮に入ったヨハンと部下達は特別室に入る。特別室は見張りの立つ扉を通った先にある特別待遇の部屋で、護衛と侍従の仮眠室を持つ、上位貴族以上の立場の者向けの部屋だ。もちろん、上位貴族ならタウンハウスから通うから、こんな部屋を使うのは外国の貴人だけだった。
「それで、まず調査すべきは初日に殿下に絡んだ男二人ですか」
「一人はダミアン・カペルだ。同じクラスだから今後とも余計な事を仕出かしかねないが、身元を押さえてしまえばどうにでもなる」
「もう一人は三組の人間の様です。リチャード殿下の部下に確認を依頼しています」
「まあ、何なら先に殴らせてから半殺しにしてやる。所詮は雑魚だ」
「それでは、テティス・カーライルの調査を主に進めるという方向でよろしいでしょうか」
「お人よしの上に押しに弱い女だ。まあ毒にも薬にもならないだろうが、根が優しい女だから、多少は振り回してやるのも悪くない」
護衛も侍従も、この王子が素直でない事を良く知っている。素直に優しい娘とつき合ってみたいと言えないのかね、と心の中で呆れた。
黒猫、寝落ちしてないよ!?入学式のシーンが入ってなかったので急遽書き加えたから遅くなっただけだからね!
今日はファミレスで書こうとしたら、何か会社で見たような人が隣に座ってたのでPCが出せませんでした。『異世界魔法小説書いてます』って会社の人には言えないよねぇ…明日は頑張って書き進めたい…




