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8−8 紛糾する貴族議会

 閣下がやかましいです。嫌いな方は一回休みでお願いします。

 アシュリー領討伐作戦が行われているのを知ったラッセル侯爵が、臨時貴族議会の招集を依頼した。

「王家が貴族の領地を不当に蹂躙している!貴族議会で速やかな停止勧告決議を行うべきだ!」

議長は冷静に応えた。

「不当かどうかは宰相と騎士団の報告を聞いてから考えよう。宰相からは事の次第を、騎士団からは現状報告をしなさい」

宰相は猿に噛みつかれない様に簡潔に報告した。

「アシュリー領から出た商人の馬車を取り押さえたところ、怪しい薬物が出た。かねてから怪しいと目されていた酒類醸造設備を調べたところ、麻薬の原料が発見された。証拠がある故、騎士団に指示して迅速に制圧した。これに対しアシュリー領側が抵抗して来た為、現在戦闘が続いている」

実は商人の馬車を取り押さえたのは醸造設備の調査結果が出てからなので前後が逆だが、証拠を確保した事は確かである。


この発言を聞いてラッセル派の貴族達が騒ぎ出した。

「冤罪だ!証拠なんて捏造だ!」

「滅ぼしておいて証拠が出てこないなら、王家も宰相も騎士団ももはや貴族の敵だ!」

議長は木槌で音を立てて警告した。

「今後、発言許可を得ずに発言した者は即刻拘束し、議場から追い出す。議会のルールを守らぬ者には議員の資格がないと思い知れ!騎士団は続けて報告する様に」

「拘束された馬車の商人からの聞き取り結果から、アシュリー領の4個所の制圧が完了しております。これらの拠点の北側の交差点まで騎士団が制圧しており、その南の村落は王家に恭順の意を示しています」

議長は続けての報告を促した。

「戦況はどうかね?アシュリー伯爵は現在この議場に出席していない。彼の本隊が現場に押し寄せて来るのではないか?」

「現場周辺の街道は封鎖しております。散発的な攻撃はありますが、野戦築城の仮陣地を突破する程の戦力はまだ来ておりません」


 これに対してラッセル侯爵が発言した。

「貴族の領地経営の権利を侵すものだ!貴族議会として決を採り、騎士団の即時撤退を要求すべきだ!」

これに対して議長は冷たく突き放した。

「麻薬が見つかっている以上、王家と騎士団を貴族議会は掣肘出来ない。ただの疑惑でここまでやるなら君の言う通り冤罪の可能性もあるが、私も麻薬を見せて貰った。議長としては本件に対する議会の介入は認めない」

「麻薬など捏造だ!王家は目ざわりな北部貴族を狙って叩こうとしているのだ!」

「何故、証拠を見もせずに捏造だと言うのかね?君の領地ならともかく、アシュリー伯爵の領地内で何が行われているか、君が全てを知っている訳ではあるまい?捏造だ、冤罪だと言う確かな根拠を示すか、その口を閉じるかどちらかにしなさい」

「議長は私を愚弄するのか!?公平さを欠く議長の解任を要求する!」

「愚弄も公平さを欠いている訳でも無いよ。いつも君が言っているのは、『証拠が無ければ冤罪だ』だろう?今回、証拠があるのに証拠を見もせずに否定する、それこそ公正さに欠ける言動だと考える。そしてアシュリー領の内情を私も君も詳しくは知らない。そこに何があるかを知らずに冤罪だ、捏造だと騒ぐのはおかしかろう?では、君と西部、南部、東部の代表と議会の監視委員を視察に向かわせようじゃないか。視察が終わるまでアシュリー家は現場への攻撃を控える、騎士団もこれ以上の北上は控える、それなら公平だろう?」


「断る!王家が演出した茶番に力を貸すつもりは無い!」

ここでファインズ侯爵が挙手し、発言した。

「君はいつも自分の陣営の罪は絶対認めない、一方、他人の疑惑は徹底追及しようとする。いい加減そんな不公平な言動は止めてくれないかね?カーライル家の内紛についてまで理由もなく口を突っ込もうとしたじゃないか。今回、証拠があるのに否定するが、まずその証拠を見て本物か偽物か確かめてみてはどうかね?そして、アシュリー領の現状も実際に見て、それからいくらでも文句を言えば良いだろう?」

「断る!今回の件は王家からアシュリー伯に対する悪意に基づいて起こっている!まず騎士団の完全撤退!それ以外は認めない!」

「だから、その発言の根拠となる証拠を示し給え。あるのか?証拠が?」

「証拠がアシュリー領から見つかったと言う証拠こそ無い!それがアシュリー領から見つかったと言う証拠こそ見せて見ろ!」

「だから現地の視察をしようと言っているんじゃないか。すぐに行かないと、それこそ後から設備を運び込んで、捏造する事も可能になってしまうだろう?君はいつも困った状況になると駄々をこねるね。ここには君のパパとママは一人もいないんだから、誰も君の為に譲ったりしないよ?」

「貴様!私を愚弄してただで済むと思うなよ!!」

立ち上がったラッセル侯爵に対し、護衛騎士が現れてその前に立ちはだかった。


 議長はさすがに口論が続くのを嫌がった。

「では、議会からメンバーを選抜して現場の視察に向かう。その間は停戦する様に書簡を用意するから、ラッセル候はアシュリー伯に持って行ってあげてくれないかね?君が彼等のリーダーなのだから、そのくらいはしてくれるだろう?」

「断る!私は断じて王家の陰謀に加担しない!」

「仕方ない。グラントン公、お願い出来ますか?」

「もちろんだ。そのくらいはアシュリー伯の為にさせて貰おう」

こうして議会側は停戦交渉を始めた。王家側は設備を抑えているからそのくらいは待つつもりだった。

 尊敬して欲しければ、尊敬される様な人になれば良いだけですが、負け惜しみの様に「尊敬しろ」と言われてもねぇ…年中ウソついていて、それで尊敬される訳がないじゃないですか。

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