表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/111

8−4 北部捜査 (1)

 ポーレット侯爵家にて周辺の下位貴族との顔合わせは終わった。だから、次に二泊する場所はカーライル家の領主館となっていた。カーライル領は伯爵領とは言え、田舎で農地しかない。宿泊設備などどこにもなかったのだ。


 南下していく馬車の中で、ヨハンが話し出した。

「クマゲラ戦法というのがあってな」

「ああ、あの頭が赤い子ね。あの鳥がどうしたの?」

ヨハンが項垂れてしまった。話を弾ませるために合いの手をいれたんじゃない!何よその態度!


 数秒でヨハンは頭を上げた。

「頭が赤いのは重要じゃない。そいつが啄木鳥である事に意味がある」

「そうね、啄木鳥の一種よね」

「クマゲラはどうして木をつつくか知っているか?」

「え、木に穴を開けて、中にいる虫を食べるんじゃないの?」

「まあ、それもするが、音と振動に驚いた虫が逃げ出すのを待って、穴から出て来たところを食べるという目的もある」

「あら、頭が良い。それで、私達の南下が木をつつく事だと言うの?」

「…お前は時々鋭いから困るよな」

「だって、あからさまに怪しい南部巡行だもの」

「まあな。王家も流石に王宮で聖女候補を狙ったという犯行は放置出来ない。その報復も考えねばいけないし、また相手が必死に隠すものが北部にあるなら、木をつついて出した顔を叩けば良いと考えたんだ」

「リチャード殿下が私を餌に使う度に、餌が食われそうになるんだけど」

「まあ、お前が正気なら守り切れるだろう。お前がキレたら、俺が全部燃やしてやる。だから俺が付いて来ている」

カーライル領なら何も無いと思うけど、他の領地で私が対処出来ないと大火で大損害になる訳だ。実質私が防ぐしかないじゃないか…ん?何故今その話をするのか?


「動きがあったの?」

「そういう事だ。北部各地に日頃から隠密を侵入させているが、その人員をアシュリー伯爵領に集中して奴等の対応を見ていた。動きのあった設備4つに隠密が侵入して、その内2つは醸造施設だったが、麦以外の植物が発見された。麻薬または毒物の研究・生産施設である可能性が高く、第二騎士団がアシュリー領の検問所を攻め落とし、第三騎士団の軽騎兵が醸造設備の制圧に向かった」

「何で騎士団は第二だったり第三だったりするの?」

「各方面に穴を開けられないから部分的に動員したというのもあるが、アシュリー伯はもう王家を脅かす外敵扱いとなったという事だ」

第二騎士団は国内貴族相手の警察行動が主任務であり、外敵に対応するのが第三騎士団と役割分担が決められているのだ。


 北部アシュリー伯爵領には通常の5倍の数の隠密が侵入していた。その小隊リーダーの元に報告が入った。

「アシュリー領中部の醸造設備から荷物が運び出されました。荷馬車2台分です」

「アシュリー領中東部の庄屋の倉庫とやらで人の出入りが激しいです。覗き見ると醸造設備らしきものがありました」

「転用して薬物生産に使われている可能性があるな。隣の領地の前線司令部に連絡を入れろ」


 こうしてアシュリー領南部の子爵領に極秘に終結していた、東部王領から移動した第三騎士団、および南部から移動していた第二騎士団の合同司令部に連絡が入った。

「よし、アシュリー領検問所を制圧する」

その日の晩の内に子爵領内のアシュリー領検問所に隣接する農村の倉庫に襲撃部隊と第三騎士団軽騎兵隊が移動した。未明を待って襲撃部隊が移動を始めた。


 夜目の効く団員が検問所付近の柵を迂回して検問所に忍び込み、放火した。

騒ぎ始めた検問所の宿直の者達を尻目に、子爵領側から攻城槌が接近して木製の門を破壊し、第二騎士団が検問所を制圧した。


 近くの町に戻っていた検問所の兵がやってくる前に、第三騎士団の軽騎兵隊が目的地目指して走り去っていった。検問所の兵が押し寄せて来たが、第二騎士団とは兵力が違ったから、一方的に制圧された。


 もう一つの検問所も制圧されたが、こちらはもっと簡単だった。所長が買収されていたのだ。宿直の者が門を開け、検問所施設を司令部として部隊が黙々と野戦築城を行った。農閑期の農民も有償で動員されたから、アシュリー伯爵側の兵が気付く前に空堀とバリケードの防御設備が出来上がってしまった。


 正規に醸造所として中央に届け出て会った醸造所は大規模だった。ところが、奥の設備は改造され、小規模の薬品の反応設備となっていた。夜間に侵入した隠密は、麻薬の原料である草の根を大量に発見した為、仲間を呼んで設備を内側から閉鎖した。

「上の明かり取り窓の所に監視の弓兵を待機させろ。外に知らせて近隣の林に弓兵を展開させろ」


 こうして夜が明けて作業員がやって来る頃、ようやくアシュリー家側は異変を知った。強制的に扉を開けようとした者は弓兵に殺された。近隣にいたアシュリー伯の警備部隊が五月雨式にやって来ては弓兵に殺された。本格的な制圧隊がやって来る前に、第三騎士団の軽騎兵隊が到着し、逆に防御を固めてしまった。

「これは明らかに麻薬の原料の一種です」

隠密から証拠を得た軽騎兵隊の隊長は、連絡兵にその証拠を持たせて検問所まで走らせた。ここにおいて、騎士団のアシュリー領侵入は大義名分を得た。


 もう一か所の醸造設備は中央に届けていない、秘密の醸造所だった。だからこちらは制圧しさえすれば証拠と出来た。アルコールの製造は許可制だったのだ。おまけにやはり麻薬の原料が見つかった。


 両設備からの連絡を受けた子爵領内の合同司令部は、本格的にアシュリー領内に侵入を始めた。既に子爵領では臨時の志願兵を農民から集めていたから、検問所ならびに各街道の交差点では歩兵部隊が進出し、アシュリー領内の兵の移動を制限した。


 ここまで事態が王家側有利になってしまうと、各農村は村長が話を纏めて王家と騎士団に対する恭順を示してしまった。こうして、一日にしてアシュリー領の追加動員能力は半減してしまった。


 アシュリー伯爵がリーダーと仰ぐラッセル候には平民の間に良い評判が無かった。嘘つきの無責任野郎と農民にまで知れ渡っていたのだ。真面目な労働を身上とする農民達にとって、口先だけの男は尊敬に値しなかった。だから急速な離反が進んだのだ。

 最初は「アカゲラ戦法」でした…念の為調べたら、頭の天辺が赤いのはクマゲラだと分かり、急遽「クマゲラ戦法」になりました。ちなみに、当然アシュリー領では「ホラ吹きアクセル」の劇は上演されていません。でも、悪評って人の間に広がるよね。


 明日はテティス主体のお話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ