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8−3 いつも通りの貴族議会

 テティス達が王都を出発する前後、貴族議会が開かれた。アンドルー・ラッセル侯爵が挙手して発言許可を求めた。

「カーライル伯爵家の当主が引退届を出し、弟である領地管理の代官が伯爵代行になった。本件について王家が不当な圧力をかけた疑いがある。これについて調査を要求する!」

これには議長の許可を得て宰相が答えた。

「それについては家督相続に関わる家庭の事情なので、議会で議論する内容ではない。また、男系相続の基本に則った判断であり、これも議会から意見を求める内容ではない。君は議会で女系相続を正当なものと議決を取りたいのかね?それとも女性も貴族議会に出席させるべきと議決を取りたいのかね?」


「宰相は議論を逸らしている!私は家督相続について王家が不当に口を出したのではないかと言っているんだ!」

「その証拠がなければ冤罪だ、と君は先日決めつけたではないか。今回は確たる証拠があるとでも言うのか?」

「証拠がなければ議論も捜査依頼も許さぬと言うのか!?それは貴族議会の存在価値を否定する発言だ!撤回を要求する!」

「それは、君が言うところの『証拠がなければ冤罪だ』をそのまま適用しているだけだよ。君がカーライル家に関する調査を要求すると言うのなら、同様に疑惑のある君の領地での麻薬調査と聖女候補調査を要求する」


「宰相がまた議論を逸らしたぞ!カーライル家の騒動に前後して、私の息子のペトロが行方不明になっている!これに関してカーライル家の騒動が関係している可能性がある!よって、貴族家の子息の捜査に絡めて王宮の調査を要求する!」

これには議長が答えた。

「君は長男のペトロを既に勘当しているではないか。もう貴族子息ではないし、君はそれについて捜査を要求する立場にはないぞ」

「縁を切ったからと言って情がないとでも言うのか!?私は息子を心配しているんだ!王家に殺されたのではないかと!」


議長は溜息を吐いた。

「宰相、騎士団に命じて証人を連れて来なさい」

「承知しました」


 そうして、証人が連れて来られた。議長が証人に質問した。

「証人は名を名乗り給え」

「王宮で働く文官、ペトロです。就職時はラッセル家の子供でしたが、その後に縁を切られております」

「そういう訳で、君の子息は生きているよ。良かったね、ラッセル候」

アンドルー・ラッセルは一瞬怯んだ顔をしたが、すぐに興奮した顔を作った。

「誰だ!そいつは!!私の長男はもっと利発な顔をしている!議長も騎士団も宰相も嘘を吐いている!私の息子は何処だ!?息子を返せ!!」


議長は呆れた顔で言った。

「良かったね、ペトロ君。今後彼は君の事を息子扱いしないそうだ。もっとも、とっくに勘当しているから息子扱いしない筈だがね」

ペトロは頭を下げた。

(例によって都合が悪くなると惚けて責任を取らない。あんたの中ではこれで辻褄が合っているんだろうが、こんな猿芝居を見せられる家族がみじめなんだよ。そして、貴族当主達の前で親子関係を否定された私が一番みじめじゃないか。こうなると分かっていて私を晒しものにした貴族議会も宰相達も、所詮私の事はただの駒としか見ていないんじゃないか)


 そこでグレゴリー・ファインズ侯爵が挙手をして発言を求めた。

「ところでアンドルー君、何故ペトロ君が王宮に保護された事とカーライル家の騒動がリンクしているかの様に言い出したのか教えてくれないか?」

「相変わらず東部の貴族は無礼だな?質問する前に礼儀を示せ!」

「例によって理由も示さず疑惑を振り撒き、自分の立場が危うくなると猿芝居で逃げようとする君に礼儀を示す者などここにはいないよ。紳士でない者に礼儀を示す者など、君の仲間以外にはいないのだから。それで、質問に答えないと言う事は、答えられない理由があると判断するが良いかね?」

「我が息子が騒動に巻き込まれたと噂が流れているんだ!心配しない親などおらん!」

「そんな噂は聞いた事がないがね。諸君、そんな噂を聞いた者はおるかね?いるなら挙手して証言してくれ」

ここで挙手をするという事は、前回の宣言通りファインズ侯爵家とサマセット公爵家に目を付けられるという事だったから、誰も挙手をしなかった。


「見ての通りだ。君はどこでそんな噂を聞いたのかね?」

「家中の者からだ!そういう噂があると報告してきた!」

「ああ、家中の者がデマを流したが、この様子だと不発だった様だな。ご苦労な事だ」

「貴様!ここまで私を愚弄してただで済むと思うなよ!?」

「ああ、私の息子も養女も危険に晒した件について、何の釈明もせず責任も取らない君の無礼を私も忘れていないよ。じゃあ、議長、この件でこの猿から受け取れる情報は無い様だ。議事を進める事を要請する」


 王家に対しての不平不満を、皆を代表して大声で発してくれるならラッセルは頼りになる侯爵だが、こうして対抗する侯爵に言い負かされてしまえばただの猿だった。


 ラッセルに大望があるなら、ここでファインズ家に更に喧嘩を売るような真似は避けるべきだった。王家に対する不満を持つ者の緩やかな集団を作り、王家退くべしという雰囲気を作るべきだったのだ。ところが最早ラッセルに与するという事は、ファインズ・サマセット両家との喧嘩に巻き込まれるという構図になってしまった。こうして今後ラッセル派が増える事は望めなくなってしまった。ひとえに彼が刹那的な勝利を求める感情論者に過ぎないからであった。


 ラッセルを担いで北部の利益を得ようとするアシュリー伯爵は嘆息するしかなかった。しかも、聖女候補の南部巡行に対して、今回の報復として大規模な襲撃を行う様指示してくるのは明らかだったから。

 議会がこれで、だから国内があれになる訳ですが、一方テティスは…と言うのが8章の基本構造の予定です。


 あとがき追加。ペトロに対し、クリフォード男爵の家臣が凶行の後の帰りの道案内を依頼した件、そこで口封じをする為に呼び出す意味がありました。その結果がラッセルには分からないから、ここでそのネタを口にした訳です。

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