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8−2 聖女候補の南部巡行 (1)

 ある土曜の午後、聖女候補教育の時間を圧迫して、テティスの採寸が行われた。

「外出用のローブを複数作ります」

カミラ女史の助手がそう告げた。

「聖女候補として外出すると言う事ですか?」

カミラ女史が応えた。

「王家がね、聖女候補に南部巡行をして欲しいって話なんだ。思う事はあるだろうが、費用は向こう持ちで旅行が出来るんだから、素直に楽しみな」

「楽しめる事なんですか?」

「各地で数十人の体調不良者を治療する練習が出来るっていう有難い話だ」

えー…そこまで治療が上手くないんだけど…

「その、そういう事は前回の聖女候補達も行ったんですか?」

「やる訳ないぞ?優劣を競う中で人助けをする余裕なんてあるか」

「はぁ、有難い特別扱いなんですね?」

「有難く思って旅行を楽しむが良い」


 当然、これについてヨハンに相談をした。

「俺も同行する。侍女としてゲルダとリーゼ、ファインズ家から一人、そしてお婆の助手が二人同行する」

ヨハンは私と視線を合わせなかった。質問は無しという姿勢だ。

「ルートはどうなるの?」

「西部の侯爵家、特待生班にいるポーレットの実家に聖堂がある。そこに顔を出す。その後は南下し、途中でカーライル領に寄るから話す事はまとめておけ」

「西部に聖堂…」

「お察しだ。実は南部巡行にかこつけて、聖女の試練の前にこちらの聖女候補を顔見せするという意味があるらしい。まあ、いつものお前なら悪印象は持たれまい」

「どういう意味よ?」

「変に欲を持った女だと嫌がられる。所詮は教会だから、男以外が欲を持つのを嫌うからな」

「…名目上は聖女は王家並みの権威がある様だけれど」

「言いたくは無いが、多分闇魔法師が出ているから、接触したお前にその影響が無いかは見たいだろう。詳細は分からん」

「ああ、カミラ様が度々『身を清める』と口にするのはそうじゃないと闇に落ちるからだよね…」

「お婆は説教が多いから深読みしない方がいいぞ?」


 そうして十月の終わりに一行は王都を西に向かった。三日の後、ポーレット侯爵領に入った。


 侯爵領に入るとすぐ、侯爵家の跡取りハリソン・ポーレットが私達を出迎えた。

「聖女候補の方をお迎えする事が出来まして、光栄です。弟がいつもお世話になっております」

「ありがとうございます」

彼の弟であるダリルの話はしなかった。話が出来る程親しくないから。特待生班にいるとは言え、特待生じゃないし。


 それでなくとも第二騎士団に守られた私達の車列は長かったが、これに侯爵家の車列が加わって、一大パレード状態だった。市街地の近くを通る際には、人々が並んで手を振っていた。私も小窓から手を振ると、大きな声が上がった。田舎だと娯楽が無いから、有名人が来ると盛り上がっちゃうよね、と盛り上がった事もない癖に考えていた。


 領主の館のある大都市では、領主のティモシー・ポーレット侯爵が私達を出迎えた。

「次代の聖女様に最も近いお方をお迎え出来て光栄です。こちらが聖堂の司教、ダニエル・コロンボ様です」

「ダニエルです。お会い出来て光栄です」

侯爵の水気は多少黄色を帯びていて、言葉通りと思えたけれど、ダニエル司教の水気は凪いでいた。つまり、私を客観的に観察していた…ひぃっ、小物なんです、お手柔らかに…


 心中汗を流した私に、ダニエル司教の心にほんのり黄色い光が灯った。心なしかダニエル司教の微笑みに血が通った気がした。


 当日の饗宴はささやかなものだった。侯爵家と近隣の貴族が集まっている割には。それよりも重大だったのは、翌日の早朝、聖堂に呼ばれた時だった。


 聖堂の地面には魔力でも水気でもない何かが張り巡らされていて、地下水脈が全く見えなくなっていた。そこはかとなく不安になった私とヨハンは、聖堂の塔の上まで登らされた。強化魔法で乗り切った私を、ヨハンは見ようともせずに黙々と登っていた。バレているらしい。


 塔の上は尖塔ではないらしく、天井が平たい、窓で囲まれた円形の部屋になっていた。その中心と思われる円形に塗られた床に私達二人は跪き、ダニエル司教の説教を聞かされた。やはり、この床も天井も水気を感じない力が張り巡らされていた。


 説教は聞き流した。よくある『天に召します我らの神が…』な説教だったからだ。そして窓から入る日の光のみが部屋の温度を上げていたけれど、その温度は晩秋の朝にしては温かかった。


 説教を終えてダニエル司教は笑った。私は薄気味の悪さを感じて、険しい顔のままだった。ヨハンも仮面を被っていた。


 この事を私達二人はポーレット侯爵領を出るまで話さなかった。

「ヨハン、あれ、どう思った?」

「領地を出るまでお前が口を開かなかったのは良かった。あれは試練の一つだったのではないかと思っている」

「あれで何が分かったの!?」

「俺が知るか。教会の秘事だ。少なくとも、俺達はあれに欲を見せなかった。それは良い事だと思う」

「あれ?欲?」

「塔の螺旋階段部よりあの部屋は広かった。その建築技術だけでも興味深い筈だ。欲がある奴にとってはな。お前が気付いたのは何だ?」

「…聖堂の敷地と、あの塔の部屋の上下には水気を通さない何かの力が張り巡らされていたの。それは魔力じゃないと思う」

「水気?水分じゃなくてお前の能力の水気だよな?」

「そう言う事」

「…力を誇示したのか?少し考えさせてくれ」

「うん」

 明日はラッセル閣下の登場です。全部読んでくれる人が何人いるだろうか…

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