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1−8 入学

 長女のお古の制服を直して着て出席すれば、貴族令嬢から虐められる事もあるだろう。せめて私の制服を新調するくらいの事は親が考えてくれると思ったけれど、全く声がかからなかった。特待生の試験を受けたり逃げ出す準備をしていただけに、こちらから下手に声は出せなかったし。そういう虐め問題も心配だけど、一方特待生として三年間、魔法の勉強漬けで成績優秀でい続けないといけない。だから遅刻は論外だ。そういう事で、早すぎず遅すぎずな時間に寮を出る事にした。


 桜の花が散り残る中、特待生寮領域と一般食堂の間の花吹雪の並木道を歩いて校舎に向かう。特待生寮領域が過ぎたところで、背の低い童顔の男の子が男子二人に絡まれていた。

「おうおう、ここはお子様の来る場所じゃないぜ」

「お子様じゃまだ魔法は使えないだろ、さっさと家に帰りな」

「お前等…」

近くを通り過ぎる生徒達は、目を合わせない様にして心なしか彼等を避けて通り過ぎている…子供っぽいからって虐めるとか軽視するのは断固拒否するわ。とは言え、男子二人と殴り合いの喧嘩は無理だし、入学式の前に魔法を喧嘩に使うのは大問題だ。


 よし、通りかかった知人作戦でいこう!

「ああ、こんなところにいた!」

私はそう声を出して三人に近づき、男の子の手を取った。男の子の目が、殺る気の細め状態から大きく見開かれた。

「ぐずぐすしていると遅れちゃうよ!早く行きましょ」

そう言って男の子の手をぐいぐい引いて教室棟と逆の雑木林に彼を引っ張って行った。絡んでいた男子二人はあっけに取られて反応出来なかった様だ。


 校舎から少し離れたところで男の子が話しかけて来た。

「それで、どういうつもりなんだ?」

落ち着いてはいるけれど目を細めてこちらを見る男の子は、明らかに上位貴族に相応しい威厳があった。だから手を離して謝ろうとしたが、彼が手を離してくれない。仕方が無いのでそのまま頭を下げた。

「ごめんなさい。私も背が低いからと子供扱いされて軽く見られてきたから、他人事と思えなくて助けたつもりです。ご迷惑でしたら申し訳ありません」

「俺より背は高いのだから、女としては背は低くないだろ?」

目を細めてこちらを見る彼には疑いの心が見えた。背丈なんて指一本分くらいしか違わないのに『背は高い』と言うあたりは、背の低さは気にしていそうだ。しかし、この子、よく見ると童顔と言うより小顔だ。鼻が同年代の男の子より短めで、つまり顔の上下方向が短めの小顔で、全体は整っている。

「この二年で伸びたんです。それで背の低い女の子の中では背が高い方になったんです」

「微妙な言い方だな?」

「つまり、姉の方が背が高くて出来が良いので、親から軽く扱われて来たんです」

「なるほど、他人事ではない様だな」

彼がにっこり笑った。

「そういう事なら、優しいお前に免じて許してやろう」

そう言うと四方から四人の男達が現れ、近づいて来た。どうやら不審者として疑われていた様だ。

「せっかく最初に知り合ったのだから、友人として俺の正体を教えてやる。俺はヨハン。シュバルツブルグ帝国の第三王子だ。学院ではアルベルト商会の三男のラルフと名乗っているから、そこはよろしく頼む」

そう言って握ったままの私の手を上下させて、無理やり握手をしたかたちになった。正体を明かす…それは、秘密を守る必要が出来たと言う事で、そういう人間をむやみに増やすとは思えない。つまり、逃げられなくなったという事らしい。しかもその相手が危険人物筆頭の王子様だ。だらり、と私の頬に汗が流れた。


 さて、そうなると私も名乗るべきなのだろうが、王子から名乗る許可が出ていない。まず尋ねましょうか。

「そうなると私も名乗るべきなのでしょうが…お許しを頂けますか?」

「友、と呼んだのだから俺達の間に身分の上下はないぞ。そもそも俺は、表向きは平民のラルフ・アルベルトだ。多分貴族令嬢のお前にかしこまって話されては困るんだ。そういう事だから、人前でも人がいなくても気兼ねなく話しかけてくれ」

「そう…私はカーライル伯爵家の三女、テティスです。魔法属性は水。氷結系まで覚えてます」

「友人同士なら最初に趣味や特技を教えてくれるもんじゃないのか?」

「特待生になるために魔法の勉強と練習しかしてなかったから、趣味も特技もありません」

「まだ口調が固いぞ?」

「…オーケー。ラルフの趣味と特技を教えてくれる?」

「二人でいる時はヨハンで頼む。後、趣味は読書で特技はかくれんぼだ」

…多分、素直に取ってはいけない回答よね。背の低い人が子供っぽい発言をして子供扱いされたがるとは思えないから。

「調べものが得意と言う事?そして、逃げたり隠れたりする事もあると?」

「ふん、正解じゃないが考えてくれたのは上出来だ。こういう立場だからな。情報は常に集めている。そして、時には刺客から逃げる必要もある。だから、周囲に不審な者がいたら注意してくれ」

軽く溜息を吐かざるを得なかった。

「そうね。ところで、そろそろ教室に行かない?」

「さすが友人、気が合うな。俺も今それを言おうと思っていたところだ」

「今なら新入生は全員そう思ってるわよ」

「違いない」

 ああ、失敗した!猫が書きたい…そう思って原稿が進まない一日でした。ネットカフェで涼みながら書くつもりだったのに。という事で、電子コミックをしばらく見ていました。処刑王妃が二百年後に転生して学園ラブコメするやつとか、転生要素いらないよねぇ。あとは召喚されたけどクズスキルで追放されて、実はチートとか。でも魔法で現代技術を再現するのはもう飽きたかな。ただ、どっちも目玉の異性は早めに出していて、本作みたいに8話にようやく出てくるってのは駄目っぽいのは分かりました。


 気を取り直して、明日から2章になる予定です。

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