7−1 転がる未来
貴族議会後にタウンハウスに戻ったアンドルー・ラッセルは、実質的な部下であるケネス・アシュリー伯爵と話した。
「それにしても、サマセット公とファインズ候がこうも強硬に出て来るとは思いませんでしたな」
「ふん、腐敗した王家に付き従う腰巾着など気にする事はない。王家が倒れた時には皆殺しにしてやる」
「その為には段階を踏んで進めて行かなければいけません。ここでお怒りを抑えてくださった大人な対応は、我々仲間としても心強い事です」
「そうだ!機会はまだ先にある!ここで聖女候補が大問題を起こした事は王家の大失態だ!この事は広く知らしめなければならん。腐敗した王家の無能ぶりを示す良い例なのだからな。決起の機会はその後だ。」
「とは言え、新たなる聖女候補の踏み台になってしまったのは不覚でしたな。しかもあのファインズ家の養女となれば、王家側に立つファインズ家の功績、ひいては王家の功績と思われましょう」
「何、ファインズ家の養女とはあのカーライル家の末娘ではないか。であれば使える手があろう」
「そうですな。手筈を整えます」
一方、アーヴィン・サマセット公爵もグレゴリー・ファインズ侯爵をタウンハウスに誘って話をした。
「まあ、今回の事はお互い災難だったが、その際には君の息子のジェラルド君が娘の手を引いて守ってくれたと娘が喜んでいた。礼を言うよ」
幼少期の事を考えれば手を引いたのがどちらだったかは明らかだが、そこはサマセット公も承知で喋っている以上、ファインズ候から指摘すべき事ではなかった。
「いえ、二人が旧交を温められたなら、不幸中の幸いでした」
「まあ、不幸中の幸いと言えば、評判の悪い聖女候補がいなくなり、新たな聖女候補が君の家の養女だという事もそう言えるか」
「有望な特待生と言う事で王家の依頼で迎え入れましたが、妻とも娘とも打ち解けて、良い娘を得たと喜んでおりましたが、こうなると聖女候補の後見として、大役を任された事になりました。身を引き締めていきたいと思います」
「それで、聖魔法師としての才能はどうなんだろうか?」
「先ず、比類なき水魔法師である事は確かです。14ftにも及ぶ巨人を凍り付かせるなど、他の水魔法師には不可能な事でしょう。一方、水気と称して水や魔力を持つ者を感知する事が出来るとの事、こちらは聖魔法の範疇と思われます」
「水、を感じるか、生命を感じるかで解釈が変わると思うがね」
「公開されてはおりませんが、夏休み前半に向かった北の国境で、上級魔獣を感知し、これを倒しております。詳細は私にも秘密にされております故、分かり兼ねますが、どこまでが水魔法でどこまでが聖魔法かで評価は変わりましょう」
「いずれにせよ、最初の聖女候補が不祥事で退場する形になった以上、彼女には間違いのない教育が求められるだろう」
「王家からは早急に準備を整えると連絡がありました」
「そうか。後はカミラ女史にお任せするしかないな」
「あの方がご存命であるのは心強い事です」
「多少、庶民的な話し方をされる方だが、先代聖女であるジュディス様の信任厚い方だからな」
「ここでついでと言ってはなんだが、我が娘と君の息子の件、彼はどう思っているのだろうな?」
「ははは…昔はべったりだったとは言え、変わってしまった関係に戸惑う事はありましょうな」
「どこかと縁を繋いでも良いかと思ってはいたのだが、やはりあの娘の気持ちが気にかかってな。あれほど仲良くしていた二人を大人の都合で引き裂いて良いのかとは思うんだ」
「もし、よろしければ、しばらく見守って頂けないか、とは思っております」
「そうか。君からそう行って貰えるなら、こちらも待とうかとは思っていたんだよ」
「私も、息子にもプリシア嬢にも後悔して欲しくありませんから」
話が纏まった二人は、年代物の葡萄酒をしばらく堪能した。
魔法学院の演習場に現れたサイクロプスは、氷漬けのまま王都に運び込まれた。サイクロプスを操る方法が闇魔法である可能性があり、この死体の調査は魔法アカデミーと大聖堂の合同で行う事になった。よって、両者を統括する高い立場の者として、リチャード王子に白羽の矢が立った。
「さて、調査方針としてはどうするのか?」
魔法アカデミーは薬物の影響を調べる事にした。
「体液、膀胱に残った尿、血液に対する試薬での調査を行います」
一方、大聖堂は脳の調査を提案した。
「闇魔法の影響で脳内の何らかが変化した可能性があります。ですから頭部の解剖は教会主導で行わせて頂きたい」
「魔法アカデミーの研究者も魔獣の脳の研究を行っている事から、立ち合いは許可して頂きたい」
こういう交通整理はリチャードの仕事である。
「では、大聖堂の指揮で頭部、特に脳の解剖は行うが、立ち合いの魔法アカデミーの者も場合により調査について意見を出し、排除する理由がなければその処置も行う事。魔法アカデミーが研究の為に死体の一部を持ち帰る事を許可する事。そして、魔法アカデミーでは場合により大聖堂の研究にも協力出来る様に、持ち帰った死体の一部の保管は厳重に行う事。そういう事で良いか?」
「異論はありません」
相変わらず書いてる本人も何を言ってるんだこいつ、と思っているラッセル閣下。
以下、世間話です。『xxx、養子の私は家を出る』みたいなタイトルの小説が、パクリと攻撃されている様です…え、テンプレ小説だよね?ついこの間も似たタイトルの短編がランキングに入っていたし。そう思うんですが、どうもyoutubeで配信している中国製ドラマに似ているそうで。どこが似ているかと言うと、『後から家に入った女がそれまで家にいた主人公を嘘で陥れる』ここが似てると……それって、なろうの女主人公ジャンルの典型的な悪役の行動だよね?
類型的な物語と類型的な物語の類型的な部分が酷似していても盗用とは言えません。お互いがもっと古い作品を参考にした疑いが排除できないからです。陳腐化した技術を特許申請できない様に。だから、双方がユニークな点で酷似していることを証明しないといけません。例えば『悪役の女が旧世界の支配者の眷属で、登場するときはライダーの変身ポーズを必ずする』みたいな特徴が一致する必要があります。まあ、そこまで一致したらもうパロディでしょうが。
10/20追記、youtubeでそのユニークな部分を検証している様です。見てないけど。




