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6−10 落ち着く先

 貴族議会では、魔法学院1年の魔獣討伐実習事件の第一報が報告された。

「演習場周辺への騎士団による魔獣の調整は充分実施されましたが、より西側に上級魔獣であるサイクロプスが何者かにより解放され、これを避ける為に中級魔獣であるケリュネイアが前もって演習場に侵入しました。これは特待生により討伐されましたが、その後に谷伝いに降りて来たサイクロプスが演習場に侵入し、これも特待生により討伐されました」

「この後、聖女候補のセシリア・ストーナーとカペル家子息の仲間が一生徒が魔獣を呼び寄せたと糾弾しましたが、むしろサイクロプスの現れた方向から聖女候補達が現れた事から一同が逆に聖女候補達を糾弾しました」

「すると聖女候補が闇落ちし、これを特待生が水魔法で押し止めました。しばらくして先代聖女であるジュディス様の相談役であるカミラ・アビンドン様が現場に到着され、聖女候補だったセシリア・ストーナーが闇属性となっている事を確認、一方、水魔法で闇魔法を隔離していた特待生を聖属性持ちと確認、その特待生が闇魔法師とその影響を受けていた者達を浄化しました」


「続けてサイクロプス呼び寄せの疑惑についての調査状況を報告します。セシリア・ストーナー達が犯人と糾弾した生徒の背嚢に付けられた汚れには成分不明ながら魔獣の誘引効果がある物質が含まれておりました。この生徒がサイクロプス討伐中には背嚢が汚れていなかったとの証言があり、セシリア・ストーナー達の持ち物検査をしたところ、マーカス・パーティとダミアン・カペルの背嚢に同じ物質が入っておりました。この事から、これが魔獣の誘引物質だとしたら、サイクロプスを呼び寄せたのはマーカス・パーティまたはダミアン・カペルのどちらかまたは両者だったと推測されます」


「セシリア・ストーナー並びにダミアン・カペル達は闇魔法の影響が疑われる為に大聖堂の地下牢並びに調査室にて取り調べを受けております。しかし、全員が演習前後の記憶が失われております。原因については教会の専門家が調査中です」


 貴族議会議長はそれぞれの親に対して証言を求めた。カペル伯爵の証言は簡単だった。

「当家の領地にて、サイクロプスの目撃証言は過去一切ありません。よって当家からサイクロプスを演習場に持ち込む事は出来ません」

議長は続いて質問した。

「ご子息の行動についてはどう釈明するのですか?」

「大聖堂にて本人に確認しましたが、記憶がないとの事ですので肯定も否定も出来ません」

「本件について何らかの責任は感じていないのですか?」

「ダミアンについては跡継ぎから外し、勘当しました。後は本人に罪状に見合う罰を受けてもらう以外ありません」


 パーティ伯爵もストーナー男爵も本人に責任を取らせるとだけ発言し、それ以上の責任を語る者は無かった。


 議長は続いて、セシリア・ストーナーの聖女候補としての後見人であるラッセル侯爵に質問した。

「あなたが後見人として推薦した聖女候補がこの様な事になりましたが、何か責任を感じていますか?」

「私はストーナー男爵からの申し入れで、国が望む聖女候補の後見となっただけだ。彼女の行動について責任があるとしたら、養女にしたストーナー男爵であり、その聖女候補を正しく導く事が出来なかった魔法学院である。だから責任を取るのはストーナー男爵であり、魔法学院であり、学院について責任がある王家である」

「そもそもセシリア・ストーナーについて最大の疑惑はサイクロプスを呼び寄せた、という点です。魔獣について最もノウハウのあるのは北部で、当然疑いは北部に領地を持つ者になります。王立魔法学院にはサイクロプスについて知見が少なく、むしろ疑いがあるのはストーナー男爵であり、カペル伯爵であり、パーティ伯爵であり、あなたでしょう。積極的に疑いを晴らすべく、サイクロプスについて情報を提供して頂きたいですな」

「上級魔獣の出現については、その都度王宮に報告し、これまで問題とされた事もない。つまり、ここまでの当家の報告体制に問題はないと王宮が認識している以上、何らかの要求も批判も不当なものである。サイクロプスについては私が生まれてこの方、我が領に出現した事はなく、それ以前の記録についてはそれこそ王宮に問いただすべきだ。いい加減、私に対する誹謗中傷、冤罪なすりつけは止めて頂きたいな」


 ここでラッセル侯爵を支持する者達が騒ぎ立てた。

「そうだー!不当だ!」

「議長は議員に対する不当な印象操作をやめろ!」

議長は木槌で音を立てて騒ぐ者達を止めた。

「静粛に!発言を希望する者は挙手の上、許可を得て、名乗りを上げてから話す様に!」


 この発言を受けてグレゴリー・ファインズ侯爵が挙手をした。

「ファインズ侯爵、発言を許す」

「グレゴリー・ファインズ、意見を申し上げます。さて、アンドルー・ラッセル君、私の息子もサイクロプスの進む先にいたのだが、その父親が君の知らぬ存ぜぬ、冤罪だ、との発言を許容するとでも思っているのかね?」

「年少の癖に君付けとは無礼な!恥を知れ!」

「君から恥とか礼儀とかの講釈を聞かされる謂れは無いよ。君は私が侯爵代理として初めて議会に出席した時には既に礼儀知らずの恥知らずと思われていたが、それから全く成長しないな。礼儀知らずの子供がただ年をとっただけの男に、何で年上だからと敬意を表す必用があるかね?」


「さて、自分の面子・家の面子だけは理解している君だから、分かる様に話してやろう。聖女候補を養女にしたストーナー家と後見している君、君の味方を自任にているカペル家、パーティ家の子息にはサイクロプスを呼び寄せた疑惑がある。いずれにせよ、演習場の周辺では今までサイクロプスが現れた事がないのだから、だれかが連れて来たと考えるのが普通だろう。そして、もしそこに君の息子、いや、済まないな、君の息子は王宮や外国に既に逃げてしまったから、そんな事はないだろうが」

「じゃあ代わりに君の前にサイクロプスが現れたとして、誰かがそれを連れて来たという疑惑があり、その疑惑を晴らそうともしないとしたら、それを自分に対する敵意と思うだろう。今、私が君達に感じているのはそういうものだ。そう言う事で、君じゃないという証拠でも示してくれないかね?」

「やっていないのだから、証拠も出し様がない!証拠もないのに冤罪で糾弾するのは止めてもらおうか」

「なるほど、では王宮やら学院やらがやったという証拠もないのだから、今回の事で君は王宮も学院も糾弾する資格はない事も分かっただろう?それは良い。だが、我がファインズ家の総領息子も迷惑をかけられた以上、疑惑を晴らそうとしない君の態度は我が家に対する敵意そのものとみなさざるを得ない。だから、今後我が家は君とその一派が議会に対して行うあらゆる許認可申請について必ず反対するとここに誓おう」

「貴様!何様のつもりだ!」

「そのまま君に返そう。敵意が無いなら疑惑を晴らす努力をせよ」


 ここでアーヴィン・サマセット公爵が挙手をした。

「さて、我が家の娘もその場にいたのでね、アンドルー君達の態度には思うところがある訳だ。だから、私もファインズ侯爵と同じ事を宣言しよう。今後、ラッセル侯爵とその仲間達のあらゆる許認可申請について、議会で反対する事を誓おう」

これに続いて、特待生ならびに特待生班に含まれていた貴族の親達が次々と同じ宣言をした。流石に出席していたラッセル派は言葉を発する事が出来なくなった。ここで今ラッセル侯爵の肩を持つことは、同じく議会であらゆる反対を受ける理由にされてしまうからだ。


 とは言え、ここまで対決姿勢になると、このまま議事を進めるのが難しくなる。良識のある北部の人間が仲を取り持つ必要があった。だから、コリン・グラントン公爵が挙手をした。

「まず、アンドルー君にはもう少し北部の一員として責任感を持った発言をして欲しい、と要望するよ。そして、現場にお子さんがいた皆さんには、北部全体がアンドルー君と同じ様に無責任ではない事を釈明させてもらおう。彼等に敵意がないと示す為に、各家からサイクロプスの過去の目撃事例とその時のサイクロプスの行動について、議会に報告を提出させて貰おう」


 この提案は好意的に受け入れられた。議長は、1カ月以内に北部の魔獣討伐経験がある各家に報告をする事を要求する提案を行い、議会は賛成多数で議決した。


 南部のある男爵は、同じ南部の伯爵に率直な意見を述べた。

「ここまでラッセル侯爵に対する反感が強いとは思いませんでした」

「まあ、閣下は単に大きな声で人を糾弾するだけで、論理的では無いし、責任も決して取らないからな。良識ある者には白眼視されているよ」

「今まで大きな声で『冤罪だ!』と言うものだから、本当に冤罪かと思っていましたが、違うのですか?」

「根拠もないのに適当で感情的な反論ばかりするから、皆嫌になって口を噤んでいるだけさ」

「国に対して改善を求める時には、頼りになる人だと思っていたんですが…」

「文句を言うだけで対案はない。だから、閣下と同じ船に乗るという事は、一緒に破滅に進んでいるということさ。その進む先に未来の計画はないのだから。一緒に沈みたくなければ、ちゃんと未来に対して国家全体の政策を持つ人を支持するんだね」

 これで6章を終わります。まあ、7−1は6−11みたいな話なのですが。


 サイクロプス戦で感想を頂いたのですが、見ての通りただのやられ役だったので心苦しいものがあり、返信が素っ気なく感じられたらすみません。

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