6−9 下級魔獣討伐 (7)
そう言う訳で、一人一人ウォーターボールで顔を覆って溺れさせる事になった。
「うぎゃあ―っ!!痛い!いたぁーい!殺されるーっ!」
ごぼごぼ、全員派手に苦しんだ。ただの水なのに大袈裟な。セシリアが特にしぶとかった。
「ぎゃあーっ!ごぼごぼ…呪ってやる…聖女に何をする…」
いや、もう闇属性になったから、あなたが聖女になる事はありませんよセシリアさん。全員、縄でぐるぐる巻きにされてから蘇生された。
セシリアの蘇生はまだ名乗っていないお婆さんからの左胸に対する何らかの魔法で行われた…セシリアは筆舌に尽くし難い豪快な悲鳴を上げた。
「貴様―っ、聖女にこんな事をしてただで済むと思うなよ!」
「ああ?お前はただの闇魔法師だから、教会でそれはご丁寧な調査をされるだろうよ。楽しみにしておれ」
私はヨハンに小声で聞いた。
「ご丁寧な調査って?」
「火責め水攻め何でもありだ。要するに異端尋問だからな。お前も闇落ちしない様に気をつけろよ」
「水属性が闇落ちするって聞いた事が無いんだけど」
それを聞いたお婆さんがこちらに声をかけた。
「闇魔法師ならびにその汚染を受けた者達を浄化した以上、お主は聖魔法師と認定される。そして、現存する聖女候補のそのまた候補の中で、闇魔法の浄化まで出来る者はおらん。必然、お主は聖女候補の筆頭となる。近いうちに王宮の王太后宮に残る聖女候補教育係に指導を受ける事になる。身を清めて待つ様に」
「身を清めるって何をしたら良いですか?」
「そこの性格の悪い彼氏とみだらな事をしてはならん、と言う事だ。まあ、普通の生活をしておれば問題ない」
ヨハンがすかさず言い返した。
「お婆に比べれば俺など聖人の様に清らかな心を持っているぞ。聖女候補にどうこうする気は無い」
「聖人が随分安っぽく聞こえるが、まあ良い。今日は災難だったが、聖女になると言う事は、こう言う事にも対処せにゃならんという事だ。良い経験と心に留めておく様に」
「はい…分かりました」
生徒達は先に帰宅したが、私とヨハンと教官達は現場検証に立ち会ってなかなか帰れなかった。
だから帰りの馬車でヨハンに尋ねる事にした。
「あのおば様、どういった方なの?」
「素直に婆ぁと言って良いぞ。前聖女の教育係兼相談役だったカミラ・アビンドンだ」
「あの方、私が聖魔法師だと言っていたけど、ヨハンは知ってたの?」
「お前が俺の毒を吸い出したからな。王族の体内深くの治療なんぞ、この国最高の聖魔法師レベルでないと出来ない。リチャードも俺もお前を聖女候補とみなしている」
「何で言ってくれなかったの?」
「一つはお前の敵を増やしたくなかったからだ。南部出身の平民がセシリア並みの聖魔法の力があるので、そいつを学院に連れて来てからお前の聖属性も発表する予定だった。もう一つは、お前が隠し事が出来る性格とは思えなかったから、その時まで言わない事にしたんだ」
「これから、私はどうなるの?」
「お婆が言った通り、聖女教育を始める事になる。今回のサイクロプス事件の説明の為には、お婆から聖魔法師の存在の証言が必要だ。そして聖女候補が一人もいないとなると、この国の王家に対する神の加護が疑われる事になる。だから、これを機にお前の聖属性と聖女候補の地位を発表する事になる。敵からの攻撃に備える為にも、至急の教育が必要となる。大変だと思うが、頑張ってくれ」
「私は主に水属性よ?どう見ても。それで聖女になれると思っているの?」
「…俺の主観からすると、お前より聖女らしい女はいない。呑気なお前にとっては過大な期待に思えるだろうが、両国の為に頑張って欲しい。マイペースで良いからな」
「両国、ってつまり、あなたの国の聖女候補は相応しくないと思っているの?」
「…先代の聖女と聖女の座を争ったのが、シュバルツブルグのヴァイツゼッカー家の女だった。そもそも当時、シュバルツブルグ国内の聖女候補選びの最中に死人が出る事態になっていた。そうして国の代表になっておきながら聖女になれなかったヴァイツゼッカーの女は批判にさらされ、自害した。それからヴァイツゼッカー一族は怨念の固まりになった」
「今回もヴァイツゼッカーの女が聖女候補選びでリードしている。選考状況も現時点で一人が怪我をして辞退、その他二人も理由を付けて辞退している。真の理由は推して知るべしだ。そんな怨念まみれのヴァイツゼッカーの女を聖女にする事は出来ない。俺の国の事でお前に迷惑をかけたくないんだがな…」
「そっか、それでこの国の聖女候補選定の歴史を調べたんだね?」
「そうだ。そういう理由でラッセルが聖女潰しをしているなら、分からないでもないからだ」
「そういう歴史は無かったけど、そうなるとラッセルの狙いは何だろう?」
「いずれにせよ王家に対する破壊活動が続くだろう。ラッセルが後見している聖女候補が問題を起こした。これも冤罪だと騒いで責任は取らないだろうし、逆に学園の教育体制、管理体制を攻撃してくるだろう。それは王家のイメージダウンになるからな。そうして既存の政治への信頼を貶めるのは、革命・簒奪の前段階として必用な事だ。そしてそれに備える為にも、聖女という両国の王家の権威の後ろ盾になる存在が必用なんだ」
それでも、そうして国が選んだ聖女候補が試練を乗り越えられなければ意味がないんだよ…そして、まだ見ぬ本当の聖女候補が現れた時、私という暫定の聖女候補筆頭はお役御免になって、その時あなたは私をどうするつもりなの?
金曜はお休みします。土曜に議会の一幕を書いて6章は終わり、日曜には7章が始まる予定です。




