6−4 下級魔獣討伐 (2)
サマセット公爵家の馬車が到着してプリシア様が一息吐いた後、教官が招集をかけた。特待生班は実技教官のマーロン・テナムとフランシスカ・グレイ以外に上級生の実技教官らしき人物が同行する様だ。
「風向きは弱い西風だから、東から西に向かう分には相手に気づかれない。だから南側に一般生徒、北側に特待生が展開する事になった。東側中央部から西進する。一般生が南側に展開するから、南側に魔法を向けない様に気を付けろ」
こうして、西に進む事になったけれど、悲しい事に一角ウサギらしい気配が沢山いる…私達は悲しい別れをする運命なの?いえ、運命に負けてはいけないわ!他の獲物…あれ?
「先生、山側に中級の魔獣がいる気がするんですが?」
「何だって!?見えるのか?」
「見えないけど気配で…」
「本当か?」
ここでヨハンが助け船を出した。
「こいつなりの魔力感知だと思うから、多分本当にいると思う。こいつに処理させた方が良いと思うが、二人で先に進んで良いか?」
マーロンは上級生の教官と思われる人に一言告げた。
「付き添いをお願い出来ますか?」
「ああ」
「じゃあ、行きましょう」
「途中で下級魔獣はいるか?」
「いるけど、そんなのを倒す気配を起こしたら相手に気づかれるでしょ」
だから一角ウサギちゃんを殺しちゃいけないの。と本音を隠したけれど、ヨハンは目ざとく私が何かを避けているのに気付いた。
「おい、お前は一角ウサギを殺したくないから中級魔獣の方に行こうとしているんじゃないだろうな?」
「私は騎士の精神を持っているから、逃げる子は追わないの」
「馬鹿言え。部隊が最大の損害を出すのは撤退時だ。それを皆知っているから騎士だって追い討ちはするぞ」
「私は理想の騎士を目指しているの!だから去るものは追わないの!」
「片手剣も振れない癖に何を言うか!」
二人の会話を聞いたジェラルド・ファインズは思わず呟いた。
「あの二人はもっと真面目だと思っていたんだがなぁ…」
近くで聞いていたプリシア・サマセットが応えた。
「親しくなれば、隙だって見せる様になるものですよ…羨ましいのですか?」
ジェラルドは頭を振ってから言葉を返した。
「俺は真面目で大人しい女性が良いな」
(そうでしょうとも)
そう思ったのはプリシアだった。男性は大人しい女性を好む、だから穏やかで大人しそうなテティスがクラスの男子から好意的に見られている。個人的には能力を鼻にかけないテティスに好感を持っているが、一方、幼少時に気の強いところを見せてしまっていた自分が中々婚約が調わない事にもの悲しさを感じていた。そんなにも男達は猫を被った女が良いのか。
そういう訳で、私達三人だけ先行して西進する事にした。
「気配としては何だと思う?」
「ちょっと気配の重心が高いから鹿っぽい」
「どう移動しているんだ?」
「山のふもとを北から南へ」
「では、一度北に移動してから後を追うか?」
「結構足が速いからそれだと振り切られて、一般生の方に行っちゃうよ?」
「じゃあ、進行方向に先回りするか」
「そうしましょう」
木陰に見える魔獣には角が無かった。若い鹿または女鹿となる。
「微かに見えるが、狙えるか?」
「あの子に近いところでランスを出せば避ける暇が無いと思うの」
「じゃあ、それでやってくれ」
相手が木陰を移動していても、木の纏う魔力のない水気と魔獣の持つ魔力を含む水気で区別は付く。だからあの子の首から10ftの距離に中くらいのアイスランスを作り、一気に突き刺す。
女鹿は暴れようとするから大きなウォーターボールで包んでやる。アイスランスはもう解かしたから、鹿の血で水が赤くなっていく…でもこの子程度の魔力では私を妨害出来ない。ごぼごぼと口から気泡を吐き出しながら鹿は水中で溺れている。鹿は浮かぼうとするけど、それに合わせて水球を調整しているから、首を外に出せないんだ。
「凍らせた方が早くないか?」
「はいはい」
大きなウォーターボールの外側から固めていき、鹿はついに息さえ吐けなくなった。そうして血の流れも停止し、脳も停止して魔力も消失した。
一応指を組んで一瞬の黙とうを捧げた。
「死んだか?」
「鹿さんは冷たい氷の中で永眠したわ」
「氷の女が冷たくしたから死んだ訳だな」
「微妙に中傷しないでよ」
「事実だろ」
教官が声をかけた。
「あー、それで狩った訳か?」
「まあ、そういう結果です」
「出来れば獲物を持って行きたいんだが。私の証言だけだと不正が疑われる」
「じゃあ、テティス、いつも通りに氷を円筒形にして転がして行こう」
「いつも通りってまた誤解を招く事を言わないでよ」
「得意技だろ?」
「出来ない事はないけどさ…」
鹿は四肢を伸ばしていたので、円筒形にすると氷が大きくなってしまうけど、まあ転がせないサイズじゃない。そうして円筒形にしたところ…
「もう一匹南下してくるけど、狩る?」
「教官、狩った方が良いな?南には一般生がいる」
「そうだな、出来るならやってくれ」
そうしてやって来たもう一匹もアイスランスで首に穴を開けられた後、アイスボールで溺れて凍死した。
今日はこの近辺の鹿の魔獣にとって受難の日だった様だ。こうして鹿氷を二個転がしながら東に戻る事になった。
会話主体だと文字数が少なめでした。明日も討伐の続きです。




