5−10 エリックの取り調べ (前編)
人によっては不快に思うかもしれません。
「さて、王立図書館でお前達が許可なく武器を持ち込んで、他人に斬りかかったと被害者側から告発があったが、間違いないか?」
取り調べ官が手枷を付けた俺に話しかける。
「何で俺が手枷を付けられないといけないんだよ!?お前らが見逃している悪魔を殺してやろうとしただけじゃないか!」
「うん、まあ理由は後で聞くから、事実の確認を先にしようか。王立図書館は当然公の場所だから、許可なく武器を持ち込む事は許されない。お前達は武器の持ち込み許可を申請した形跡は無いが、無断で持ち込んだ事に間違いはないか?」
「許可が必用かなんて俺が通った入口には書いてなかったんだから、分かる訳ないだろ?だからそれで罰するっていうなら騙し討ちと一緒だ!何であんな悪魔の肩を持って、俺の様な正しい事をしている者を罰しようとするんだよ!?不当だ!!」
「馬鹿を言うなよ。お前は王立魔法学院に通っていたが、王立機関に武器を持ち込むのには許可が必用だと聞いていた筈だ。知らないからと言って許される訳がない」
「だから後から言うなよな!?不当逮捕だ!」
「…まあ、良い。事前に許可を取った、と言わない以上、無許可の武器持ち込みは事実だとみなす」
ほら、俺が正しい事を主張し続ければ、こんな王家の犬は黙ってしまう。所詮はお仕事でやっているだけの、正義を知らない役人に過ぎない。
「それで本題だ。テティス・ファインズ嬢、そう言ってもお前には馴染みがなくて分からないだろうから言い換えると、元テティス・カーライル嬢に武器を持って斬りかかった、それに相違はないな?」
「そうだ!お前らが野放しにしているあの悪魔に、俺が正義の鉄槌を振り下ろしてやったんだ!」
「正義の鉄槌と言うからには、彼女が悪いという証拠があるんだろうな?」
「あいつがエリザベスさんの結婚式に麻薬を持ち込んで、それがエリザベスさんの結婚相手の家が持ち込んだものと言い張ったから結婚が台無しになったんだ!おまけにお前等騎士団があの悪魔の言う事を聞いて、エリザベスさんの結婚相手の家のせいだと決めつけたおかげで、エリザベスさんの立場がなくなっているんだ!お前等があの悪魔を裁かないなら、俺が断罪して罰を与える以外にないだろ!?」
「それで、麻薬の出所はどこだと思っているんだ?その証拠はあるのか?」
「目先の証拠でエリザベスさんの結婚相手が悪いと決めつけて、本当の犯人のあの悪魔を放置しているお前等に言われる筋合いは無い!ちゃんと調査しろ!」
「調査はしたさ。テティス嬢はずっと領地にいて、魔法学院の適性試験を受ける為に王都にやって来た。適性試験と特待生試験以外には外出せず、入学してからは図書館と、結婚式用の服の採寸以外に外出した事がない。麻薬を購入する機会が無かったのさ」
「そんなの人目に付かない様に隠れて購入したに決まってるだろ!?ちゃんと調査しろよ!」
「まず、エリザベス嬢の結婚相手の実家のヘイスティング家は、麻薬が入った疑いで監視を受けていたんだ。その流れで次男の結婚相手のエリザベス嬢とカーライル家にも監視が付いていた。その上、妹のテティス嬢が特待生試験を受けた事から、カーライル家とカーライルの領地は再度調査を受けたんだよ。領地の方は特待生受験者調査として領主には内緒で領地の代官に調査協力をして貰った。それにより、カーライル家の領地には麻薬の流れが無い事が分かった。まあ、経済的に難のある領地だから、麻薬に手を出す金が無い者ばかりだから売人が入り込む訳が無い。そして、テティス嬢はそういう事で通常の特待生より厳しい監視を受けていた訳だ。だから、テティス嬢には麻薬を入手する機会が無かった。ここまで厳しい調査をしているのに、調査をしていないと言い張るなら、確かな証拠を出して貰わないとこちらが納得出来ないが、確証があるのか?」
「お前等騎士団を騙せる悪魔が、俺なんかに分かる様に証拠なんて残す訳ないだろ!?自分達が不甲斐ないのを棚に上げて俺に振るなよな!?」
「証拠はない、と言う訳だな。それで、証拠もなくテティス嬢が悪いとみなす理由は何だ?」
「エリザベスさんの用な素晴らしい女性が悪事を働く訳がないだろ!?何で証拠がないのにエリザベスさんが悪い事になるんだよ!?」
「エリザベス嬢は罪を問われていないぞ?だから普通にカーライル家のタウンハウスで暮らしている。麻薬の出所については上流は辿れていないが、ヘイスティング家に売った売人と、ヘイスティング家からカーライル家への授受に係わった者は取り調べで認めている。そして、当日結婚式を行う大聖堂のテティス嬢の待合室に麻薬を持ち込もうとしたのはカーライル家の侍女だ。それは監視の騎士団の者と修道院の者が見ている。だから、麻薬の出所はテティス嬢ではなく、ヘイスティング家であるという調査結果になる。よって、麻薬入手並びにその流通について、共犯としての疑いがあるのはカーライル家の者で、テティス嬢じゃあない。そこまでは調べがついているんだ」
「だから!それはあいつに騙されているんだ!あんな取るに足らない女を特待生にする魔法学院も騙されているし、騎士団も騙されているんだ!もっとちゃんと調べろよ!?それともあの悪魔に買収されてるのかよ!?」
「買収は無理だな。カーライル家はテティス嬢に小遣いを渡していない。もしカーライル家自体が学院を買収するとしたら、何で両親の期待が集まるエリザベス嬢でなくテティス嬢だったのか、という問題もある。だから、学院は買収されていない。もっとも特待生に関して不正を行った場合、最悪死罪になる法律がある。学院は特待生に関して不正は働かない」
「だから、それは先入観で、もっとちゃんと調査しないと駄目だろう!?」
「なあ、さっきから思うんだが、お前は自分からは証拠は出さずに、俺達の言う事が気に食わないと根拠のない批判をしてるだけだろ?テティス嬢が悪人であると言う証拠は持ってないんだな?」
「だから、お前等まで騙されるのに、俺が証拠なんて掴める訳ないだろ!?」
「分かった。証拠は持っていないと発言しているとみなす」
ほら、また正しいことを主張し続ければこいつは言い負けた。俺が何時でも正しいんだ。
「ここからは世間話だが、お前の見る目が無い事が良く分かる話をしてやろう。お前も学院生徒だったから知ってるだろうが、各クラスで男子生徒はクラスの女生徒の評価アンケートを集めて、女子評価表を作ってるんだ。去年の3年1組の男子達が付けたエリザベスさんの評価は『顔:A、性格:B』だ。素晴らしい女性、と思っている男は少なそうだな」
「馬鹿野郎!それは1組の馬鹿共が見る目がないだけだ!」
「性格の評価が落ちたのは、付きまとってくる男を手酷く追い返しているのできつい女と思われた、って事はあるな」
「ぐ…糞っ、それは彼女の評価じゃないだろ!?」
「間違いなく彼女の評価さ。ここでもう一つ話がある。今年の1年1組の男子の評価では、テティス嬢は「顔:A、性格:A」と評価されてるのさ。お前の見る目が無いのがよく分かるだろ?」
「嘘だ!1年1組の連中が馬鹿揃いなんだ!!」
3年前に見たあの女は只の田舎の子供だった。あんな奴が顔が良く性格が良いなんて、本当に見る目がない奴ぞろいだな、世の中は。
ともかく自分の言い分だけ主張する人は、確かに相手が黙ってしまうと思いますが、最後は誰も話を聞かなくなると思うのですが、良いのでしょうかね?ちなみにテティスの顔は別に悪くありません。本人が凹みきっているので自己評価が低いのです。あと、性格評価が…のんびり屋なんで穏やかに見えるので、顔も性格も男子の評価は高い様です。和み系って奴ですね。
明日はお休み、土曜日に続きます。




