4−15 もっと大きな奴を (3)
「ねぇ、そろそろ首の逆側に氷を落とした方が良いかな?」
「まだ元気だ。もう二・三回同じ方に落としてからにしろ」
「は~い」
最後のアイスランスは効いたらしい、大オオトカゲは大分暴れて拘束のアイスランスを三本折った。追加に太めのアイスランスで地面を掘る。
そうして逆側にアイスランスを落とし、やはり出血が始まると、気付いた事がある。
「ヨハン、水気が分かる」
「…あいつの魔力が弱まったのか?」
「多分ね」
「水気で何が分かる?」
「紫色」
「何だ、それは?」
「多分、『痛い』だと思う」
「もっと他の考えはあいつにはないのか?」
「所詮、トカゲだから?怒りと痛みが混ざっているだけに見えるの」
「…それは良い。魔力が弱まっているなら、あいつの頭部を直接冷やせないか?動きを止めてから首を切断した方が早いだろ」
「じゃ、あいつの頭部の周りに水を集めて凍らせるわ」
「そうしろ」
うん、あいつの頭部表皮近くに水、氷を作れる。弱っているんだ。水で頭部を覆って凍らせる。
もう頭部を振って暴れる事が出来なくなった。続けて、首への攻撃を続ける。もう胴体も動かない。
「どうする、このまま冷やせば死ぬんじゃない?」
「頭部を切断出来ないか?首だけでも持ち帰りたい」
「あれだけ首が長いって事は、多分、太い骨があるからさ、騎士の人が肉をほじくって、骨の継ぎ目を剣で切った方が早いと思うの」
騎士団の指揮官を呼んで協議する事にした。
「もう大分表皮は切れている。効率が悪いから、そろそろ騎士が剣で切れないか?」
「それでも、あの太さを切るのは大変なんです。もうちょっと切れませんか?」
「テティス、体調はどうだ?」
「別に魔法を続けるのは問題ないけど、時間がかかるよ?」
「なら、いけるところまでいこう。骨が見えたら騎士団の仕事だ、それで良いな?」
「はい。お願いします」
結局、骨が見えるまで三十分近くアイスランスを落とし続けた。途中で大オオトカゲは魔力を完全に失った。死んだんだ。流石にもうアイスランスを落とすのも飽きた…
「よし、騎士団は骨の継ぎ目で切断を試みてくれ」
そうして騎士団が木を切る様な長いのこぎりを持って来て、骨の継ぎ目に当てて両側で交互に引っ張って切り始めた。時間がかかりそうだなぁ…
そこにリアンナ王女と護衛達が近づいて来た。
「ヨハン、どうするつもり?確かにこの首だけでも持ち帰りたいのは分かるけど、切った首を騎士達に引かせるつもり?」
「流石に凍らせてテティスに転がさせるのは無理だ。胴体が残っている以上、他の魔獣が夜間に寄って来るのも確かだろう。何とか頭部を移動させたい」
ああ、ここが川原で、この川が思い当たる川なら持って行けない事も無いんだけど、それ、私がやるのかな…そんな遠い目をした私にヨハンが気付いた。目ざとい奴。
「何だ、テティス。提案があるなら言ってみろ。怒らないから」
「怒らないからって、子供扱いしないでよ。地理に詳しい騎士の人に聞きたいんだけど、この川って、北の砦の近くを流れている川の上流じゃないかな、と思って」
騎士団の司令官が口を開いた。
「確かに、この川の下流の近くに北の砦があるが…」
ヨハンが私の言いたい事を理解した様だ。
「つまり、水魔法で浮かべて持って行けると言うんだな?」
「筏くらい作ってくれない?解けちゃうから」
「リアンナ、その辺の木を切って筏を作れないか?」
「頭部だけで10ft程度あるのよ?そんな大きな筏がこの川を通って行けると思えないんだけど」
「テティスの提案だ。危ないところは水魔法で浮かべて通るんだろう」
「う~ん、胴体の方はもうどうしようもないからそのまま流すけど、頭部は凍らせて持って行きたいでしょ?だから頭部だけでも筏を作って欲しい」
全員が黙った。それでも一分程してヨハンが再起動した。
「胴体も持って行くつもりか?」
「だって、ヨハンだって本音は持って帰りたいんでしょ?」
「…」
ここでリアンナ王女が口を開いた。
「胴体も頭部も持って行けるのね?水魔法を利用しながら川を流して?」
「はい」
「でも、あなたはどうするの?魔獣の死体と一緒に流れていけないでしょ?」
「大きなウォーターボールを作って、それに座って一緒に流れて行きます」
私以外の全員が頭を抱えた。
「そんな事が出来るの!?」
「水面に浮かんでいるだけですから。空中を飛んで行くなら魔獣を持って行くのは無理ですが」
ヨハンが続けた。
「さっき言っていた魔法か。俺も乗れるか?」
「濡れて良いなら多分出来るけど…」
「じゃあ、それで行こう。リアンナ、筏を頼む」
「…まだ首は切れてないわよ?」
「だから、平行して準備してくれ」
「そうね、そうしましょう」
連絡の兵をまず出発させて、川原近くへの馬車の派遣を依頼させた。そして、第三騎士団の騎士達は首の切断を、リアンナ王女の護衛騎士達は木を切り、筏を作った。
「私達は一休みしてから出発するわ。そちらは場合により川原に打ち上げて休憩しながら進んで頂戴」
リアンナ王女がヨハンに告げた。
「分かった。こちらも適当なところで時間調整をしながら北の砦に近づく。じゃあ、騎士達は頼むぞ」
「ええ。そちらも気を付けて」
そう言う訳で、私とヨハンは大きなウォーターボールに乗り、大オオトカゲの胴体、首と連れだって川を流れていく事になった。
「全く、テティスといると退屈しないな」
「こんなところまで連れて来たのはヨハンなんだから、私一人のせいみたいに言わないでよ」
「分かった、分かった。我が姫君は素晴らしい女性だよ」
「取って付けた様に言わないでよ」
そもそも貴方の姫君は聖女でしょ。
大きな生き物が成長・生存できる条件は、『餌を取れるか、餌場に移動できるか』だと思ってます。この大オオトカゲの場合、滝壺に首を突っ込んで、遡上してきて滝を登れないで困っている魚類を食べてるのは明らかですよね。でも、それを食べ尽くした後でどうるすか。当然、川を下流に流れていって、他の餌場で食べる訳です。帰りは足でゆっくり帰りますから、そうするとまた滝壺に魚が集まっているという訳です。そういう事で、この大オオトカゲの体を川に流す事ができる訳です。川を流れられない程に体が大きくなったら、その時この大オオトカゲは飢え死にすると思います。




