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4−10 北西に人はいない

 翌朝、北西に向かう道は馬車が通れるものだった。一時間進んだところで、例により防御拠点で一休みする。拠点を囲む石の壁には苔が生えている。

「年代物なんだ?」

「年代もあるが、こんな外壁を掃除する暇がないんだ」

「油断をすると何かが襲ってくると?」

「それもあるし、ここから先がどんどんヤバくなってくるから、先に進むだけで手一杯なんだ」

…そんなところにか弱い女生徒を連れて来ないでよ…


 次の拠点は石壁の内側が広かった。

「ここに馬車を置いて徒歩で進む。軽装歩兵と金属鎧の騎兵がここで待機して救援に備えるから、緊急事態には足止めのアイスウォールを作る場所を考えながら進め」

「何が出るか分からないのに、防御方法なんて考えられる訳ないでしょ?」

「何でも出る。大体が一般人にはどうにも出来ない魔獣が出る。騎士達でも一撃を防ぐのが手一杯の魔獣と考えろ。お前が知恵を絞らないと、大損害になると心得ろ」

勝手に連れてきてその言い草は無いんじゃない?と思うけれど、他人に頼らず倒しきれというのだろう。


 とりあえず片手剣と小型の盾で武装した兵が先導してくれる。そして見晴らしの良い場所に着いた。

「どうだ、何かいるか?」

何かって小さいのがうじゃうじゃいるけど、一角ウサギを一々殺して私が精神的ダメージを受けるのは避けたい。

「大きいのはいないみたい」

「大物狙いも程々にしろ。遠くに気配は感じないか?」

「人っぽいのが北にいるけど?」

「ここいらに俺達以外に王国の部隊はいない。そして、ここで一人で生き延びられる一般人などいない。とりあえずそいつをどこで倒すか考えろ」

「崖の下の方にいるのよ。だから崖の上の方に布陣したいよね?」

「どっちだ?」

「あの辺の向こう側に崖があるの」

ヨハンが兵に聞いた。

「向こうの崖の上と崖の下に行くルートはあるか?」

「直線ではありませんが、行けます」

「じゃあ、行こう。テティス、都度警告を出すかぶっ飛ばすか決めろ」

「小ぶりのアイスランスで吹っ飛ばしてから考えるわ」

「それで頼む」


 崖に近づいたところで、ヨハンが立てた指を口に近づけて静かにしろ、のジェスチャーをした。崖から見える風景は、牛の頭を持った二本足で立つ魔獣が小動物を食い散らす姿だった。小動物は長めの耳と一本の角が生えている様に見える…


 誰かが口に出した。

「ミノタウロス…」

音というか、気配を感じたらしい、ミノタウロスは上を見上げ、地面に置いてあった武器を取った。棒に石が縛り付けてある。あの魔獣はそれなりの知恵を持っているんだ。ミノタウロスは崖を迂回するルートを知っている様で、こちらに登って来ようとしている。


「テティス!」

うん、一角ウサギを食べるとは何て奴!つまり私の様なか弱い小動物系女子を食い散らかす男の屑と言う訳だ。怒りの余り大き目のアイスランスをミノタウロスの斜め上から叩きつけてしまったが…気付いたミノタウロスがアイスランスに向けて動いた。が、吹き飛ばされた。ざまぁ。


「今、あいつは何をした?」

ヨハンが聞くけど、無謀な事をしただけだよ。

「石斧で叩き返そうとしたのよ」

それを聞いたヨハンが大笑いした。

「はははっ、テティスの丸太ランスを叩き返すって!?何て男らしいんだ!」

これには近くにいたリアンナ王女が反応した。

「単なる脳筋なんじゃない?」

私もそう思う。っていうか、丸太ランスって何よ。もっと女らしい名前にして欲しい。


 ミノタウロスはむくっと立ち上がった。ダメージはないらしい。まあ牛だから蹴っ飛ばされる勢いで何かがぶつかっても屁でもないんだろう。今度は正面からアイスランスを叩きつける。ミノタウロスはショルダータックルで押し返そうとした。が、もちろん吹き飛んだ。

「肩で受けたのか?」

「そうみたい」

「やるな。でもどうせなら角で押し返して欲しいぞ」

知らんがな。牛のする事なんだから。


 ヨハンのリクエストに応える訳ではないけれど、斜め上からもう一度アイスランスをぶつけてみる。ミノタウロスは下から振り上げた石斧で打ち上げ様としたけれど、もちろん質量に負けて吹き飛んだ。

「凄いぞミノタウロス。自分の腕力に自信があるんだな」

「だから脳筋なだけでしょ」

ヨハンの反応にリアンナ王女が続ける。私もそう思う。

「テティス、奴にダメージはあるか?」

「分かんないよ。顔色に変化はないし」

「まあ、顔は毛で覆われているからな。しかし、余り弱い者虐めを続けても可哀相だ。そろそろ楽にしてやれ」

どっちが弱い者なんだよ!と思うが、楽にしてやる方法が浮かばない。凄い元気だし、あの子。

「元気だから中々楽にならないと思うよ」

「そうだな、じゃあアイスウォールで囲って氷漬けにしてしまえ」

気楽に言うなぁ…

 ちなみに、ミノス王の牛ことミノタウロスは肉食です。アテナイから9年ごとに少年少女を7人ずつ生贄として捧げていたとの事…そっちの意味の肉食!?しかもバイ?


 という訳で、一角ウサギを食べるシーンはテティスにとってそう言うイメージに見えてます。

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