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4−2 北への旅路

 夏休みが始まり、アルベルト商会の馬車の集団にファインズ侯爵家の馬車が混じり、第二騎士団の駐屯地がある王都北の街に移動した。

「我々の到着を待って、第二騎士団の先遣隊が出発する。1日遅れで我々が続き、第二騎士団の輜重隊が続く。つまり、前後を第二騎士団に守られる格好で軍用道路を進むから、何らかとのトラブルはほぼ無いと考えて良い」

と言うのがヨハンの説明だった。

「何のトラブルを想定しているの?」

「もちろん、ダミアン・カペルやセシリア・ストーナーが因縁を付けにくる事だ」

「いや、態々こんなところにまで来ないでしょ。休み明けにはまた近づけるんだから」

「冗談だ。後は盗賊とかだな」

「北部は盗賊が出るの!?」

「…お前の実家の領地は田舎だから呑気なんだろうが、普通は街道沿いには盗賊が出るぞ」

「普通って言われても凄く嫌なんだけど」

「仕方ない。それも人の営みだ」


 出発から1時間ごとに休憩があった。馬がそんなに長く走れない事、お花摘みなどの野暮用も必要な事からだった。二回に一回の休憩地は騎士団の中継地点なのでちゃんとしたトイレがあったから、その時までお花を摘むのは我慢した。


 そういう訳で騎士団の施設の裏の林に足を踏み入れてみた。

「お前は本当に呑気だな」

付いて来たヨハンが呆れ声を上げた。だって暇なんだもん。

「ほら、葉っぱの裏に緑の芋虫」

「お前は芋虫は大丈夫なんだな?」

「毛虫は嫌だけどね。例えば凄い色した芋虫が揚羽蝶になったりするじゃない?だから芋虫は嫌いじゃない」

「今度枕元に置いておいてやる」

「いや、そういうのは結構です」

下の方に小川が流れているけれど、そこまで行ったら流石に呆れられそうだ。

「気になるか?」

「ヘビとか変な生き物がいたら嫌だから止めとく」

「ヘビは駄目なんだ?」

「毒があるのがいるでしょ?蜂もそうだけど、毒が体に入ったら動けなくなる事もあるから、一人で動く時は注意してるわ」、

「用心深い事は良い事だな」

「田舎あるあるだと思うけど」

田舎には草木をみだりに手で掴まない、などのルールがあるんだ。


 三日も馬車の旅が続くと体中に疲労が蓄積してくる。休憩の度に腕を引っ張ったり体を捻ったりする。

「さすがのお前も草むらの虫を探す元気は無くなったか?」

「最初から探してないでしょ!」

「まあ、明日から山岳地帯に入り馬車道以外は普通の山林だから、下手にうろつくと崖に落ちたりするから気を付けろよ」

「え?王領って山の中にあるの?」

「王領自体は盆地にある。ただ、平地は畑作をやっているから、軍用道路は山沿いを走っているんだ」

「盆地…何でそんな場所に王領を作ったの?」

「決まってる。人類を魔獣の侵攻から守る為だ」

「ああ、ファインズ家で激戦地だって聞いたけど」

「王領が北に飛び出していて、そこから夏と秋に魔獣狩りの遠征をするんで、その他の北部も何とか魔獣を食い止められているんだ」

「呑気な南部と違って北部は大変なんだね…」

「まあな、それで不満を持つ連中が、ラッセルとか言う文句が多いだけの奴の周囲に集まっている訳だ」

「でも文句を言ったからどうなる訳でもないでしょ?所謂地政学的な宿命なんだから」

「バカ。だから南部の田舎の領地が狙われたりするんだ」

「あっ…」

「西部のヘイスティング家を使っているが、南部の家を潰して後釜に入ろうって北部の家は歴史的に少なくない。そもそもヘイスティング家自体が麻薬売買の実績がなく、入手経路が上流を辿れない様になっていたとリチャードが言っていたから、ヘイスティング家は嵌められたんだろうな」

「じゃあ、誰がカーライル家を狙っていたのかは分からないんだ?」

「まあ、だからエリザベス・カーライルを泳がしているんだが。だから、何かあったら報告しろよ」

「うん…分かってる…」

分かっているとは言うけれど、ベスお姉様が罪に問われる様な事を言うのは心苦しい…そんな風に憎まれる理由が分からないんだから。特待生になっただけでそう憎まれるものだろうか。


 そうして、六日がかりで王都から北部国境の第三騎士団の城塞…の南側にある王家の別荘に着いた。

「お忍びと伺っておりますれば、お迎えも控えめになっております事をお詫び致します」

執事の言葉に、ヨハンも簡潔に答えた。

「構わん。表向きは単なる魔法学院の特待生の魔獣討伐練習での訪問だ。いずれ公式な訪問がある際にはお互い、芝居じみた祝宴を演じてやろうじゃないか」

「その日を心待ちにしております」

しかしヨハンは口が悪い。公式行事を『演じる』と言い切る。真心を持った対応などとは思っていない。打合せ通りに演じるお題目なんだろう。


 私の部屋はそれでも客間だった。ヨハンが付けたいつもの侍女リーゼ、ファインズ家が付けた侍女シルビアが待機するお嬢様待遇だ。そこに侍従のオットーを従えてヨハンがやって来た。

「明日は周辺を確かめながらゆっくり進む。今晩は余計な事をせずに早く寝ろよ」

「お陰様で休み明けにテストがないから余計な事をする必要はないわ」

「ダミアンと聖女候補に感謝しないとな」

「ぜっったいに嫌」

「まあ、それだけ元気があれば良い。小型の背嚢に装備を準備しておけ。リーゼに指示してあるから何を持っていくかは覚えろ。いずれ自分でやらないといけなくなる」

「そうなの?」

「魔法アカデミーに入ったとて、破壊力または防御力が必要な時には呼ばれる事もあるだろう。そんな時は付き人などいない。自分でやるんだ」

「そうか…」

王立魔法アカデミーに就職したなら、騎士団の魔法兵の手に余る時には応援にも呼び出されるだろう。


 魔獣討伐…その言葉に私はまだ現実感を持てずにいた。

 明日はお休みします。台風が日本を横断しそうです。皆様もお気をつけて。

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