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1−3 避暑地の出来事 (3)

 翌日、私はもう街を見て回る気なんか無かった。昼前に早い昼食をとって、両親とエリザベスお姉様はグラントン公爵の開く大規模お茶会に出かけて行った。十六才前後で望ましい婚約相手がいない少年少女を集めて行われるこのお茶会は、王国一の婚活会だった。


 我がカーライル伯爵家は地味な田舎貴族で、また現領主である父と母がしばらく領地に引きこもっていた事から、次女のエリザベスお姉様の結婚相手は中々見つからなかった。エリザベスお姉様の魔法学院進学に合わせて両親も王都に移ったが、それで急に結婚相手が見つかる筈もなかった。だからこのお茶会には両親もベスお姉様も期待していた筈だ。


 今年のお茶会で相手が見つからなければまた来年も参加する事になるだろうけど、多分二回目の参加者は相手が避けると思われた。そもそも普通には相手が見つからないからお茶会に参加する人が多いのに、そんなその気の人達の中でも相手が見つからないというのは大分条件が悪い人物と思われるのだから。


 ベスお姉様は魔法属性判定の時に、『才能がある』と評価されて両親が狂喜した自慢の娘だ。それは長女のレティお姉様が『魔力が弱い』と評価されていたから猶更だった。我が家は娘三人しか子供がいない為、誰かが婿を取る必要があった。そして父は領地を引き継いでからすぐにやらかしたらしく、そのお陰ですっかり自信を無くしており、娘婿に早く領主を譲って引退する事以外考えていなかった。


 そう言う訳で長女は魔力を持つ貴族子女の義務である魔法学院を卒業してすぐに商家に嫁に出された。貴族議会の出席以外は殆ど貴族付き合いをしていないカーライル家としては、魔力が弱いという評判の長女を貴族の跡継ぎに嫁に出す金もコネもなかった。


 私にとっては他人事ではないか。小柄で見た目も年齢より子供っぽい私は器量を褒められた事はない。魔力判定の時も『水属性ですね』と言われただけで、特別褒めてはもらえなかった。今でもベスお姉様は服を新調してもらえるけれど、私にはそんなお金をかけてもらえない。まあ、我が家に余力がないという事もあるけれど、だからこそ魔法学院を卒業したらすぐに嫁に出されるだろう。支度金が用意できないから平民相手になるのは確定か。嫌なら逃げ道を考えておかないといけないけれど、どんな方法があるか…


 三人はにこやかな顔をして帰って来た。

「明日の昼は外食をするから、朝から外に出ない様に」

つまり、婚約相手の家と顔合わせをする様だ。


 翌日向かったホテルは、私達が泊っているものより格上のホテルだった。領地の領主館の食堂よりは狭いが、立派な調達品が並んだ個室の奥に身綺麗な四人が席から立ち上がった。

「よくいらっしゃった。この、昨日はいなかった者は三男のカスバートです」

「お招きありがとうございます。こちらは三女のテティスです」

私が頭を下げたその時、相手の四人は誰一人私の方を見なかった。

「それではお座りください」

そうして一同は席についた。


「エリザベス嬢は魔法学院の一年生ですから、我が家のフィリップとは一年違い、学院に通いながら親交を深めて、半年後を目途に婚約を決めると言う事でよろしいでしょうか?」

「ええ、相性を見極める時間が必要でしょうから」

「フィリップの方が卒業が一年早いので、我が家の領地で一年程度領地で学ばせた後、王都のタウンハウスで貴家の領政をご指導いただく、という事でよろしいでしょうか?」

「ええ、ヘイスティング伯爵家でご指導いただければ助かります」

ここでヘイスティング伯爵家の次男、つまりベスお姉様の婚約者候補が口を開いた。

「美人と評判のエリザベス嬢と縁が出来て嬉しいです。学院では才色兼備と噂になっており、誰が婚約者になるか気にしている者も多いのです」

顎の尖った細面の男だが、どうも冷たい印象がある。口元は笑っていても、目が笑っていない様に見える。

「ありがとうございます。噂程出来が良いかは分かりませんが、フィリップ様に恥をかかせない様に努力致します」

お姉様がこの男で良いのなら私から意見をする事は出来ないけれど、お姉様より爵位が欲しい様に見える。両親共に領地から王都に居を移してからまだ一年も経っていない。この男やヘイスティング伯爵家の評判とかは確認したんだろうか…まあ、半年付き合ってから決めると言っているから、その間に確認するだろうけど。


 ちなみに、私に話が振られる事はなかった。もちろん、向こうの三男も黙って食事をしていたけれど。やはり家を継がない次男以降も娘も、魔法学院を卒業するまではおまけ扱いで、それまでに身の振り方を決めておかないと明るい未来は迎えられないのだろう。よほど裕福な家でなければおまけの子供達に労力もお金もかけられない。


 親が私に関心が無く頼れない以上、魔法学院に入学する前に進路をある程度決めて、早期に親に四の五の言わせない体制にしないといけない。そう、長女の結婚先など親が勝手に決めて卒業後すぐに追い出したくらいだ。二年生の途中ではもう就職先を決めている状態でないと長女の二の舞になる。


「今日はお招きいただき、ありがとうございました。有意義なお話が出来たと思います」

「いえ、こちらこそ良縁が出来て嬉しいです」

父親達が話を纏め、昼食会はお開きになった。


 翌朝、両親とベスお姉さまは王都へ帰って行った。貧乏伯爵家は避暑地に長く逗留する様な余裕はないんだ。そして私は侍女と侍従に連れられ、領地に帰った。

 魔法属性判定は、最果てやキャサリンと同じ、初級魔法の呪文を唱えさせて発動した属性で判定する方法です。


 ネットカフェは涼しいけど、なぜか文筆活動が捗らない…まあ木曜分まではあるから良いか。


 

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