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3−9 試験結果

 月曜の朝、特待生寮を出たところで足が止まっていた私をみたヨハンが、手首を掴んで引っ張り出した。

「こんなところでぐずぐずしていても明日は来ないぞ。さっさと結果を確認しろ」

「まだ今日が始まったばっかりなのに明日なんてすぐには来ないでしょ」

「お前も妙な反論をするな…まあそれは良い。結果を見て今日を始めようじゃないか」

ひぃ、と言葉が出た。

「見るのが怖~い…」

「その性格に能力が見合っていれば小市民として生きていけるんだろうがな。お生憎様、お前は化け物だ。さあ、結果を確かめに行くぞ」

「待って、心の準備が…」

「歩いている間に準備しろ。時間は限られているんだ」

ぐずぐず言い続ける私に構わず、ヨハンは私を引っ張って行った。この俺様め。


 1年棟の掲示板の前にはもう50人以上が集まっていて、掲示板の真ん前でダミアン・カペルとセシリア・ストーナーが陣取っていた。あれ?ここでふと気付いた。

「ねぇ、ヨハン。ダミアンって成績良いのかな?」

「頭が良かったらそういう評判も耳に入るだろ。そもそも魔力は並だ。総合成績はたかが知れている」

「何の自信があってあんなに態度が大きいのかしら?」

「取柄が無いから口だけ達者になったんだろ」

「そういうもの?」

「頭が良ければある程度理屈が出て来るだろ?あいつはいつも感情論を捲し立てるだけだ。理屈より勢いってタイプだ」

「勢いだけでああも強気になれるものなのかしら?」

「勢いだけだから勢いを止められない様に強気で話し続けるのさ」

「普通は裏付けになるものが無いと強気になれないものだけれど」

「マフィアとか詐欺師はああいうタイプだぞ」


 そう話しているところに教師が丸めた紙を持ってやって来た。

「遅いぞ!」

ダミアンが吠えた。これだけ文句が多い人と付き合っている人達の気が知れない。私なら今すぐ縁を切りたいタイプだ。

「いくら早く来ても遅く来ても結果は一緒だ。すぐ貼ってやる。たまには黙って待ってろ」

『たまには黙って』と言うところに教官の本音が見える。うん、ダミアンは普通にやかましい奴だよね。


 そうして貼り出された紙には、10人の名前が書かれていた。


1位 ラルフ・アルベルト

2位 テティス・ファインズ

3位 ジェラルド・ファインズ

4位 プリシア・サマセット

5位 ディビット・ラムレー

6位 アルバート・フィンチ

7位 ニール・トレヒュー

8位 ヴィクター・ウィロビー

9位 カーター・コプレー

10位 ピーター・キルビー


 うん、ファインズが二人入ってるな。さすが侯爵家。それで、カーライルが無いんだけど…

「ねぇ、ヨハン、カーライルが無い」

「バカ、今、お前はテティス・ファインズだろう」

「あ…何で2位!?」

「どうせ魔法実技の試験ではやらかすだろうと思っていたから、それはある。後、オットーが借りてきてお前に読ませている文献は魔法アカデミーの論文だ。基本は魔法学院卒業程度の知識がないと読めないものだ。それを読んでるお前の基礎が出来てない訳がないだろう」

「…言ってくれれば良かったのに」

「聞く耳持たなかったろう、お前は。俺はいろいろ宥めたぞ?」

「あ…ごめん」


 何で!?と口に出した人間が他にもいた。

「何でセシリアが入ってない!?不当だ!」

ダミアンだった。そりゃあ、出来が悪いから入ってないんだろう。それにしても、普段は『侯爵』を笠に着て威張っているが、今回は『聖女候補』を笠に着て喚いている訳か。自分の成績は最初から問題にならないんだね…


 対して、教官が述べた。

「不当でも何でも無い。この10人は全員、魔法実技は1年終了相当以上の実力があり、実技試験でも問題なく魔法を発現し、魔法理論の試験も15位内に入っている。要するにこの10位以内に入っていない者は、実技も理論も10位以内に入っていないんだ」

ジェラルドとプリシア様に押し出された平民の特待生二人、ザックとシドはどちらも駄目だったんだね…次は頑張ってね。


 一方、セシリアが悲しそうな顔をした。でも彼女の水気は沸騰している。怒りと羞恥で。相変わらず仮面を被った女だね。

「私の評価が低いんですね…」

続いてダミアンが吠えた。

「聖女候補に不当な評価をするなど、許されないぞ!」

対して教官は冷たく答えた。

「残念ながら、先代聖女様と候補を争った人達の記録が詳細に残っているんだ。現時点でセシリア・ストーナーの成績は前回の聖女候補の全員に劣っていると言わざるを得ない」

前回の聖女候補がどの様な人達だったかヨハンは聞いているのだろうか。横に立つヨハンは冷ややかな微笑をたたえている。


 そう言われてもダミアンは引かなかった。なるほど、勢いで押し切ろうと言うんだ。

「それでも、聖女候補の聖魔法の希少性を加味したら特待生として扱うのが正当だろう」

教官が答える前にヨハンが呟いた。

「実力を評価しろ、って言ったのはお前等だろ」

「何ぃ!」

ダミアンにも聞こえたらしい。

「即刻実力を評価しろ、と言って、以前の聖女候補と比較して実力が無いと言われたら、今度は希少性を考慮しろ、か。笑わせんな」

「手前ぇ!」

「その聖女候補はテティスよりマシだと豪語してたよな。じゃあ、聖魔法の希少性でテティスの攻撃を何とか出来るのかよ」

「そんなの、やってみなけりゃ分からないだろ!?」

「やってみなくても分かるだろ、普通。そうだろ、教官」

教官も頷いた。

「その点では考慮の余地はない」

それを聞いてセシリアの水気が更に沸騰した。でも、口にしたのはおしとやかな言葉だった。

「酷い…」

俯いて被害者ぶっただけだけど。このセリフが得意技なんだねきっと。


 これを聞いてダミアンが激高した。よくよく沸騰しやすい奴だなぁ。

「教官まで一緒になって聖女候補を侮辱したな!大問題だぞ!貴族議会が黙っていると思うなよ!」

それに対してヨハンが答えた。

「貴族議会は動かないさ。怒っているのはお前等だけだからな。しかも理由は身の程を知らない、ってだけだ。教官、どうやら馬鹿どもには実際見せてやらないと理解出来ない様だ。練習場を使って良いか?」

「魔法対戦は許可出来ないぞ?」

「そんな死人が出る事はやらん。テティスの攻撃力を見せればさすがに分かるだろ」

死人…アイスランスを打ってみろと言う事?

 テティスの攻撃魔法で死人が出ると普通に思っている教官とヨハン。それでも本作は普通の恋愛小説ですから。もうすぐ楽しい4章です。まだ書いてないけど。

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