3−8 前期試験
試験については月曜朝一番が魔法理論の試験になっていた。生徒は他の教科そっちのけで魔法理論の勉強をしてくると思われる為、教官もその努力が最大限に生かされる様に試験の順番を設定してくれた。特待生とその試験情報を入手できた生徒達は安堵した様だ。試験は毎年の傾向通りの出題だったから。実際は、そういう試験傾向は長年家庭教師をやっている者を雇っている上位貴族の子女なら教えて貰える事が出来た様だった。
ジェラルド・ファインズが魔法理論の試験後に私に声をかけて来た。
「勉強の成果は出せたか?」
「ええ。5年以内の試験を調べて勉強してきたのだけど、ほぼ傾向通りだったから」
「家庭教師も傾向は把握している様だったよ。大体教えられた通りの試験だった」
「それはお互い良かったわ」
「まあ、自分で調べて傾向を予想する方が主体的で、良い経験になったと思うな」
「ちょっと不安だったけどね」
「でも、今後もそういう勉強方法をやった方が自主性を持って学習する癖が出来て良いだろう。これからも頑張れよ」
「はい」
普段は澄まし気味のジェラルドが親し気に微笑む、その顔に私の顔も綻ぶ。一方、周囲の女子達の水気が不穏な空気を纏う…待って、彼は私と義理の兄妹だから!セシリア・ストーナーもこちらを睨んでいる…まあ、あなたには試験前倒しの刑をくらった恨みがあるから、そんな顔をさせられると少し気が晴れるわ。
昼食の個室で、ヨハンからも尋ねられた。
「兄貴とにこやかに話していたところを見ると、試験の出来は良かったんだな?」
「別ににこやかに話をしていた訳ではないけど、まぁまぁだったかな」
「一般教科は特待生の順位では重視されないとの事だから、後は水曜の魔法実技だな」
「…速度重視でやれば良いのかな?」
「どうしたら高評価になるか、その場で聞いてみたらどうだ?」
「良いの?それ?」
「あちらも特待生に何を期待しているか、そのものを見せて貰った方が嬉しいだろう」
「そう。なら聞いてみるわ」
魔法理論はともかく、その他の教科は付け焼刃の者達もそこそこの点数を取れそうだった。外国人はさておき、国語と歴史はそこまで専門的ではないし、それ以外も一般常識の範囲だったから。
そうして教科の試験が終わった時、セシリア・ストーナーがまたやらかし発言をしてくれた。
「先生、試験結果として、特待生枠に入った者はどう知らされるんですか?」
「個人的に10位以内に入ったかどうかを知らされるだけだ」
それに対してダミアン・カペルが噛みついた。
「公平な結果かどうか、皆に知らしめるべきだろう!それとも明らかに出来ない理由でもあるのか!?」
教官は渋い顔をした。
「別に生徒側が望むなら上位10名を公表するのは構わないが」
「なら公表すべきだ!」
ヨハンは机に両肘をついて、俯きながら笑いを噛みしめてぶるぶる震えている。というかくっくっと笑いがこちらに聞こえて来ている。ヨハン、それむしろ不審者だよ。それ私の事を笑ってるなら許さないからね!校舎を隔てた山なりの超長距離のウォーターボールでずぶ濡れにしてやるからね!
「分かった。来週月曜の朝一に一年棟の掲示板に10位までの名前と総得点を張り出す事にする。正式な発表方法は金曜の朝に報告する」
ダミアンやセシリアは満足そうに笑っている。10位以内に入る自信があるなら笑えるだろうけど、普通に考えたらジェラルドとプリシア様あたりが10位以内に入りそうだから、特待生でも8位に入れそうにない者は恥をかくと思う。セシリアが8位以内に入るかどうかは疑わしいけど。
平民の特待生のザックとシドだけじゃなく、貴族の特待生でもヴィクターやカーターは暗い顔になった。私も不安な顔をしていると思う。それでも顔を上げたヨハンが私に言う。
「心配するな、魔法実技で二番を取れば問題ない」
一番はあなたなのね。そりゃ王子レベルの魔力を持つあなたが一番で決まりだろうけど。
そう言う訳で、水曜朝の魔法実技の試験で、まず行う予定の魔法を自己申告して、合格レベルかどうか確認した。
「アイスランスの六連発なら合格点を貰えますか?」
「普通の水魔法師の三倍の速度が出せるなら充分合格だが、お前は的の横を狙うだろう?6発はどう並べるんだ?」
「二つの的の間に斜めに6つ並べます」
「じゃあ、それでやってくれ。速度と狙いが確かなら合格だ」
「じゃあ、行きます」
三倍の速度で合格と言われた。以前ヨハンに、『三分の一の時間で冷やしても冷やし過ぎ』と言われた。なら四分の一の冷却時間で充分だろう。これなら四倍の速度だから合格だよね。斜めに6発、アイスランスが並んだし、狙いは正確だった筈だけど、少し間隔が短すぎたらしく、的が埋めてある土台の土が崩れて正確にアイスランスが着弾したか分からなくなってしまった。
「あ、すみません…」
「まあ、良い。連発速度は充分以上に早かったし、見た目は狙い通り着弾した様に見えた」
「ありがとうございます」
テティスが去った後、教官達が話し合った。
「どうします?サマーキャンプに呼ぶレベルですが…」
「別件で王家から夏休みの行動が指示されているらしい。この夏のキャンプ招集はなしだ」
「まあ、では合格と言う事で」
今後の為に、一度過去作で魔法をどんな風に書いていたか確認しようと読んでみました。ネットカフェで1時間、自分のスマホで自分の作品を読むという、色々無駄遣いをした今日でした。




