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3−7 試験前日

 試験前日の日曜の午前中、特待生用図書室には平民の特待生のザックとシドの姿が無かった。カーター・コプレーが行先を知っていた。

「学院の図書室で他の平民生徒に過去試験を見せてあげるってさ」

「平民同士は仲が良いのかしら?」

「いつもなら特待生はやっかみの対象だと思うけど、今回は背に腹は変えられないからな。時間が無さ過ぎる」

「ああ、みんな毎晩三回以上ダミアン達を呪ってるよね」

「俺なんて夢の中でも罵ってるよ」

「夢の中では言い返してこない?」

「いや、十倍にして言い返して来やがる。毎晩魘されてるよ」

「…それはそれは」

コメントしようがないよ。


 ともかく時間がない。初日に最重要教科の魔法理論があるからそれに全力で立ち向かう。

「フーリエの魔法波動の周波数変換数式は…」

「おい、それ三年の試験じゃないか?」

「ああ、三年の試験集が何で紛れているの!?」

「俺じゃないぞ」

「俺もだ」

男爵子息のカーターもヴィクターも言う。それに対してヨハンが止めを刺した。

「お前が気分転換で持ち出して来たんじゃないか」

「いや、ちょっと眺めてみようとしただけだから」

「余裕だな」

「余裕があって羨ましい」

「何でそんな余裕なんだよ」

三人が寄ってたかって私を責める。この三人がこんなに仲良しとは思わなかったよ。

「余裕なんてないけど!ちょっとよそ見したい時ってあるじゃない?」

「いや、試験直前に上級生の試験なんて見たくない」

「そうそう」

「おかしいぞテティス」

またヨハンが止めを刺す。俺様は人を貶すのが好きなんだ。くそう。


 昼食は特待生食堂の個室でヨハンと食事を取る。

「少しは気が済んだか?」

「気が済むって何?」

「特待生にとっては一年の試験なんて復習みたいなもんだろう。一通り見れば気持ちが落ち着いたんじゃないのか?」

「全然落ち着かないよ!全部忘れてるって思い知らされて…ああ、どうしよう。本当に10位内に入れなかったらどうしよう!?」

「まあ落ち着け。とりあえず気持ちが落ち着く言葉を教えてやる」

「何かいい言葉があるの?」

「『そのうちなんとかなるだろう』だ」

「何とかならない事の方が多いと思うよ!」

「じゃあ、これはどうだ『明日があるさ』」

「その明日が試験だから問題なんじゃない!」

「いや、意味が違うぞ。次があるって意味だ」

「そんな先の事考えられないよ!養子になったばかりで無様な結果になったらって思うと夜眠れなくなるんだよ!」

「そんな時はこう思うのさ『明日は明日の風が吹く』って」

「だからその明日が問題なんだって!」

ヨハンもさすがに溜息を吐いて黙った。


午後には平民の特待生、ザックとシドも合流した。

「学院の一般の図書室は午後は閉まるからさ、女の子が泣き出しちゃったんだよ。『絶対間に合わない~!』って」

「まあ、気持ちは分かるな」

ヨハンが私に目をやった。まだ泣いてないよ!?


 1年大多数の惨状にカーターが思わず口にした。

「凄いな、ダミアンと聖女候補。今回の件で1年全員を確実に敵に回したぞ」

全員が頷いた。少なくともここにいる6人は敵に回している。私とヨハンは入学の日から敵視しているが。


 夕食の後は私は涙目になりながらヨハンに話した。

「もうちょっと見直したいから、もう部屋に戻るね」

「テティス」

「何?」

「睡眠時間はちゃんと取れよ」

「…うん」

「子供じゃないんだから、身体を第一に考えろ。しっかり寝ろよ」

「…分かった。ありがとう」


 テティスが去った後、ヨハンの侍従のオットーが話し出した。

「ちゃんと説明した方が良いんじゃないですか?」

侍女のリーゼも睨んでいる。

「まあ、何時までも俺が面倒を見れない以上、ここまでしか言えない」

「でも、まだ本物の聖女候補が見つかった訳じゃないのですよ?」

「それでもだ。あいつは気を回す方だろう。聖女候補が見つかれば必ず距離を取って来る。その前にあまり親しくなるとお互い辛いだろう」

「そういう自覚があって色々説明しないと?」

「いや、それだけじゃない。あいつが右往左往しているのを見ているのも楽しいじゃないか」

オットーもリーゼもかなり本気でヨハンを睨んだ。

 後ろをくっつける訳にもいかないので、少なめですがここで切ります。夏休みの最終日と試験前日は、やっぱり睡眠削っちゃいますよね。

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