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3−6 試験対策

 翌日、1年の試験だけ来週月曜から前倒しで始まる事が発表された。ダミアン・カペル達と聖女候補セシリアが騒いでこういう話になったのは、特待生その他のその場に居合わせた者達がいち早く広めたから、皆が彼等を恨んだと思う。私も激しく恨んでいる…ダミアンめ、余計な事しかしない。


 ジェラルドが話しかけて来た。

「試験対策はどうする?俺の家庭教師の授業を一緒に受けるか?」

「ううん。特待生寮の近くに特待生用の図書室があって、過去の試験を保管してある様だから、そちらで調べて勉強を進めるわ」

「そうだな、いきなり慣れない教師の授業を聞くよりマイペースでやった方が良いだろう。じゃあ、そちらはそちらで頑張ってくれ」

「ええ、ありがとう」

ジェラルドと教室で話をすると、女生徒達の視線が突き刺さる。でもファインズ家の養女になった事は知られているから、敵意はそんなでもない。

『養女にするって事は、侯爵閣下にはくっつけるつもりはないんでしょ』

それが一般意見だ。とは言え、私達を見たセシリアの水気が真っ黒だ。睨み殺す勢いでこちらを見ている。


 ヨハンが話しかけて来た。

「兄貴と話は付いたのか?」

「とりあえず特待生用図書室で過去問題を探すつもり」

「自力でやるのか、偉いな」

「お兄ちゃんに頼る年じゃないでしょ」

「同い年だしな」

「兄は兄でしょ」

「まあな。じゃあ、今日は放課後、図書室に行くか?」

「教科によって手分けして探す?」

「そうしようか。一応、試験前に一通り見ておきたいからな」

「何か余裕ね?」

「日頃から努力していれば付け焼刃の学習は必用ないだろ?」

「…日頃教科と関係ない文献ばかり読んでいたから、試験には生かせそうにないわ」

ヨハンは口元を上げた。

「いずれ血となり肉となる事もあるだろう」

「いつかはね」


 図書室では司書に過去テスト集の在り処を聞いて、引っ張り出した。魔法理論の過去試験を私が確認し、歴史と国語をヨハンが確認した。


 そこに同じ1年の特待生がやって来た。男爵家子息のヴィクター・ウィロビーとカーター・コプレーだ。

「早いな」

ヴィクターが言うが、時間が数日しかないんだから手早く確認して記憶するしかない。

「お陰様で試験まで時間が極端に少ないからね」

「ダミアンめ、考え無しに騒ぐから」

カーター・コプレーも腹が立っている様だ。

「まあ、あの女が妙な色気を出してるからな」

ヨハンが冷たく聖女候補を批判する。

「そうは言っても、あれだけ言うんだから自信があるんじゃないのか。下手に批判するとヤバくないか」

カーターはセシリアが自信満々に見えたらしい。私からすると勢いだけで言っている様に見えたんだが。


 そこに平民の特待生、ザックとシドが合流してきた。

「早いですね、余裕はなさそうですか?」

ザックの言葉にヴィクターが愚痴気味に返す。

「誰も余裕なんてないぞ。来週月曜から試験なんて急に決まったんだから」

「とりあえず過去試験を写してるんですか?」

「テティスが魔法理論を写しているから、今写していない年の試験を写した方が良いぞ」

「こっちが回答だけど、何年分か見て、よく出題されている問題の回答を写した方が良いと思うの」

「そうします」


 私達5人は魔法理論の試験を先ず書き写しているが、ヨハンは歴史と国語を優先している。外国人故に不得手な試験から始めようと言うんだ。魔法理論・実技の指導は自分の国にいた時に充分学んでいるんだろう。早い人は10才の属性判定後にすぐに教育を受け始めるが、私なんて13才から始めたもんなぁ…必死に覚えるしかない。


 皆、食事の時間まで書き写し続けた。流石に特待生、真面目な人間が揃っている。食事の時間の前に解散した後、私は食堂の個室でヨハンと合流した。

「全部、一度覚えた事だろう?心配する必用はなかろう」

「でも、半年の間に殆ど忘れていたのよ。覚えなおさないと大変よ」

「復習すれば思い出すだろ?」

「何か他人事みたいに言うのね?」

「記憶は良い方なんだ」

「羨まし~い!」


 ヨハンは王子だから、記憶術とか教えられているのだろうけど、田舎娘の私にはそんな技術は無い。また忘れない様にしっかり見直して丸覚えするしかない。いや、理屈が分かっていれば丸覚えは不要なんだけど、理屈も忘れ気味だから結局丸覚えするしかない。


 セシリアとダミアンめ!いつか闇夜に、後ろから気付かれないくらい小さいウォーターボールをぶつけてやる。

 明日はお休み、次は土曜に更新します。

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