3−4 貴族議会の一幕
臨時貴族議会が招集され、禁止麻薬の所持・流通の罪によりヘイスティング伯爵家が処分されると通告された。そこで出席していたラッセル侯爵が発言を求めた。
「そもそもヘイスティング家が麻薬に関わっていると噂に聞いた事が無い。冤罪ではないと言える証拠があるのか!?」
これに対して第一騎士団団長が答えた。
「大聖堂に持ち込まれた麻薬の現物を押さえております。ヘイスティング家については麻薬を入手した経路の一部が判明しており、拘束済の売人の証言も得ております。一方、この麻薬を用いた未遂の冤罪事件があり、その相手の家の領地では麻薬の流通の形跡がなく、王都内でも二カ月の監視により購入した形跡がありません。他方、ヘイスティング家からこの家への麻薬の移動については、それを行った者が認めております。これらの事からヘイスティング家の麻薬所持・流通を罪としました」
対してラッセル侯爵は続けて追及した。
「王都の麻薬流通の実態を明らかにする為には、嫌疑不十分の家も調査すべきではないのか!?家名を明らかにして貴族議会の小法廷にて審議すべきではないか!?」
これには宰相が答えた。
「いつも証拠が充分の貴族の審議すら反対する貴公の言葉とは思えませんな。必用と考えるなら充分な証拠を確保して貴族議会独自の審議を行って頂きたい。そもそも、第二騎士団の貴家領地への麻薬調査を拒否しておきながら、他家の疑惑の追求を要求するのはダブルスタンダードでは?」
「我が領地に対する調査は証拠が無く、明らかな冤罪だ!それに対して実際の麻薬が見つかっている事件なら、その周辺調査は厳しくすべきだ!」
「ですから、その領地に対しては実地調査を既に行っていて、麻薬は発見されなかったんですよ。同様に王都で二カ月の監視の結果も売買の形跡が認められなかったのは既に申しております。それでもこの案件を貴族議会で審議するというなら冤罪の疑いが強く、一方、貴方の領地では実地調査すら拒否されている。この家の審議を行うというなら、貴方の領地への調査も同時に行われないと不公平になります」
「どうしても我が家に冤罪をなすりつけないと気が済まないのか!?」
「それはあなたの言っている事ですよ。嫌疑に対して調査を受け入れて証拠がない家と、嫌疑に対して調査を受け付けない家と、どちらが怪しいかは自明の理です」
「宰相の発言は侯爵家に対する侮辱だ!宰相の罷免を要求する!」
ラッセル侯爵子飼いの家々が騒ぎ出したが、議長がハンマーを何度も叩いて制止した。
「お静かに!事の発端はラッセル侯爵の嫌疑のある家への執拗な審議要求にある。これを押し通すならラッセル侯爵領への現地調査も抱き合わせで行う事が必用と考える。そうしないと公平性が保てない。ラッセル侯爵は嫌疑ある家への審議要求を取り下げるか、領地への調査を受け入れるか選択しなさい」
「証拠なき我が領地への調査は断固拒否する!」
「それでは嫌疑ある家への審議要求は取り下げという事だな?」
「王国内の麻薬蔓延を憂慮する私としては調査を緩める発言は出来ない!その件の判断は議長に一任する」
出席していた第一騎士団団長も宰相も、ラッセル侯爵と距離のある人々も、『だったらあんたの領地も調べさせろ』と思ったが、侯爵はこういう男である。自分に甘く他人の糾弾だけは激しい。
議長は速やかな議事進行の為に、本件の決断を行った。
「ラッセル侯爵から一任された嫌疑の家に対する貴族議会付属の小法廷での審議は不要と判断する」
こうしてカーライル家に対する貴族議会での追求は行われなかった。もっとも、問題の家がカーライル家である事は明らかだった。ヘイスティング家との婚姻は知られていたからである。
貴族議会閉会後、アンドルー・ラッセル侯爵のタウンハウスに立ち寄った同じ北部のケネス・アシュリー伯爵は侯爵に尋ねた。
「よろしいのですか、アンドルー様。南部の同志にはカーライル家の後釜を約束されておりましたが…」
「まあ、よかろう。貧乏伯爵家などいくらでも潰す手がある。順序は逆になったが、麻薬取引の偽ルート捜査の対象としてヘイスティング家には取り潰されてもらう筈だった。そちらの後釜を狙う家々に恩を売れば良かろう」
「どちらにせよ、ヘイスティング家への麻薬捜査は袋小路になる様に仕組まれております。麻薬流通が根絶されない限り、王家や宰相に対する糾弾は続けられますからね」
「そうだ。麻薬に対する不安で市民どもを煽り、それを不安視する貴族家を糾合すれば、王国一千年の権威など容易に覆す事が出来るだろう」
「どちらにせよ無能なればこそ取り締まりが出来ていない訳ですからね」
「そう、売買する者など取り締まりが厳しければ根絶できるのだ。それを取り締まれない無能な権力者を、私の様な権力を恐れぬ者が糾弾せねばならぬのだ。そうしてより善き権力者が政治を担う、それこそ市民と貴族に対する救済なのだ」
「その間に麻薬売買を行う家々からは利益の上納を得られますし」
「それは私の寄与するところではない。あちらが勝手に我が政治活動に利益を感じて持って来るものだ。彼等を糾弾する証拠を私は持たない以上、彼等への嫌疑を冤罪と糾弾するのは弱き者を守る我が大義だ。王家と言う権力が冤罪を生み続けるからこそ、私の様な正義の体現者が必要なのだ。利益は二次的な物に過ぎない」
「…いずれにせよ、私どもも侯爵のお力を頼る以外ありません。今後とも精力的な活動をお願いしたい」
「うむ。私にも君達の協力が必要だ。今後ともよしなに頼む」
「ええ、もちろんですとも」
本章での一番の問題回です。何書いてるのか読んでも分からない人がいたらすみません。
明日からはまた分かりやすくなります。多分。




