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3−1 聖女候補襲来 (1)

 そうして土曜の夕方、私は特待生寮からファインズ侯爵家のタウンハウスに移動…帰宅した。カーライル伯爵家のタウンハウスの二倍もある敷地内には大木が何本も生えており、落ち着いた雰囲気を醸し出していたが、だからと言って大きな屋敷の与える圧迫感は減らなかった。これを我が家と呼べる日が来るのだろうか。


 今後私の部屋になるという部屋は、居室、寝室、衣装室の3エリアに区切られていた。これ、寝室で寝てると衣装室の方から物音がするってパターンじゃないだろうか。


 そして、寝室のベッドには天蓋が付いていた。カーライル家の領地の私の部屋のベッドにすら天蓋は付いていなかったし、いわんやタウンハウスのベッドにも。今思うと、それも両親、姉と格差を付けられていたのだろうか…ああ、人を疑う事を知った私は汚れてしまったのだろうか。天蓋付きベッドの前で立ち尽くす私に、侍女が声をかけた。

「ご主人様がお呼びです」


「ああ、よく来たね。君の部屋はどうだい?」

侯爵家の書斎は扉付きの本棚が壁一面に並んでいた。古い紙の臭いがする…

「素敵な部屋です。ありがとうございます」

「まあ、気に入らない点があればスザンナに相談してくれ。希望には沿う様にしよう」

「はい、暫くは問題ないと思いますが、気になる事があれば相談します」


 書斎にはジェラルドも座っていた。どうやら魔法学院の事を話す様だ。

「二人に来て貰ったのは学院に変化があるので前もって聞いて貰おうと思ったんだ。来週月曜、聖女候補が学院に編入する」

目が点になった。王国内で聖女候補を探している、そういう情報はあったけれど、もう見つかっていたんだ?


 そんな私を見てジェラルドが尋ねた。

「テティスは聖女『候補』について何か知ってるか?」

知っちゃいるけど、どこまで言って良いんだろう?一般論だけ答えておきましょうか。

「最終的に聖女候補と殿下が組んで試練を受け、合格したら聖女が決まると言う程度しか知らないけれど…」


 それを聞いたお義父様が詳しい説明を始めた。

「その認識で合っているが、当然そこに至るまでに段階がある訳だ。まず王家、教会が国内で聖魔法属性を持つ若い女性を捜し、能力を調べている。二十才以下で聖属性を持つ女性は既に十人以上見つかっているが、治癒まで出来る様になるかは継続調査中だ」

ふんふん、とジェラルドも聞いている。先代聖女様が亡くなって半年、まだ次の聖女に相応しい女性は特定出来ていない様だ。

「そんな中、ストーナー男爵が治癒が出来る女性を見つけて養子にしたと申し出があり、ラッセル侯爵が後ろ盾となり聖女候補として名乗りを上げたんだ。ここまでで質問はあるか?」


 普通に考えれば一番気になる点があるけれど、そこはお義兄様に任せよう、とジェラルドの目を見た。視線の意味をお義兄様は理解した様だ。わ~い、以心伝心、私達ってもしかして運命の人?もう義理の妹だからそれは無い気がするけど。

「父上、教会に所属する聖魔法師の中に聖女候補に相応しい女性はいないのですか?」

「勿論、先代聖女様の教師兼相談役だったカミラ・アビンドン様がご存命だが、彼女は当然、前回の聖女候補でなかったし、今回は殿下の妻となるには高齢過ぎる。その他、先代聖女様と働いていた女性達も治癒能力はあるが、殆どが既婚者だ。教会は勿論、失礼ながらそろそろ次世代の聖女候補が必用と思って探していたが、相応しい人物が見つけられなかったから、今も探し続けている訳だ」


 そう聞けば当然気になる点があるけれど、今度はジェラルドの視線が私に向けられた。今度は私が尋ねろと言うのね?

「あの、カミラ様は何故聖女候補にならなかったのでしょうか?」

「先代聖女のジュディス様より聖魔法の知識は豊富だったけれど、肝心の聖魔力に大差があったんだ」

「それは…お気の毒に…」

色々頑張って学んだのに、生まれ持ったものが違うからと退けられる…どんなに悔しかっただろう。お義父様もジェラルドもそんな私を見て微笑した。

「聖魔法はともかく、君は魔力については持てる者なんだが、敗れた者を気遣える君は優しい娘だね」

いや、認められない立場だったので、当然認められなかった方に肩入れしちゃうだけですが。


「他に質問は?」

お義父様の言葉にジェラルドが私を見る。いや、色々聞かないといけない事があるでしょ?

「その、聖女候補と名乗りを上げた女性は他の方々と比べて優れているのでしょうか?」

「そこの見極めとして、魔法学院に編入する事になった。だから君達に話したかったんだよ」

それを聞いてジェラルドが当然の質問をした。

「魔法学院に聖女候補を育てる課程があるのですか?」

「一応、先代も先々代も試練の前に魔法学院で教育・訓練を受けている。

どこまで有効かは分からないが、それを踏襲する予定なのだろう」

「テティスに話したと言う事は、特待生扱いになるという事ですか?」

「いや、そこまでの能力があれば既に特待生になっていて、聖女候補筆頭呼ばわりされているだろう。テティスを脅かす程の能力はないよ」

ジェラルドも私も、それなら何故にそんな話をするのかさっぱり分からなかった。


「なんでそんな話をしたか疑問かね?」

ジェラルドも私も頷いた。

「言っただろう?ラッセル侯爵が後ろ盾になったと。トラブルメーカーのラッセル侯爵が王都に連れて来る人間なんだから、その目的は既存の秩序の破壊だろう。ラッセル侯爵の切り込み隊長を自任するカペル家の子供もいる。騒ぎを起こすだろうから、気を付けて欲しいんだよ」

「…その聖女候補は1年に編入するんですか?」

「今年16才になるそうだからね、同級生だ」

つまり、ダミアン・カペル率いる愚連隊の姫になる訳だ。頭が痛い。

 そう言う訳で、3章もトラブルの予感です。

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