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2−10 カーライル家の慶事 (4)

「エリザベス・カーライル。本件、ヘイスティング家による禁止麻薬の所持、移動の疑いで捜査を続ける事に異論があれば述べよ」

ベスお姉様は悔しそうな顔で、ぎゅっと唇を噛みしめるだけで言葉を発する事が出来なかった。

「カーライル伯爵。本件をヘイスティング家の仕業として捜査を続ける事に異論があるか?」

「いえ、ありません」

「エリザベス嬢はそうではないらしい。結婚が潰れたのはテティス嬢のせいと考えている様だ」

「は、申し訳ありません」

「無実のテティス嬢を恨む様な者がいる貴家は、特待生の実家として相応しくないと言わざるを得ない。幸いにして、ファインズ侯爵家が養子縁組について前向きだ。テティス嬢の移籍に異論があるかね?」

特待生の実家として相応しくないと言う評価を受けた、それは家名に傷が付いたと言える。父は項垂れた。

「いえ、異論はありません」

「では、明日の晩には書類を届ける。早急にサインをする様に」

「はい。分かりました」


 ヘイスティング家に続いてカーライル家の一同も退室したところで、私はヨハンに尋ねた。

「ヨハン、知っていたのね?話してよ…」

「リチャードが説明する。部屋を変えるぞ」


 大聖堂の説教室の一つを借りているらしい。そこでヨハンと私は腰を下ろした。カーライル家の人間はいない。


 リチャード殿下が言葉を発した。

「まず、事の発端は王都のマフィアが禁止された麻薬を扱っている事だった。第二騎士団からの情報で、第一騎士団が動いて王都内を調べたのだが、アジトを見つける事が出来なかった。捜索範囲を広げたところ、王都北部に麻薬の流れがあるらしい事が分かったが、やはりアジトが見つからなかった。けれど、いくつかの貴族が麻薬を手に入れたとの情報が入手出来た。その一つがヘイスティング伯爵家だったと言う訳だ」


「ヘイスティング領は古くからある領地で、年々麦の収穫量が減っていた。何らかの対策が必用だったのだが、ヘイスティング領のある西部全体が収穫が下がっている為、互いに援助する事が出来なかったんだ。そういう貧しい領地で麻薬を買える者がそうそういるとは思えなかったので、王都で売るのではないかと警戒していた、それが秋ごろだ。当然、嫡男の嫁の実家、次男の婿入り先は調査されていたが、少なくとも次男の婿入り先のカーライル家でも麻薬売買は不可能と思われた。ヘイスティング家同様に領地は年々貧しくなっていたからだ」


「そういうタイミングで、カーライル家の子女が特待生試験を受けるという事で、まず試験前までに王都でのカーライル家の身辺調査が行われた。このタイミングでは我々は百人程を調査しないといけないので、これは簡単なものだった。続いて魔法理論の試験を受験した二十人にテティス嬢が入った為、次は領地を含めて広範囲な調査が行われた。この場合は領地の代官に大っぴらに調査協力を頼めるから、領地の風紀も含めて調査が行われたが、やはり麻薬流通の形跡は無かった。ここまでは異常が無かったが、まあご存じの理由で再度、徹底的な調査が行われた」


「テティス嬢が実家と反目して特待生を志望した事、そしてヘイスティング家の人間のカーライル家の人間への扱いがおかしい事から、どうやらヘイスティング家がカーライル家の乗っ取りを考えているのではないかとの推測を立てた」


「一方、カーライル家への内偵の結果、ヘイスティング家はエリザベス嬢だけ厚遇している事が判明した。つまり、一人だけカーライル家から切り離している様に見えたんだ。そして、エリザベス嬢が父親に促して、何度もテティス嬢を家に戻らせようとしている事が分かった」


「そういう事で我々は、彼等はどうやらテティス嬢に麻薬所持の冤罪をかけ、それを理由にカーライル伯爵を早期に引退させ、カーライル家の婿となったフィリップにカーライル家の実権を握らせようとしていると考えたのだ。勿論、テティス嬢を説得してヨハンに麻薬を投与させる可能性もあるが、テティス嬢の人間性からそれを行うとは思えなかった」


「ただし、麻薬の行方がはっきりしない事、また新婦と新郎の家族の交流の場に我々が立ち会う事は出来ないため、テティス嬢には実家に帰らない様に指示したという訳だ。それで、我々も立ち会える結婚式の場に彼等の行動タイミングを限定させたのだ。後はテティス嬢も見た通り、逮捕に関与しない証人を用意し、彼等が麻薬を運び込むのを待っていたと言う訳だ。質問があるかね?」


 私は弱弱しく挙手し、発言許可をもらった。

「カーライル家の処分はどうなるのでしょうか?」

「今回はお咎めなしになる。有望な特待生の経歴に傷を付けたくない。一方、ファインズ家の養子に何か危害を加えた場合は容赦しない」


 少ない言葉に根拠も将来の措置も隠れていた。今回、私という餌を使ってヘイスティング家とその所有する麻薬を釣り上げた。カーライル家の侍女二人がヘイスティング家に協力しており、それを指示したのは立場が上の侍女に指示できるエリザベスお姉様と思われる。彼等に協力したエリザベスお姉様は本来は同罪で処分を受けるべきだけど、どうせ次があるだろうから今回は処分しない。私の評価は特待生の中でも良い方なのだろう。だから処分予定のカーライル家からまず切り離す。そして、私がファインズ家の養子となる事も、次にエリザベス・カーライルとその両親を処分する為の罠だ。


 『あなたさえ罪を認めていれば』と言ったベスお姉様の言葉が心に響く。私が特待生試験に合格したから、カーライル家は冤罪で実権を失う事はなかったけれど、私が特待生試験に合格したから、結局エリザベスお姉様の暴走でカーライル家は処分される。お姉様はいつの間にかこんなに私を憎んでおり、その憎しみは今回の事件でより深くなるだろう。私は実の姉からの激しい憎しみを痛感し、震えが止まらなくなった。


 そして王家ももうカーライル家を見限って処分するつもりと分かっている。そしてもちろん、ヘイスティング家が罪なき女を冤罪で、多分口封じの為に殺す予定だったと分かった。世の中の悪意が全て私とカーライル家の周りで渦を巻いている様に感じた。ぶるぶる震え出した私は、眩暈まで感じて椅子に座っている事が出来なくなった。


 倒れこみそうな私の両肩を、椅子から立ち上がったヨハンが両手で掴んで支えた。

「テティス!もう少し我慢してくれ!リチャード!かいつまんで話せ!後は俺が細かく説明しておく!」

「ヨハ…ン…」

小声しか出せない私の声を聞いて、ヨハンの両手が一瞬震えた。ごめん、あなたに頼るつもりはないのに…


 リチャード殿下は暫く黙っていた。私は自分の膝しか見えなくなっていたから分からなかったが、リチャード殿下とヨハンは視線で語り合っていたらしい。小さく溜息を吐いたリチャード殿下は、手短に話をした。

「テティス嬢は水曜まで特待生寮で待機。食事は三食届けさせる。水曜の夜にはファインズ家で顔合わせが行われる。ヨハンの呼び出しには従ってよろしい。後はヨハンに聞いて欲しい。以上だ」

 ヘイスティング家、カーライル家の前での説明と今回の説明の違いは、つまりヨハンの正体を隠す意図がある為です。勿論、麻薬捜査の経緯も処分する予定の人々には明かせません。


 後、リチャードはヨハン案件だから責任者になっているだけで、テティスという要素が発生するまでは麻薬捜査に関与していません。更に言えば、これはヨハンを麻薬から遠ざける目的でやっているので、テティスの気持ちなんて全く考えていませんし、ヨハンもここまで意見を言う権限はありませんでした。


 なんか獲得ポイントが地味に増えた直後にこのくどい説明回はちょっと不味かったかなぁ…でもこういう構成なんです。明日をお楽しみに。

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