2−6 魔法の練習
魔法理論の授業自体は、実はそれほど知識も実力のない者も混じっている1組の中で、平均辺りの人間に理解出来る内容で授業をしている。その事は予想していたのか、ヨハンは放課後に理論の教師を読んで講義をさせる事がある。
「火魔法の範囲魔法の難点は、空気中の燃料成分もそれを燃焼し続けさせるための空気も不足してしまう事です。ですから火属性の範囲魔法は対流を上手く生かして燃やし続ける事が必用になります」
「そう、魔力的には余裕があっても燃える範囲を充分に広げる事が出来なくなるんだ。つまり対策は対流を生かす、つまり火の足元に空気を供給すると言う事か」
「ご明察です」
あ~、つまり水魔法での火魔法対策は、その対流で供給する経路を塞げば良いわけだ。ぼんやり考えていたら、ヨハンがこちらを横目で見ている。
「こいつの恐ろしいところは、こんな事を聞いて応用を考える頭の回転がある事なんだ。根が呑気な癖に」
「さすが特待生と言うところですね」
「これでもうちょっと察しが良ければ良いんだが」
「その年で全てを備えていたら末恐ろしいところでございます」
一々貶さないと気が済まないところがこの俺様王子の悪いところだと思うんだけど。
そういう訳で、再び放課後の魔法実技の練習を行った。ヨハンがまた火属性の範囲魔法、ヴァルカンを発現した。
「消し方を思いついたんだろう?」
ヒントは副教官のフランシスカが見せてくれたもの。つまり、ウォーターボックスで火を囲む。地面まで完全に。ところがこの王族レベルのヨハンの魔力供給も遮断する必用がある…よし、六倍の厚みのあるウォーターボックスだ!
水属性の魔法を地面にまで染み込ませて、ヨハンの魔力供給を遮断する。つまり、私の魔力を含んだ大量の水が地面との空間を遮断している為、ヨハンが強力な魔力をぶつけても内部に魔力を届けられないんだ。
「うん、消せた!」
ヨハンが大きなため息を吐いた。
「まあ、お前は化け物だからな。だが、他人前でそういう事を軽々しくやるなよ?」
「授業中は自重しているでしょ?」
「ファインズ家の跡取りあたりの魔法を完全に防御とかするなよ?ああいう鼻の高い奴のプライドを傷付けると後が怖いぞ?」
いや、あなたもよっぽど鼻が高いヤツだと思うけど。あくまで精神的な話だけど。だいたい、この間話したら意外と謙虚な発言してたと思うんだ。あなたと違って。
「まあ、違う意味で彼のプライドを傷付けると恐いから、気は使ってるわ」
「どういう意味だよ?」
「将来有望だから嫁の座を狙ってる女生徒とか、狙ってないけど親しくすると嫉む女生徒とかいるでしょ?そういう人達が恐いわ」
「もてない俺の友人で良かったな?」
「あなたは聖女候補狙いだから他の女なんて興味ないんでしょ?」
「無い訳じゃないがな。普通に学生生活での思い出くらいは欲しいと思ってるぞ」
「具体的には?」
「期末のダンスパーティは普通にエスコートする奴がいて欲しい訳だ」
「ああ、それで私を確保していると?」
「そうなるな。まあ尊敬出来る頭脳と能力を持っている女はそういないからな」
「能力に惚れるもんじゃないでしょ?」
「そのあたりは経験不足でな。顔を見れば分かる様にまだまだ子供だ」
「言うほど子供顔じゃないでしょ?」
「そう言ってくれる女じゃないと、付き合っても楽しくないってのはある」
そりゃそうだ。あの避暑地の出来事は忘れられない。もし彼やヘイスティング家の次男と一緒に過ごす事があっても、彼等が私を女どころか一人前の人間と思っていない以上、楽しい訳がない。
実家からまた手紙が届いた。もう叱責の言葉はなかったけれど、話があるから顔を出せ、と書いて来た。話をして何になると言うのか。両親は私に興味がないのに。王都にやって来てから小遣いも出なかったし、学院の制服さえ新調してくれなかった。ましてや私服など。伯爵家の娘が16にもなってお古を着ている、その事が本人も家も辱める事を気にしていない。それを興味がないという以外にどう考えれば良いのか?もう放り出す前提で彼等が動いている以上、そこに顔を出す事に何の意味があるのか。支度金が少なくて良い、そんな基準で決める結婚相手をあてがう為に娘を家に戻したいと言うのか。そんな気持ちを綴ったところで斟酌するつもりが無い親に何を言っても無駄だ。『学業に忙しく時間がありません』と返事を出した。
次の週にも再び同じ文面で手紙が来た。比べたら本当に一字一句同じだった。ちなみに二回目の手紙は文字が少し荒れていた。感情的になって文字が荒れるくらいなら手紙なんて出さなければ良いのに。
『せっかく特待生になったのだから、家名を辱める事が無い様に、一生懸命勉強しております』
そう言う返事を返した。本当はもう家名なんてどうでもいい。除籍して貰えればお互いせいせいするのではないだろうか。
多分忘れ物はないと思うので、そろそろ話を進めます。