2−4 放課後の剣術練習
ヨハンは私を試したり或いは知識を与えてくれたりするが、友人として何らかのサポートが出来る様にしてくれているのだろう。
「これからは、剣術の指導も受けて貰う」
ヨハンはそう言うが、何故!?
「あの~、私に護衛をしろと?」
「護衛として剣を振るうのは無理だろう。だが、性格的に防御は可能だろうから、最終的にはタワーシールドを扱って貰う」
「いや、その、それ、筋骨隆々な騎士じゃないと無理だよね!?」
「当然、冗談だ。お前ならアイスウォールで何でも防げるだろうが、場合によっては魔法の使用が制限される場面もある。そういう時に自衛だけして貰いたいんだ」
「ああ、なるほど。護衛の数も自衛魔法も制限される様な場所に行く時に、一人を引き付ける役目をしろと」
「そういう事だ。その間にこちらが目の前の敵を倒してお前を助けに行く。その時間を稼いで欲しい」
「まあ、自衛の手段を持つのは私も望んでいたから、そういう事ならやるけど、才能はないと思うよ?」
「才能が無ければ愚直に型を覚えるしかない。そういう努力をして貰う事になるとは思っていた」
「型ね。分かった」
そういう事で、逆手に持った練習用の刃が打っていない短剣で防御の型を練習する。やがて教師役の騎士が棒で突いてくるのを受け流す練習も始まった…腕力が無いんだから短剣でどうこう出来る訳がない。足さばきが必用なんだけど…そういう体力があるか、という問題が。しかも教師役の騎士は容赦なく練習を続けさせるし…自分の練習を中断してヨハンが声をかけてくる。
「待て、テティス、ちょっと来い」
「な~に~よ~」
「…お前、言うほど疲れてないだろ?何をしている」
「…あ~、あなたにとぼけると後が怖いから言うけど、水魔法の体力強化魔法で動きを補助しているのよ」
「いつからだ?」
「受け流しの練習を始めてちょっとしてからね」
「カール、どのくらい練習を続けてた?」
「15分くらいですね」
「テティス、体力強化魔法は得意なのか?」
ジュリアンから逃げる為に使っていたので30分くらいは使えるが、これを得意と言えるのか分からない。何より、男の子から逃げる為、などと説明をしたらどんな目で見られるか。
「一山越えた先で氷魔法を練習してたから、その登りではずっと使ってたという程度ね。強化の程度より長時間の魔法維持を優先してたから、得意かどうかは分からないわ」
またヨハンの眉間の皺が深くなった。あまり悩むと老けるのが早いぞヨハン。
「カール、手の動きは途中で変わったか?」
「そう言えば足さばきが途中から良くなったとは思いますが、手元はあまり変わりません」
「テティス、お前の魔法の使い方として足主体で強化した、と言う事であっているか?」
「足主体なのは確かだけど、腕も少し強化したのよ?」
ヨハンが悩み始めた。でも私の事で練習が中断するのは本意じゃない。
「元が下手だから腕の方は強化の甲斐がないんじゃない?」
「まあ、テティスだからな。そう言う事にしておこう」
どう言う意味か説明しろ!と思ったけれどまあ練習再開の方が良いだろうから流そう。
とりあえず今日の練習は終わった。
「テティス、部屋でステップだけでも練習しておけ。強化魔法なしでな」
「うん。こういう動きをした事がないから、練習しないといけないのは分かるわ」
「頼むぞ。お前の命がかかっている」
「…ねぇ、ヨハン、こういう練習をさせるって事は、いつか聖女候補と一緒に行動する時に、私に聖女を守れって言う事?」
「お前は頭は悪くないが、察しが悪い。しかも物事に対する物差しが他人と違い過ぎる。だから、お前に他人をどうこうして欲しいとは思わん。自衛だけ考えろ」
「…その、もう少し肯定的な表現は出来ないの?」
「頭が良いっていうのは肯定的な表現だろ?」
「悪く無いって言ったわよ?」
「些末な表現の違いだ」
「イメージが違い過ぎるわ」
「まあ、そこは重要視するな。お前の自衛の為にだけ練習しろ」
「はいはい」
特待生寮に帰ったヨハン達は、今日の観察結果を話し合った。
「カール、テティスの剣術の腕はどうだ?俺が見たところは素人そのものだが」
カールはヨハンの護衛騎士筆頭で、王国でのヨハンの剣術指南役でもある。もっとも、本当に信頼してヨハンの命を任せられる騎士はこの男の他にグスタフと女性騎士のゲルダしかいない。
「強化魔法の賜物か分かりませんが、足さばきは途中で良くなりました。ですが、上半身の筋力が無さ過ぎですね。剣術の経験があるとは考えにくいです」
つまり、今日の練習はテティスに暗殺者の可能性があるか確認の為に行われたのだ。
「その強化魔法が問題なんだが…ディーを呼べ」
一同が話をしていた男子寮の特別室の扉が叩かれる。
「ディートリッヒです。お呼びと思い参上しました」
「まだ呼んでないぞ」
「呼ぶところだったんでしょう?」
「監視はどうした?」
ディートリッヒは隠密であり、ヨハンの周囲の広範囲の警戒が仕事だ。ちなみに図書館でテティスに本を持つと声をかけたのはこの男だ。
「今はカッツェに任せてます。深夜は予定どおりフントに監視させます」
「まあ、良い。お前から見て、今日の剣術練習中のテティスは強化魔法を使っていたか?」
「お察しの通り、継続して足主体に使っていましたね。大問題ですよ」
「お前の知見からすると、練習後のテティスはどうなっているべきだった?」
「当然、立てなくなる筈ですね」
水魔法の強化魔法は筋肉を短期的に酷使する魔法だ。当然多様すれば酷い筋肉痛になる。
「オットー、王立図書館でテティス用の書籍を選ぶと称して水魔法の書籍をひっくり返してこい」
オットーは侍従として付いている男だ。今テティスが借りている本を返しに行く用がある。
「実際何冊か借りて来るべきでしょうね。殿下から渡せば彼女も喜ぶと思いますよ」
「あいつのご機嫌取りより見極めが先だ。信用には裏付けが必要だ」
「もう、随分お気を許されている様に見えますが」
「あの呑気な女相手に気を張り続けられるヤツなどいないだろう」
「そういう事にしておきますね」
今回テティスが察しが悪いのは、自分が剣で何か出来るとは考えていないからです。
今日は寝落ちしてました、すいませんでした。
しかもエピソードタイトル間違えてました。修正致しました。