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2−3 王立図書館

「日曜の午後、王立図書館に行かないか?」

ヨハンが言い出した。渡りに船だ。

「え、良いの?護衛体制に問題が出るんじゃないの?」

「談話室を予約した。そこなら人が集まっても問題ない」

「そっか。それなら是非行きたいわ。寮の図書室の蔵書よりもっと研究的な内容が見てみたいの」

「…勉強熱心で何よりだ。じゃあ、昼食を食べた後でお前の部屋に侍女のリーゼを呼びに行かせる」

「ええ、待ってるわ」


 そんな時、実家から手紙が届いた。話もせずに家を出た事に対する叱責と、姉の結婚式の話があるから一度帰宅する様にとの指示だった…私が何も考えない牛馬の類とでも思っているのだろうか。


 この際だから思っている事を認めた。エリザベスお姉様の結婚の邪魔にならない為にレティお姉様が学院卒業後すぐに追い出された様に、私も追い出すつもりなのでしょう?そうなる前に出て行っただけ。だからもう家には帰らない。必用があれば結婚式には出ます。


 書いていて涙が止まらなくなった。出て行った娘の気持ちも斟酌出来ずに叱責する。この手紙を読んでも父は私が生意気と思うだけで、こんな風に泣きながら手紙を書いているとは思わないだろう。これでも十年以上領地で一緒に暮らした筈なのに、確かに言葉を交わした思い出が殆どない。家族への思いは、こちらからは情があっても、あちらからは情など無く、犬猫どころか物扱いなのかもしれない。


 日曜日の昼過ぎ、特待生男子の寮の前でアルベルト商会の馬車に乗る。微妙なところだと思う。貴族相手の海外商品の売買をしているアルベルト商会は商会の中では格が高いが、下位貴族が出てきたら遜らないといけない程度の格だ。まあ私は姉のお古の五~六年前の服を着ているから、見た目は平民に見えない事もないから良いが、ヨハンは王子だ。お忍びで平民らしく振舞うのは慣れているのだろうか…その割りにはいつも尊大な態度だけど。

「閲覧したいのは魔法関係の書籍で良いか?」

「今回は見繕って借りられれば良いと思うの。だから、もしヨハンも何か借りるなら、一緒に返しにくるか、侍従の人に返却を頼みたいんだけど」

「侍従のオットーが返しに行くさ。借りられるだけ借りればいい」

「うん。それでお願いするわ」

「後は、ちょっと歴史の講義を聞かせてやる」

「ああ…それは自信がないから有難いわ」

「そんな事だろうと思ってたよ」


 王立図書館に着くと、貴族でも上位貴族でないと入れない書庫に連れていかれた。

「許可が無いと入れないが、既に申請して許可は得てある」

「…それは有難いわね」

ヨハンは歴史文献の方に行ってしまった。だから私は一人で魔法関連の文献の書棚に向かう。お偉いさんの子供は大変だ。こんな風に隙を見せて、友人のフリをしているかもしれない不審者が尻尾を見せるのを監視する。残念ながら私に裏は無い。家族以外に人脈が無いのに家族から逃げようとしているんだから、孤独に決まっているじゃないか。そんな風に心に棘が刺さったけれど、魔法の文献を探している間に忘れてしまった。


 ぱっと見良く分からない研究書に、私の知らない魔法の秘密が隠れている。そう思うと重い本を何冊も選んで、抱えながら予約した談話室に向かう。

「手伝います」

見覚えのないけれど、普段ヨハンの周りに隠れていた気配の持ち主が声をかけて来る。監視が姿を現して良いのかと思うけれど、手伝ってくれるなら猫の手でも借りよう。


 その男を連れて談話室に入ると、ヨハンが真面目な顔をして言った。

「テティス」

「うん?」

「俺が言いたい事が分かるか?」

「得体のしれない人物をヨハンに近づけてはいけない、でしょ?」

「…分かっていて何故だ?」

「だって普段あなたの周りで感じる気配の持ち主が得体のしれない人物の訳がないでしょ?問題があれば立哨の人から入室許可が出ない筈だし」

ヨハンは怪訝な顔をした。

「気配が読めるのか?」

「いつも同じ水気を感じるからね。水魔法師だからかな」

ヨハンは眉間に盛大な皺を作って私を見つめた。

「初見なら分からないけど、度々感じる人物の水気なら分かるよ」

ヨハンは頭を抱えてしまった。何故よ!?


「まあ、良い。今後は気をつけてくれ」

「友達は少ない方だから変なのをあなたに近づける予定はないわよ」

「いや、それはコメントしづらいんだが…」

「元々友人がいないのに、謎の男の友人になったんだから、秘密保持のためには付き合う人を選ぶって」

「うん、まあ、それは済まなかった」

「どういたしまして」


 その後、王立図書館所属の研究員という中年男性がやって来て、歴史の講義を始めた。

「かつてこの地に長命族の人間がシュバルツバッサ川を遡上してやって来ました。いくつかの技術を広めた男はこの地に留まり、この地に住んでいた聖なる乙女と結ばれ、王朝を開きました。王朝は安定していた為に人口が増え、川の向こうへ進出を始めました。その人々のリーダーが元々その地に住んでいた部族の娘と結ばれ、これが帝国の始まりとなりました。そして聖なる乙女が亡くなると、王朝と帝国からそれぞれ選ばれた優れた乙女と王子が組んで試練を与えられ、より優れた組の乙女が聖女の名称を継ぐ事になりました」


 講義を聞いていたヨハンが私に尋ねた。

「一応知られた神話だが、覚えていたか?」

「単なる神話だと思っていたけど、こうして聞かせるという事は、根拠があると言う事?」

「聖女が亡くなると聖女選定をやる事は聞いてないのか?」

「冬に先代が亡くなったとは聞いていたけど、次代をどう決めるかは知らなかったわ」


 ここで講義をしていた研究員が口を開く。

「先代聖女様がお亡くなりになった後、王国でも帝国でも本格的に聖女候補探しを始めております。年齢的に王国の第二王子殿下と帝国の第二もしくは第三王子殿下がそれぞれの国の聖女候補と組まれて選定に望む事になりますが、先代聖女様が王国に嫁ぎました故に、今回は帝国が聖女を得やすくなる様に、王国の聖女候補は帝国の第三王子殿下か王国の第二王子殿下から相手を選ぶ事が可能となっております。両国になるべく平等に聖女を配する事がこの制度の維持に必用と考えられている為です」


 ん?と疑問が浮かんだ私は思わず質問をした。

「王太子殿下や皇太子殿下は選定に参加なさらないんですか?」

これにはヨハンが答えた。

「選定で負けた人物が王や皇帝になったら威厳が保てないだろ?だから選定で負けた国はそのまま後継者が継ぐんだ。だから第二王子や第三王子が選定に参加する」

「じゃあ、ヨハンは聖女様が亡くなったから、聖女候補探しと交友をする為に急遽留学する事になったのね?」

「そういう事だ」

 こういう事でお忍び留学しております。

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