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9−12 西部教会へ (3)

 西部教会への経路は馬車がすれ違える程の幅の道だった。その道路の両端に一定間隔で修道士、修道女が立っていた。


 もちろん、馬車の先導はポーレット領騎士団と西部教会の修道兵が交代で行い、馬車の後ろにも騎乗した修道兵が続いている。そして午前中だけで二人、四人で木々の間から馬車に近づこうとした者達が合計5回やって来て、その場で殺された。水気があっという間にただの水になるのを感じさせられた。


 昼食は西部教会の修行場で取った。私の暗い雰囲気を見て、ヨハンも何があったかは気付いている。

「俺達の為にやっているんだ。そんな顔をするな」

「だから、なんじゃない…」

「じゃあ、俺が山ごと燃やした方が良かったか?」

「そういう比較をしているんじゃなくて…」

「お前の命を守る為なら、山どころか都市一つ丸々燃やしても悔いはないぞ?」

「その時は私が何とかするから住人ごと燃やすのは止めて」

「政治家っていうのは、優先順位を付けるものなんだ」

でもさ、その結果も背負うものでしょ。責任をもって言動を行うのが政治家なんだから。

「あなたに背負わせられないわ。そんなもの」

「そう思うなら、二人で分けようや。そして、今回の事もそうだ」

「そうね…」


 もちろん、午後も襲撃があったが、全て西部教会の修道士・修道女により闇に葬られた。聖女審査の歴史に、襲撃なんて言葉は残らないんだ。


 馬車は連山を段々登って行き、一際高い山の麓の盆地状の平地に辿り着いた。やがて、道路外を斜めに展開する水気の列の中心に、ポーレット領の聖堂より高い塔を備えた建物群が姿を現した。ここも、建物の中の水気が見えない。正しくポーレット領の聖堂と同系統の建物だった。


 ヨハンが尋ねた。

「どうだ?」

「中の水気が見えないわ」

「そうだろうな」

「どう言う事?」

「意図はともかく、魔法使いの力を制限する事が出来る、それを示して自重を促しているんだろう」

「意図は?」

「分からん。気を付けろ、としか言い様が無い」

「西部教会も毒を使う、それが関係してない?」

「…実は、ヴァイツゼッカーは元々薬草に長じていて、その関係で毒も入手していたんだが、毒を積極的に使う様になったのは40年前の聖女審査の後なんだ」

「聖女審査と関係あるの?」

「ポーレット領の聖堂が奴等の毒に対する解毒薬を持っていた」

「…ヴァイツゼッカーの毒の出何処は西部教会だと?」

「ラッセルの毒を入手したのかもしれないがな。ラッセルの毒とヴァイツゼッカーの毒、どちらが先なのかによるが、西部教会の毒の知識が気になる」

「西部教会は聖女には味方してくれるだろうけど、私が聖女になれないなら、毒を使われる事も注意した方が良いかな?」

「用心に越した事はない。馬鹿の一つ覚えで悪いが、気を付けろ」

「うん」


 建物の前に着き、下車する私に司祭が手を貸してくれた。司祭が先導し、私とヨハンが付いて行き、その後ろにヨハンの護衛と私の侍女役のシルビアとゲルダが付いて来る。


 連れて行かれた先は、礼拝堂の様だった。正面に聖母らしき像が飾ってあった。聖母の前に立つ司教が指示する。

「自由にお座りください」

まあ、司教の前に座るのが礼儀だろう。ヨハンと私が司教の前に座り、護衛達はその後ろの列に座った。


「一日がかりでの移動、お疲れ様でした。私は司教のコラード・ダンジェロと申します。今回の聖女の試練を指揮いたします。聖女の試練については、明朝の日の出と共にこの施設を発ち、この裏にあるアララト山の山頂まで登って頂きます。昼までには山頂に着いて頂きたく、遅れる様ですと聖女の試練の日程に影響が出ます。護衛の方々はこの施設でお待ちいただき、聖女候補とパートナーの方の二人でお登りいただきます。護衛は修道女と修道兵がいたします。明日登山に持ち込む装備については、本日中に事前審査の為に提出していただき、山頂でお渡しします。なお、水筒と保存食、簡易治療薬と道具については肩掛け鞄で明朝お渡ししますので、事前審査に提出されるのは武器その他の装備となります。ここまででご質問はありますか?」


 ヨハンが発言した。

「毒の類は持ち込み可能なのか?」

「もちろん、許可しておりません」

「明日に着て行く服も事前審査に提出する必用があるか?」

「ありません。ただし、服以外の装備は確認の為に提出をお願いします」

服のチェックが無いならザル調査じゃないか…


「他に疑問点が無い様でしたら、聖女候補とパートナーのお二人に宣誓をお願いします。こちらの聖母像の前で跪き、聖母像の足に触れながら、以下の宣誓をお願いします。

『私はこの施設を出てから聖女の試練が終わるまでの出来事を、西部教会関係者以外に話さない』

これを三度ほど声に出していただきたい」


 まず私が聖母像まで跪き、聖母像の足に触れた…この聖母像の中も水気が見えない。中で何かが忙しなく動いている様な気がする…

「私はこの施設を出てから聖女の試練が終わるまでの出来事を、西部教会関係者以外に話さない」

この言葉を告げると、忙しなく動くものが身体を流れた様な気がした。


 ヨハンも宣誓をした。

「私はこの施設を出てから聖女の試練が終わるまでの出来事を、西部教会関係者以外に話さない」


「それでは、後ほど担当の者が事前審査の提出物を受け取りに伺います。ご協力をお願いします」

それで私達は部屋に移動した。

 明日から10章になります。まあ、頑張ります。

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