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9−10 西部教会へ (1)

 ポーレット領への北側と東側からの侵入は領地騎士団が撃退した。時間稼ぎだった事は明白だ。その報を受けたティモシー・ポーレット侯爵は、聖堂との連絡に人を出したが、跡取り息子のハリソンと部隊長の負傷を聞き、急ぎ聖堂にやって来た。


 毒を受けて生存している3人は、聖堂の医務室で解毒剤を投与された。

「これなら聖堂に素早く運んだ方が犠牲者が少なかったかもしれない…」

後悔する私に、ヨハンが口を開いた。

「俺とお前に使われた毒については、王宮には適切な解毒剤が無かった。今回の毒だって適切な解毒剤が無かったかもしれないんだ。応急処置を行った事は間違いじゃない」

毒を排出する応急手当については、聖魔法師達も褒めてくれた。

「毒を選別して排出する等と言う事は、今まで行われた事の無い事です。誇られるならともかく、後悔される様な事ではありません」


 そんな私達の前に、息子を見舞って来たポーレット侯爵がやって来た。彼はテティスの前で跪き口を開いた。

「賊の排除に御身自らお出向かれたばかりか、愚息の命までお救いいただき、感謝の言葉もございません」

そこまで言われる程じゃない。私とヨハンを狙って来た賊なのだ。

「いえ、私達の為に皆様にご迷惑をおかけして、お詫びの言葉もありません」

「その様に仰ってはいけません!聖女様は私達の希望であり、人の世になくてはならないお方です。その聖女が暴力で決まる様では世が乱れます。淀みない魔力と慈悲の心をお持ちのお方こそ、聖女となるべき方です。聖堂と我が子をお守りいただいたあなたこそ我が聖女と呼ぶべき方です。この身朽ち果てるとも、変わらぬ忠誠をあなたに誓います」

ポーレット侯爵は私の右手を取り、口づけた。


 私の思いと周囲の思いの余りの違いに眩暈がしたが、ここは聖女候補としてしっかりと応える必要がある事だけは分かっていた。

「ありがとうございます。ご期待に応える様、最善を尽くします」

「よろしくお願いいたします」

そう言ってポーレット侯爵は帰って行った。


 ヨハンが私に近づいて言った。

「よく頑張ったな」

そう、私が聖女となる事に及び腰である事はこの男が一番知っているんだ。ポーレット侯爵は息子が助かったから有難がってくれるが、死んだ兵達の親はそうは思うまい。でも、それを口にする事は出来なかった。既に私は聖女候補として、人々を救い公人として公平な発言が求められる立場なんだ。泣き言は許されない。ヨハンに抱き着いて声を立てずに泣く事しか出来なかった。


 ここで気付いた。ヨハンはずっと公人として生きて来た。だから私の今の苦悩が一番良く分かるんだ…私はヨハンの本当の気持ちを今まで考えて来ただろうか…

「…ヨハン、ごめん。あなたの本当の苦悩なんて、私は考えてなかった…」

「俺の事をそんなに大人だと思っていたのか?似たような童顔なのに?」

「…ごめんなさい…」

「まあ、二才くらいは精神的に大人だろうがな」

「それは、同い年の平均より私が二才くらい幼いって意味?」

「呑気な時のお前はな。冴えてる時のお前はそれなりだ」

それなりかい…


「まあ、心温まる話題をしてやろう。冷たい話題だが」

「どっちなのよ…」

「少しだけ安心して良い話だ。ヴァイツゼッカーの襲撃部隊の本隊が今日の連中だろうから、この規模の襲撃はもう無い」

「断言出来るのね?」

「ヴァイツゼッカーは40年間、ずっと嫌われて来た。その上、40年前と何も変わらない事を今回の聖女候補選定で周囲に見せつけた。シュバルツブルグで奴等に与する者はいない」

「断言出来るの?」

「ヴァイツゼッカーは侯爵家だが、そういう訳で長年孤立している。今回の選定で我が娘を窓から突き落とされた辺境伯が奴等を狙っている。今、領地の守りが疎かになれば複数の貴族が奴等を滅ぼしに行く。だから、奴等が外部に出せる戦力は限られている。その上、奴等の領地は東部で、こちらに来るには国を横断して来ないといけない。衆目の前で大規模な移動は出来ない。見つかれば本拠地が攻められる。同様にシュバルツバッサの大河を渡る時も大勢では渡れない。そう言う訳で、短期間で移動できるのは百人が限度だろう」

「でも、後はラッセル一派が人を出すんじゃない?」

「ラッセルには計画性が無い。論理性が無いからだ。ただ、先頭に立って王家に文句を言ってくれるから、その影で文句を言い易いから付いて行く奴がいるってだけだ。じゃあ、ラッセルの命令に喜んで犠牲を払ってくれる奴がいるか、って言うと、もちろんいない。思想や計画に心酔している訳ではないから、犬死になる可能性が高い兵隊を出したいとは思わないんだ」

「そうね、賊の中でも手練れとそうでない者の差が大きいわね」

「まあ、そう言う訳で、これから手練れが襲ってくるとしたら、使用人に化けて単独で襲ってくるのが殆どだろう」

「単独はあるのね…」

「まあ、大規模な襲撃が無いと分かっただけ心が温まったろ?」

「とりあえず、シルビアとリーゼとゲルダ以外は水気を良く見て対応する様にするわ」

「そうしてくれ」


 そして、翌日の午後、早馬がやって来て、シュバルツブルグの第二王子と聖女候補が西部教会の本拠地に到着した事が伝えられた。あちらには全く妨害が無かったそうだ。これを聞いて、私達も翌朝出発する事になった。

「リーゼ達がもう荷物の準備は終えている筈だ。お前は近づいた奴がいきなり何か押し出してくるか、いきなり投げて来るかを避ける事だけ考えていれば良い」

「わーい、有難いお言葉ね」

「ならもっと感謝を示せよ」

「感謝する内容じゃないから感謝しないのよ」

「危機感を持ってもらえればそれで良い」


 私に付いて来る侍女はゲルダと、ファインズ家が付けたシルビアの二人だった。ちなみに出発を翌日に控えた晩、リーゼが私の部屋の扉の前で寝ずの番をしたが、3人の賊を取り押さえたと言う。宿舎の外側を守っていた修道女達は10人の賊を捕まえたとも聞く。

 ご近所の秋葉神社(たくさんあります、適当に言えば火の用心の神社)でおまつり(この場合は露店がでるあれではない)をやってたので、今日は何かの日かと思えば、新嘗祭は11/23でしたね。なんだろ。

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