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9−9 襲撃の行方

 聖堂敷地の北側に進んだポーレット領騎士団の聖堂防衛隊は、当然テティスからの情報を得る事が無かった。検問所を通らず浸透した賊部隊は、当然領地騎士団の見張りの位置を掴んでおり、気付かれずに侵入、制圧して通過していった。指揮官と共に前列の後ろで騎乗したハリソン・ポーレットは、それでも風の音以外の異音を聞いた気がした。

「隊長、北から物音がする様な…」

「気配がある様ですね。見張りは襲われたと思われます」


 横道の左右の起伏を利用して、部隊は少しでも高みに位置して迎撃の体勢を整えた。木の後ろに兵を隠していたのだが、横からの弓矢が飛んで来て、兵が数人倒れた。

「盾を構えて射手に近づけ!」

そうは言っても、射手は散開している様で、複数個所から弓矢が飛んで来た。そうして迎撃側の兵が分散したところで、西側から賊が突撃して来た。これに対して南北に展開した迎撃側は犠牲を出しながらも賊の数を減らしていたが、ここで北側から賊の第二陣が突撃して来た。西側の賊が陽動となり、北からの接近の気配を感じさせない様にしていたんだ。


 一方、テティス達は最短距離で北上しようとした。

「聖堂敷地内は北側に抜ける道はありますか?」

「南には修道院が、北には女子修道院があるので、最短距離は聖堂敷地の外周を北上する事になります」

「小走りで進みたいのですが、疲労した者はいますか?」

「聖女候補をお守りするのが我等の仕事です。死に物狂いで付いて行きます」

「では、二人ずつ交代で先導をお願いします。ヨハン、お疲れ気味だけど大丈夫?」

「ちょっとだけだ。付いていける」

「ウォーターボールで運ぼうか?」

「死ぬ気で付いて行くから大丈夫だ!」

「じゃあ、そういう事で」

もちろん、テティスは1時間くらい強化魔法で走り続ける事が出来る。小走りなら増々問題が無かった。


 聖堂北方で賊と交戦していたポーレット領騎士団に、聖堂側から近づく勢力があった。

「修道院です!助太刀します!」

野太い女性の声がした。

「頼む!動けないんだ!」

南側から進んで来た女子修道院の修道女達は、ポーレット家騎士団に襲い掛かっていた賊達の東の一団に槍の穂先を突っ込んだ。これを受けて賊は一旦ポーレット領騎士団から距離を取った。


 その間に修道女達がポーレット領騎士団に近寄り、話しかけた。

「指揮官は?」

「隊長も若様も敵の槍に塗ってあった毒で倒れてしまったんだ。聖魔法の使い手はいないか?」

「我々はあくまで加勢に来ただけなので、聖魔法師は混じっていません」

「何故こんなに早く加勢に?」

「聖女様のお導きです。北方の敵は2列と伺っています。もう二つの勢力と交戦しましたか?」

この『聖女』が先代ジュディス様の事なのか、聖女候補を間違って呼んだのか騎士達には分からなかった。ともかく急いでいたから情報交換を優先した。

「ああ、西の敵と交戦している間に北から来た敵と挟まれたんだ」

「後はこの敵を何とかすれば良いのですが、負傷兵を守って戦うとなると、不利ですね」

「それでも若様を何とか連れ帰らないといけない…」


 迎撃側が話している隙に、賊達は槍の穂先に再度毒を縫っていた。こんどこそ迎撃側を皆殺しにするつもりだったのだ。とは言え、彼等は南方から煙が上がらない事をもっと気にするべきだった。北東から落ち葉を踏みしめ進んで来る物音がしたのだ。


 その音に気付いた賊のリーダーが突撃を命じる直前、木々の隙間からアイスボールが賊達に降り注いだ。

「何だ!?」「ぐわぁっ!」「ぎゃあっ!」

賊達の悲鳴の中、アイスボールの乱射が止まった隙に修道女達が賊に突撃した。どちらも毒槍で武装しているとはいえ、直前に打撃を受けた賊達の動きは鈍かった。だから1分と経たずに賊は全員絶命した。


 テティスと修道兵達が現れ、修道兵の一部がテティスの前に立ち、修道女達に尋ねた。

「敵は?」

「今、全滅させました。聖女様のご加護に感謝を」

横で聞いていたテティスとしてはまだ聖女審査も始まっていないのに気が早い、と恥ずかしくなった。だが、戸惑っている時間は無かった。

「怪我人を治療します!優先順位を付けてください!」

これにポーレット騎士団の中から声が上がった。

「こっちだ!若様を頼む!」


 呼ばれたところに急ぐと、なるほど、ハリソン・ポーレットの面影がある怪我人が力なく横たわっていた。隣に痙攣を起こしている兵と、今も傷口から何かを吸い出そうとしている兵がいた。無茶だ。

「代わります!」

「頼む!」


 傷口は右手首だった。小手と鎖帷子の間を切られて、毒が入ったらしい。肘の上で強く縛って、毒が血に混じって全身に回る事を防ごうとしたのだろうが、既に内蔵にも毒が回っていた。


 ヨハンの様に馬鹿馬鹿しい強さの魔力を持つ者ならともかく、このくらいの魔力の持ち主なら体内の操作は問題ない。傷口に手を近づけ、血液中の物質で毒を囲って内臓に吸収されない様にして、右肩付近に持って来る。血管に付着していた毒を取り除けるだけ取り除いて右肩に集めた後、右腕の先の部分の毒を傷口から排出する。


「胴体内の毒を出します。肘の縛りを緩めてください」

ハリソンの近侍と思われる者が恐る恐る縛っていたヒモを解く。傷口から流れる血の量が増えるが、こうでないと毒が排出出来ない。少し流したところで傷口を塞ぐ。内臓を確認しても、機能不全になっているものはなさそうだ。

「後は戻って、医者に投薬をしてもらってください」

「もう治療は終わりなのか?なら隊長もお願いする」


 高級将校らしき人物も横になっていて、兵が毒を懸命に吸い出していた。こちらも右手首を切られたらしいが…大分毒に侵されている。同様に内臓の毒は排出するが…

「腕は急ぎ医者に見せてください。大分毒で壊されているので…」

「命に別状はないのか?」

「内臓は大丈夫です」

「分かった、ありがとう。他の者も見て欲しいが…」

倒れている中で、三人程まだ生きていたが、一人を処置している間に残りは息を引き取った。


 聖堂から修道士が出て来て敵味方の死体を運んで行った。ハリソン・ポーレットと騎士の隊長は聖堂内に運びこまれた。


 私としてはやるせない気持ちで一杯だった。聖女の審査に絡んで、何故こんなに死人が出るのか。


 ヨハンが声をかけてくる。

「テティス…」

「…攻めて来る方が悪い、とは思うのだけどね」

俯く私に、ヨハンは手を握ってくれた。

 一応、解説を。物語の舞台であるアングリア王国、隣国のシュバルツブルグも国教会とか正教会などの国とも他国の宗教団体とも独立した組織が教会をまとめています。国から独立していますが国に恭順を示しています。一方、アングリア国境の西、魔獣領域に存在する西部教会は、どこの国とも独立しています。その中で、聖女審査の為の出先機関がポーレット領聖堂になります。なので、ポーレット領聖堂はアングリア王家にもポーレット侯爵にも干渉を受けません。よって、ポーレット領騎士団と聖堂の修道兵達は友好関係にはあるけれど、独立しています。


 金曜はお休みします。土曜は解説含む予定。

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