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2−2 魔法の授業

 授業には歴史の授業や国語の授業もあるけれど、この学院が魔法学院である以上、魔法の授業が一番大切だった。一方、1組は最も優秀な人材が集まっている筈なのだけれど、裏工作で1組になる者もいるらしい。だから、魔法実技の授業だけは、本当の実力者である特待生とそれに次ぐ一般生の実力者だけ別の場所で授業を受ける事になっている。


 特待生と共に魔法実技の授業を受けるのは、プリシア・サマセット公爵令嬢、バートラム・クラーク侯爵子息、ダリル・ポーレット侯爵子息、マーカス・バーティ伯爵子息、そしてジェラルド・ファインズ次期侯爵様だ。


「指導教官のマーロン・テナムだ。こちらは副教官のフランシスカ・グレイ。この面子だと魔法が暴発した場合に犠牲者が出る為、教官の私は土属性、副教官のフランシスカは水属性で、いざという時の防御を行う予定だ。同様に土属性の者と水属性の者は、火魔法と土魔法が発動される際には警戒して、いつでも防御が出来る様にしておいて欲しい」

思わず隣に立つヨハンを見てしまう。ヨハンは口元を上げた。気を付けろと言う事だろう。

「そういう訳で、このグループでは一人一人が順番に魔法を発動する事。防御用途以外の魔法を勝手に使うな」

王立魔法学院の教師は王の直臣扱いの学院長の指揮下にある為、爵位持ち以外の子息とは同格扱いになり、言葉遣いを気にしていない。これに対して例のラッセル侯爵の犬、ダミアン・カペルなどは反抗的で、今この場にいるマーカス・パーティも普段はその仲間なのだけれど、今は大人しくしている。たった一人で周囲に喧嘩を売りまくる程の度胸はないのでしょうね。


「それでは火魔法使いから順に魔法を実演してもらう。ディビットから頼む」

自己紹介では、確かディビット・ラムレーは伯爵子息だった筈。金よりは濃い色の髪と少し鼻の頭が丸いディビットは今一つあか抜けない顔の男だった。

「フレームランス」

ディビットはファイアランスの進化系のフレームランスを放った。低い壁で隔てられた的領域の土壁に設置された標的にぶつかったフレームランスはその場で激しく火を巻き散らした。副教官のフランシスカが防御魔法を唱えた。

「ウォーターボックス」

大きく囲った水の防壁で炎の拡散は抑えられた。このサイズの水壁を瞬時に展開出来るのはさすが教官の一人。

「発現速度と威力は合格点だ。あとは射出速度の向上だな」

教官のマーロンはディビットに合格点を与えた。まあ特待生になった人物だからね。


「次、ヴィクター。ランス以外を頼む」

ヴィクター・ウィロビーは確か男爵家の子息だった筈。茶髪に細い目で細面だった。

「フレームウォール」

ヴィクターはファイアウォールの進化系のフレームウォールを的との中間点に展開した。それなりに熱いけど、先日王族の範囲魔法を見ているから、まあそれなりと感じてしまう。

「発現速度は良いが、もう少し規模を大きくしたいな」

マーロン教官の評価にヴィクターは頭をかいた。


「次、ピーター」

ピーター・キルビーも男爵家の子息だった筈。

「フレームランス」

伯爵子息のフレームランスより威力は小さかった。

「ディビットのフレームランスは見たな?あれが目標だ。頑張れよ」

多分、ヴィクターのフレームランスはそれなりだから、彼にはランス以外を打たせたのだろう。


 フレームランスが多分魔法兵としての主力武器だと思う。だから特待生試験では皆フレームランスを練習してきたのではないだろうか。続けてザックとシドと言う二人の平民の特待生もフレームランスを打った。段々火勢と射出速度が落ちて来た。特待生とは言え平民は能力が劣るのか、良い教師に会えなかったのだろう。何せ貧乏伯爵家ですら教師が雇えない。


「次、ラルフ」

ラルフ・アルベルトが我が友人ヨハン王子の偽名だ。彼はちらっと私を見た。あ~そうですか。

「フレームランス」

これまでの四人のフレームランスとは色も速度も違った。超危険だよこの王子は。的に着弾するのを待たずにウォーターウォールを展開する必要があった。呪文詠唱と魔法発動までの時間の間にフレームランスは的に届く。着弾と同時に爆発音が起こった。爆発的な火炎の膨張の殆どは私の展開した普段の二倍の厚みのウォーターウォールに阻まれたけれど、その水壁を10ft押し返した。副教官フランシスカがウェーブの魔法で波をぶつけて押し戻してくれた。


 フランシスカは冷や汗をかいていたし、マーロン教官も苦笑していた。

「ラルフは合格点だが、少し自重してくれ」

「心得た」

…自分の魔法の威力ぐらい分かっているだろうに、ヨハンは次は自重する様な答えを返した。わざとやった癖に。うん、まあ挨拶がわりというヤツなのだろう。

「テティスはよく防御してくれた。次はもう少し強固なのを頼む」

「分かりました」

答えた私を横目で見たヨハンの目が笑っている。私があんたの魔法の防御担当なのね?良い手下が出来て良かったね!?


「次、ジェラルド」

ジェラルド・ファインズ次期侯爵は火魔法使いだった。あのヨハンのフレームランスの後だと言うのに、ジェラルドもフレームランスを打った。ああ、この男のフレームランスも色が違う。青いよ…さっきよりもっと厚いウォーターウォールが必用なのね…着弾時の爆発はヨハンより少し音が小さかった。それがどうした。私が展開した普段の四倍の厚みのウォーターウォールは再び10ft押し戻された。でも、そこで止まった。

「ジェラルドのフレームランスも合格だ。テティス、今度の防御は良かった。自重する気がない奴がいるから、これからも頼む」

「はい…」

ジェラルドもヨハンも涼しく笑っていたが、互いに視線は合わせなかった。くそう、ガキどもめ変な意地の張り合いは止めてよ!しがない乙女が盾役をやらないといけないじゃない!


 ちなみに最後に残った火魔法使いのマーカス・パーティには、ここでフレームランスを打つ度胸はない様だった。フレームウォールを展開して「それだとファイアーウォールだぞ」とマーロン教官のお叱りを受けた。まあ、その人は特待生じゃないからね。


 水魔法師はアイスランスの発現をさせられた。ヨハンに『自重しろ』と言われていたので、冷却工程を三分の一にしてみた。余裕があったので三連射してみたけれど、後で怒られた。

「自重しても温度がほとんど変わっていないし、人の三倍で攻撃出来るのを見せつけてどうする!?」

だそうな。いや、特待生だからそれなりにレベルが高い事を示さないといけないでしょ?


 その日、寮に帰ったヨハンは侍従に愚痴を零した。

「全くあいつは!どうしてああもずれているんだ!?」

「また自覚のない行動でもしていましたか?」

「攻撃力の高い極低温のランスは止めろと言ったら、冷却工程を三分の一の時間で済ませたと言って、ランスを三連射しやがった!」

「常人の三倍の能力があるとアピールした訳ですか。大したものです」

「アピールし過ぎだから自重しろって言ってるのが分からないのかよ!?」

「彼女が聖属性だったら良かったんですがね」

「あいつにそんなのは求めてない!呑気なのが取柄の女に王妃など務まるか!」

 自分は自重しないくせに周囲には自重を求める…さすが俺様王子。

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