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第一話

 これから書き綴るのは今の悪夢が始まったきっかけ。夢のような理想を追いかけと悪夢に追われた者の話だ。いろいろな出会いがあった。愛する人も憎むべき人も。これは異邦の地で夢の王国を目指した男たちの冒険譚だ。


「やぁ、少年。君はどこから来たんだい?」

「は?ここから見えるあそこの街からだけど」

 尋ねられた少年は今いる丘の上から自分の故郷を指差して言葉を返す。

「いきなり何なのですか?見たところ外国の方に見えるんですけど」

「ああ、そういえば名乗っていなかったね。突然声をかけたことにも詫びよう」

 その青年は渋い良い声を少し大きくハキハキと話し始めて、

「僕の名前はフィス、流れ者さ。それで君は?」

 ハキハキと威厳のある声色から優しい音に変わった。

「グエル。奇遇ですね。俺も学校を卒業したばかりの浪人なんですよ」

 そのグエルの声には自分自身を小馬鹿にしたような嘲笑めいた色があった。

「フィスさんはなんでこんな辺境の地へ?それも旅の途中ですか?」

「そうだ、あの街の人々に伝えなければいけないことがあったんだ」

 グエルがその言葉に疑問符を浮かべている時、視界の奥、街よりもっと先の方から砂煙と黒い点が街に迫ってきているのがわかった。

 点が徐々に近づいてきて、目視で何なのかがわかる。それは戦術人形ドールアーミーと呼ばれる人型のロボットだった。人が搭乗する為の機構が備わっているそのロボットはドローンを動かすより感覚的に動かすことができる。

「くそっ。遅かったか。グエル、君はここにいろ!あそこはもうすぐ戦場になる」

 フィスはそう言い残すと丘の向こう側に走っていった。そしてすぐ、彼の戦術人形がグエンの目の前にやってきた。その機体には見覚えがあった。情報誌で見たことがあったのだ。この機体はゴットフリート。ド・リーマーと呼ばれる戦争屋のリーダーのものに酷似していた。

「おい、俺を置いていくのか!」

「当たり前だ、死ぬんだぞ」

「あそこには俺の家族が居るんだぞ」

 フィスはわずかに逡巡する。どうやら彼にとって家族という言葉は大きな意味を持つようだ。

「来るか?命が惜しいならここに残れ。違うなら早くしろ」

 先ほどまでとは異なり戦いに向かうものとしての覚悟が決まった様子である。

「行くさ。行くぞ!連れていってくれ」

 フィスは黙って、手を伸ばす。グエルはその手を取って、ロボットに乗り込む。

「行くぞ、振り落とされるな。最高速で行くぞ」

 その声に連れ立ったように加速していく。フィスが通信機を用いて、誰かに話しかける。端々から聞こえる言葉だけでは何事かわからないが多分仲間を呼んだのだろう。その後方右から続々と戦術人形が現れる。丘の向こう側にたくさんいたのだろう。フィスのロボットと同じペイントが入っているので先ほど通信していた仲間たちだろう。

「なぁ、さっき俺の故郷が戦場になると言っていたがあれはやっぱりあんたらのせいなのか?」

 暫しのダンマリがそこに残る。

「やっぱりってことは僕らが何者なのかは知っているんだね」

「ああ、フィスの機体のペイントを見て気付いた。それで戦争屋がここにいるのがこの戦争の理由なわけ?」

「いや、違うよ。世間は僕らを悪と呼ぶけれど、僕らからしてみれば自分のやっていることは正義であり大義だよ。理解をしてもらおうとは思わないけれど。その話は君が生き残ったらにしよう」

 フィスの戦術人形は仲間の群れの先頭に立つ。リーダーとしての威厳を見せつけていた。そのまま、戦場となる街に向けて走り始めた。

 すでに敵は街に攻撃を始めている。

 街は火の海になり、地面には血の池が生まれていた。そこら中に死傷者が転がっており、無惨という他ない姿である。

 街の中に入ったフィスのロボットたちの前に敵のロボットが立ち塞がる。正確にはこちらをまだ向いておらず何かを見つめているようだった。何を見ているのか?その先を見ると。

「母さん!親父!」

「見るな!グエル」

 フィスは動揺し大きな声を上げるグエルの体を抑え、諌める。その為の大きな声もあげる。

 フィスがグエルに注意をしたのにはこれから先の悪夢の一端を見せない為であった。その結果が、今グエルの目の前で起こってしまう。

 グエルの家族が目の前で肉塊に成り果ててしまった。

「ああああ!」

 グエルの発狂。その声が聞こえたように敵の戦術人形がニヤリと笑った気がした。

「狂いたいなら、狂っていろ。仇を討ちたいなら考えるんだ」

 フィスは厳しいながらも生きる道筋を示してくれた。

 グエルはそこで正気を取り戻す。考えを巡らせ、自分にできるものを見つけようとする。

「フィス!俺を下ろしてくれ。行きたい場所がある」

「正気か?死ぬかもしれないぞ。どこへ行く気だ?」

「なんとかしてくれ。街に隠してある戦術人形を取りに行く」

「…例の鍵か」

 フィスはボソッと喋る。

「鍵ってなんだ?」

「この街が襲われる原因。僕らの目的である『空白の城』への道標さ」

「あんなものが?」

「さぁ、行くなら早く行くんだ。敵も待ってはくれないぞ」

 グエルが地上に降り立つ。そのまま街の中央に走っていく。


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