第九話-『黒鉄のラソール』-
一方その頃――。
右の道を選んだラソールら表チーム。
彼らは地下三階にてマナシュルーム採集に勤しんでいた。
「邪魔だ、どけぇッ!」
ラソールの大剣が、人食い花モンスターのラフレシアに振り下ろされる。
「キシィ……!」
その一撃は重く、一瞬にしてラフレシアを斬り裂いた。
「ったく、歯ごたえがねぇ」
大剣を背負い、吐き捨てるラソール。
「さすがです、ラソールさん!」
「やっぱ頼りになるぅ~!」
「バカ、これくらい大したことはねぇよ。ところで、マナシュルームだかは?」
「六つもありましたァ! 大量です!」
「ほう、いいじゃねぇか。この調子で行けば間違いなく勝ちだな」
ラソールがほくそ笑む。
「ところで、ラソールさんは一緒に探してくれたりは――」
「……あ?」
「あぁ、いや! 本当、ラソールさんがいるだけで敵はバッサバッサと倒せちまうし、めちゃくちゃ楽ができて助かるっすぅ! 俺たちも安心して探せるってもんすねぇ!」
「はっ、俺はレイジボーを倒した黒鉄のラソールだぞ。お前らは最高の戦力を引いたんだ、大船に乗った気でいな。ほら、次のマナシュルームを探してこい!」
「「はいっ!」」
ビーンとハルートが散らばり、マナシュルームを探しに出かける。
その様子を遠目に眺め、近くにあった大岩に体重を預けるラソール。順調に集まりつつある状況とは裏腹に、その表情は決して明るいものではなかった。
(――歯ごたえがなさすぎる。危険度3なんざ、所詮はこんなもんか)
頬杖をついて、小さくため息をつくラソール。
そして、とある思いが彼の腹の内からフツフツと湧き上がる。
(……俺がいるべき場所はここじゃない)
自分にはもっとふさわしい仲間と組むべきで、自分にはもっとふさわしいクエストを受けるべきだ。
今、ここにいるのは、あくまでかりそめのものであり――どこか強豪クランに属しているのが自分の本来の姿なのだ。
ラソールはそう考える。
今はソロで冒険しているラソールだが、少し前まではあるクランに所属していた。クランの中でも一番強かった彼は、仲間たちからも当てにされていた。
しかし、そのクランは彼にとっては実に窮屈なものでしかなかった。作戦はいつも彼だよりで、現状維持の当たり障りのないクエストばかり。
(だから、やめた)
ここにいても、得るものはない。彼は仲間たちに惜しまれながらも、それを振り切り、自らが属するべきクランを探しに出た。
クランを出れば彼はすぐにでもどこかのクランが自分を拾ってくれるだろうと考えていた。
しかし、予想は外れ、彼を迎えに来るクランは現れなかったのである。
「ラソールさぁん! マナシュルーム、三つあったっすぅ!」
「おう。じゃ、袋に入れとけ」
「うす! ……ところで」
ビーンがラソールに向き直る。
「ん?」
「なんで、勝負なんかしようと思ったんすか? なんかよっぽど食べたい飯でもあるんすか?」
「はっ、別にそこまで食い意地張っちゃいねぇよ」
ラソールは考えた。自らに何が足りなかったのかを。
「――冒険者は名高くあれ。名門に勝ちゃあ、俺の名前が上がるからな」
かつて自分が所属していたクランは所詮無名のクランだ。いくら強くとも、名前がなければ扱いは凡百の冒険者と変わらない。
だから、彼には「名前」が必要なのだ。彼を推し量る強い名前が。
「ここでの勝利を次に繋げる。どんな形の勝負でもいい、名前を持つやつに勝ち続ければそれだけ俺の名前にも価値がつくってもんだからな」
「な、なるほど……」
「俺はこの勝負本気でやる。調子に乗った名門の鼻っ柱を折ってやる」
不敵な笑みを浮かべるラソール。
彼にとって、シルヴィアは所詮自分が勝ち上がるための踏み台にすぎない。
このクエストも、ハルートも、ビーンも。
彼の名を上げるための糧でしかないのだ。
「まぁ、俺は飯がかかってるから頑張るっす! 他人の飯で食えるのはやっぱ最高っすよ!」
「はっ……」
ビーンには、そういった野心めいたものはない様だった。
しょうもないやつ、そう口の先まで出かかったラソールだが、寸で飲み込む。結局、住む世界が違うのだ。
そういう言葉をかけることさえ必要ない。
「ラ、ラソールさぁん! モンスターですぅ!」
「お前らはどいてろ! 足手まといになる!」
「へ、へぇい!」
「わかりましたぁ!」
ハルートとビーンがそそくさとラソールの後方の岩陰に隠れる。
ラソールが再び大剣を抜き、構えた。
「――さぁ、来いモンスター! お前も俺の踏み台になってもらう!」