第七話-目覚める力-
「なっ……!?」
シルヴィアの慌てる声が聞こえる。
さて、ここからは冒険者としての腕の見せ所。
――『鑑識眼』。
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【レッサー・バジリスク】
レベル:15
HP :230/230
MP :10/10
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鑑識眼スキルにより、情報が浮かび上がる。
相手に触れた状態でないため、出てくる情報は最低限だが、この場合はそれで十分。
小さな羽の生えた一つ目の大蛇のようなモンスター、レッサー・バジリスク。
このビギナ洞窟の中でも特に強力なモンスターであり、上層にいるモンスターとは桁違いの攻撃力を誇る。
慣れた冒険者でも、油断すれば返り討ちにされてしまう危険なモンスターだ。
「み、見るからに強そうな……!」
「そこで待機してて。動いて欲しい時はこっちで指示する」
「わ、わかった。……大丈夫、なんだな?」
シルヴィアの問いかけに、アイコンタクトで返す。
冒険者としては俺もそこそこ長い。なかなかサポーターなのでレベルは上がりにくいけど、それでもこれくらいの魔物一匹を倒すのは問題ない。
「シャアアアアアアアアアアアッ!」
レッサー・バジリスクが大きな口を広げ、飛びかかってくる。
「ライゼル、モンスターが――」
――『心眼』発動。
レッサー・バジリスクの飛びかかる軌道が『心眼』スキルによって脳裏に照らし出される。
すぐに避けても十分に相手の攻撃は回避できる。……しかし、攻撃に出る時はもっともスキが出るタイミングだ。そのスキを利用しない手はない。
レッサー・バジリスクがもっとも接近したタイミングで、最低限の動きで回避。そのまま、カウンターを決める。
(……このタイミング!)
横に飛び跳ねて、剣を抜く。
「ギガゴッ!?」
攻撃体勢に入っていたレッサーバジリスクは当然、この攻撃をかわせない。
俺の攻撃をもろに受けたレッサーバジリスクは、勢いよく吹き飛んでいく。
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【レッサー・バジリスク】
レベル:12
HP : 7/230
MP :10/10
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少し体力が残ってしまったけど、もはや風前の灯火。
だったら、今のシルヴィアにも倒せるはず。
「い、今、いったい何が起こった……?」
「武器を構えて!」
「ふぇっ!? わ、わわわわかった……!」
「ギ、グググ……!」
レッサーバジリスクがシルヴィアに飛びかかる。
「シルヴィア! 攻撃を!」
「く、来るなら来い! わ、私は負けないぞ……!」
そういって破れかぶれにブンブンと剣を振り回すシルヴィア。
駄々っ子のような、メチャクチャな剣筋。
ただ、この際当たれば良し。
「グゲゲゲッー……」
シルヴィアの攻撃を食らい、力なくふっ飛ばされるレッサー・バジリスク。
「や、やったか!?」
シルヴィア、迫真の表情。
なんとなく、そのセリフだとやってない感ある。が、今回の場合は大丈夫だ。
レッサー・バジリスクは動かない。
「討伐完了。やったね、シルヴィア」
「……た、倒した? 私が? モンスターを?」
シルヴィアの顔がパァッと明るくなる。
「私があんな強そうなモンスターを……! ははは! や、やった! すごいぞ、私!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるシルヴィア。
まさに、体全体で喜びを表現していると言った感じ。が、少しして、飛び跳ねるのをやめて、真面目な顔に戻った。
「……こ、こほん。調子に乗った」
「だいぶわかりやすく乗ったね」
「う゛……。わ、私だってわかってはいるさ。いまの戦闘はほとんどキミのおかげだってことくらい。羽目を外して喜びすぎた……」
「いや、今はそれくらい喜んで良い時だと思うよ」
「うん……?」
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経験値225を獲得!
シルヴィアがレベルアップ!
レベル1→レベル5
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シルヴィアから、魔力のオーラがほとばしる。
「な、なんだこれは……!? わ、私が突然レベル5に!?」
「お客さん、レベルアップは初めてかい?」
「初めてです! ……レ、レベルアップとはこんな一気に上がるものなのか?」
「色々要因はあるね。敵が強いのもあるし、俺の能力もある」
レッサー・バジリスクのレベルは12。
敵のレベルが高ければその分得られる経験値は高い。経験値が高ければ高いほど育成師の経験値ボーナスの量も増加する。
上の階層だと、ここまでのレベルアップはできなかったはずだ。
「そうだ、クラスブックでステータスの方も見てみるといい」
クラスブックとは、古代の賢者が考案した小型の魔導書のことだ。
持ち主の魔力を読み取り、その能力を可視化する機能がある。
「あ、あぁそうだった。まだ見てないな……」
シルヴィアがクラスブックを懐から取り出し本を広げる。
すると、文字が空中に浮かび上がった。
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《シルヴィア》
職業:ナイト
レベル:5
HP:250/250
MP:50/50
攻撃:30 防御:70
魔力:20 精神:40
素早さ:30
【スキルツリー】
└:[0]騎士道-C
└:[0]剣術-E
└:[0]盾術-SS
10ポイント振り分け可能!
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「レベル1からだいぶ見違えるようになったね」
能力は、いずれもレベル1から倍以上。
その中でも、防御は特に抜きん出ている。なかなか、特徴的なステータスだ。
「あ、あぁ、すごい変わりようだ。……そうだ、このポイントというやつをスキルツリーに振り分ければ、スキルを覚えられるのだったか?」
クラスブックにはステータスの確認の他にもう一つ機能がある。
それが、スキルの習得だ。
「そうだね」
基本的にスキルは、スキルツリーにポイントを振らなければ覚えることが出来ない。例外もあるが、どれだけレベルアップをしてもポイントを振らない限りは、ただただステータスが上がるだけで終わってしまう。
ここでどのスキルにポイントを入れるか、というのが非常に重要だ。
「であれば、剣だな! 私もバッサバッサと敵を斬り捨てて――」
そういって、シルヴィアがクラスブックの剣の文字に触れようとする。
まずい、スキルランクは俺にしか見えないことを忘れてた……!
「いや、待って。そのことだけど、ポイントは全部盾に送って欲しい」
「……え?」
すっとんきょうな顔をするシルヴィア。
「し、しかし盾術を上げても火力には繋がらないんじゃ? 私も他の冒険者みたいに前線で戦ったほうが――」
「いや、盾がいい。防御はほら、最大の攻撃っていうし。本当に強い冒険者は盾の使い方がうまいっていうし」
「そう、なのか?」
「うん。これからはやっぱ盾だよ。大・盾時代が来るって俺は信じてる。盾こそがこれからの未来を切り開くね」
「適当言ってないか?」
「……まぁ、四割くらい」
「結構な割合だな!?」
さすがに適当にフカしすぎたかもしれない。
「でも、盾をオススメするのは本当。盾を上げればここからの採集は大きく変わる」
「……わ、わかった。そこまで言うのなら」
――スキルツリーには、スキルランクと呼ばれるものがある。
スキルツリーにポイントを振ることでステータスボーナスやスキルを獲得できるが、同じ名前のスキルツリーでもランクによって得られるものが変わってくる。
「剣術D」と「剣術A」とあった場合、剣術Aの方が覚えられるスキルの性能やステータスボーナスが高く、単純に覚えられるスキルも多い。
特にスキルランクSSは、非常に貴重だ。
スキルランクは、後天的に上げることもできるが、それはEからBまで。A以上は本人の先天的な資質に依存している。
Aでも本来は一線級だが、SSは更にその上の上のいわば英雄級ともいえるもの。その技能のために生まれてきたとも言うべき、奇跡の逸材だ。
――つまり、シルヴィアは盾の天才なのである。
と、本来シルヴィアにしっかりと説明したいところなのだが。
スキルランクを閲覧できるのは、育成師の特性によるもの。シルヴィアからすれば「騎士道」「剣術」「盾術」としか見えておらずスキルランク自体が見えていない。
なのでここはちょっと強引に入れてもらった。しっかり説明する時間も今はないし。
宙に浮かぶ『盾術』の文字に触れ、魔力を注ぎこむシルヴィア。
やがて――。
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スキルツリーが成長していく……。
シルヴィアは【イージス・バッシュ】を覚えた!
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「スキル……! 私も、ついにスキルが」
「……驚いた。かなりいいスキルを引いたね」
さすがは盾術SSだ。
正直、いくら天才とはいえ、ここでこのレベルのスキルとは思ってもいなかった。
これは――かなり面白くなりそうだ。
「そうなのか? ふむ……」
シルヴィアが顎に手を当てたかと思うと。
「――このスキルさえあれば、表チームに勝てたり、なんて」
「うん、勝てる」
「さすがにできないか。最初に覚えるスキルがそこまで強いスキルなわけない……え?」
「そのスキル、多分今後ずっと使っていくことになると思うから」
シルヴィアが唖然とした顔でこちらを見ている。
「――試してみればわかるよ、そのスキルがどれほど強力なものか」