第四話-分かたれる者たち-
ビギナ洞窟。
しっとりとした湿り気が洞窟全体に広がっており、キノコが生えるのも納得の場所だ。
緑色のコケが壁一面に広がっており、洞窟でありながら青々としている。
そんな中、様々な音が洞窟内に響き渡る。
洞窟を照らす松明のパチパチと燃える音と、洞窟を歩き回る五人の足音……。
「……あった」
岩陰でうっすらと青い光を放つキノコ。マナシュルームだ。
膝をかがめて、マナシュルームに触れる。
茎の部分を優しくひねると、コロンとキノコが手の中に転がってきた。
「それが、マナシュルーム?」
シルヴィアに話しかけられる。
「あぁ。こうして根本を優しくひねれば、それだけで取れる。取った後はこうして、カサを叩いてあげると来年もまたここに生えてくるからぜひやってあげて欲しい」
「ん、わかった。どれ……」
シルヴィアが俺がやったようにマナシュルームを取ろうとするが、変な力がかかったのか、茎が折れてしまった。
「ちょっと力んでるかもね。軽く手首でひねる感じでいいよ」
「……不慣れだな、こういうのは」
「そりゃあ、シルヴィアさんはいいところの騎士様なんすから、こういうちまちましたことはあんまやらないっすよねぇ」
「そ、そうだな。不甲斐ない」
冒険者の一人がシルヴィアをフォローする。
まぁ、たしかに由緒ある騎士がキノコ狩りに勤しんでいる姿は、なかなか想像しづらい。
「……やれやれ、何もモンスターがいやがらなくて張り合いがねぇな。おい、キノコの方は?」
「今、合計5本っす。でも、もうここは取り尽くしたっぽいっすかね?」
「だったら、次に行くぞ。この先、モンスターが出るかもしれない、俺の後ろにしっかりついてろよ!」
そういって、また一人でラソールが奥へとずんずん進んでいく。
さすがにファイターな彼にとってみれば、戦闘がないというのは体を持て余すか。
マナシュルームを袋に入れ、俺たちもラソールに続いた。
洞窟を進んでいると、ラソールが突然足を止める。
「ど、どうしたっすか!? モンスターっすか!?」
「いや。……お前ら、アレを見ろ」
そういって、ラソールが指をさす。
「分かれ道……ですね」
ビギナ洞窟は、途中から右と左に分かれるルートがある。
右ルートも左ルートも、どちらを選んでもほとんど変わらない。どちらも地下5階まで伸びていることは同じだ。
しかし、時間的に行けるとすればどちらか片方のルートになる。
「どっちの道を行くんすか?」
その声にラソールが振り返り言う。
「どっちも、だな。二手に分かれて、大量ゲットと行こう」
「えっ? い、いいのか? そんなことをして」
シルヴィアが食い気味に言う。
「はっ、危険度3だぞ? こんなん始めたてのヒヨッコでも楽勝だろ」
「それは……そう、なのかもしれないが」
「だったら、問題なしだ。今からコイントスして、出た面同士でチームを組むとしようぜ」
そういって、ラソールが手のひらにコインを置く。
「おい、そこからじゃコインが見えないだろ? もっとこっちに来な」
「……わかった」
少し間があったが、シルヴィアがラソールに呼ばれて近づく。
何か考えているようだけど……。
「何か、気になることが?」
俺がシルヴィアに尋ねる。
「……い、いや、大丈夫だ。なんでもない」
そう答えるシルヴィアだが、やはり何か様子がおかしい。
そんなシルヴィアの様子も意に介さず、ラソールがコインを弾く――。
「それじゃ、俺、ビーン、ハルートで表チームと」
「おぉ! ラソールさんと一緒とは……!」
「ついてるっすぅ……!」
ビーンとハルートがハイタッチして喜ぶ。
「っす」口調が特徴の軽装の盗賊風の男、ビーン。
革製の防具で全身を固めた、ハルート。
そして、魔猪レイジボーを倒したラソールによる表チーム。
……裏チームは俺とシルヴィアか。
「ほう。丁度よく、俺とあんたでチームが分かれたわけだな」
ラソールがニッと笑ったかと思うと。
「――勝負だ」
突如、宣戦布告に出た。
「どっちのチームがマナシュルームを多く取れるか。負けたチームは勝ったチームに昼飯代を出すってことでどうだ?」
つまり、俺たちが負けた時は相手3人分の昼飯代を出すことになる。
わりと、大きい出費になるな。とはいえ、勝てば昼飯代が浮くと思えば……悪くはないのかも。
「いいっすね! 他人の金で食う焼肉ほど美味しいものはないっす!」
「いい酒が久しぶりに飲めるぞぉ!」
他人のお金だと思って贅沢なもの食べようとしてるな。
「……し、しかし」
「おいおい、名門の騎士様とあろうものが挑まれた勝負から逃げるってのか?」
「う゛……た、たしかに。騎士は挑まれた勝負からは逃げないが……」
「だったら、決まりだ。――名門だかなんだか知らねぇが、勝つのは俺たちだ、行くぞォ!」
「「おぉー!」」
そういって、ラソールたちが洞窟の奥へと消えていく。
ここまで対抗心丸出しだと逆にすっきりするかも。ま、勝負ごとは俺も嫌いじゃない。
せっかく、強い面々が揃ってる以上、勝負になるのは張り合いが出て悪くない。
「それじゃ、俺たちも行こうか」
残された道は左ルート。
そのまま足を進めるも、シルヴィアがついてきていないことに気がついた。
「シルヴィア?」
振り返り声をかけるが、シルヴィアは動かない。
さっきからなんだか様子がおかしいと思っていたけど、一体何が……?
「――なぜ」
シルヴィアがポツりとつぶやいたかと思うと。
「どうして、そんな、こんなことに……?」
そういって崩れ落ちるシルヴィア。
顔が青ざめ、何やら声も震えている。
「さっきから様子がおかしいと思ったけど、どうしたの?」
「私は……君に言わねば。謝らなければならないことがある」
「謝らなければならないこと?」
「――実は、私はレベル1なんだ」