第三話-寄せ集まる者たち-
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【マナシュルームの季節です】
危険度:3
クエスト者:アカデミア
内容:
今年も、マナシュルーム収穫の時期になったのでクランの皆さんにお願いします。
場所はビギナ洞窟となります。
できるだけたくさんお願いしたいですが、とはいえ無理はなさらぬよう。
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人生初のハッシュクエストは、回収クエストと呼ばれるものだった。
文字通り、指定されたもの採取や採掘を行い、集めたものをギルドに提出する。単純明快だ。
今回なら、集めるものはマナシュルームというキノコになる。
このタイプのクエストは、集めれば集めた分だけ報酬が増えるので、とても美味しい。
おまけにこのクエスト自体、クランに入っていた頃に受けたこともある。おそらく、クラン用のクエストがそのままハッシュクエストに流れてきたのだろう。
正直、だいぶありがたい。
知っているか、知らないかで、クエストの安定感は全く違うものになるから。
そんなこんなで目的地であるビギナ洞窟にたどり着くと。
「集合場所に……ああ、いた」
まだ、時間ではないけど、すでに参加者たちが洞窟の前に集まっていた。
「ん? お前、クエストの参加者か?」
大剣を携えた男に話しかけられる。
「そうだね、俺はライゼル。よろしく」
「これで四人。ってことはこれで全員揃ったな。行くぞ!」
そういって、洞窟に入ろうとする男。
やばい、サリアさんが無理にねじ込んだ弊害が。
「い、いや、今回のクエストは五人でやることになってるはずだから、まだ一人来てないんじゃないかな」
「五人? 四人じゃなかったか?」
「……まぁ、ギルド側に手違いがあったっぽくて」
だいぶ作為的な手違いだけど。
「おいおい。そんな話、俺は聞いてないぞ? お前ら、知ってるか?」
「自分は聞いてないですね」
「そういや、ギルドを出ようとした時にそんなこと言われたかもっす」
「……ったく。しゃあない、時間までは待つとするか」
良かった。辛うじて、一人聞いていてくれてた。
正直、だいぶ焦った。
無理やりねじ込まれた俺が置いていかれるのはしょうがないとして、元々参加していたメンバーが俺のせいで置いていかれるのは気分が良くない。
できるだけ、その一人も早く来てくれるといいけど……。
「しかし、あのラソールさんがいてくれるなんて、今回はラッキーだったっす!」
参加者の内の一人が、大剣の男に話しかける。
「へぇ、俺のことを知っているのか?」
「そりゃもちろん! グラディエーター、黒鉄のラソール! 魔猪レイジボーを討伐した凄腕の冒険者! 有名っすよ!」
「あ、あなたがあのラソールさん!? お、お会いできて光栄です……!」
「やれやれ、人気者ってのは辛いな。すぐ噂になっちまいやがる」
困ったような口ぶりだが、顔はまんざらでもない感じだ。
……レイジボーを倒した冒険者、か。
たしか、前に討伐依頼を受けるか、受けないかみたいな話をした記憶がある。その時は、あまり旨味がないからと俺たちのクランは受けなかったけど。
なるほど、このラソールが退治していたのか。
見たところ、たしかに戦闘慣れしているのは感じられる。周囲の冒険者たちと比べても、頭二つ以上は抜けている。
鑑定眼スキルで確認してみようかな……?
そう考えていると。
「――おや、もう全員揃っていたのか。これはもしかすると、遅刻してしまったかな?」
凛とした声に、周囲が振り返る。
「いや、遅刻じゃないっすよ、だいじょ――」
話しかけようとした冒険者の一人が、その姿を見て言葉を失った。
流れるような白く長い髪。
空を思わせるような、澄んだ青い瞳。
この場にいた土臭い冒険者たち(俺含め)とは明らかに毛色が違っていた。
「……私に何か?」
白い髪の少女が、不思議そうに俺たちを眺める。
「い、いえ……!」
女性の問いかけに、しどろもどろになりながら下がる冒険者。
(五人目の人、なんだかすごそうな人ですね……)
(あのスカーフの模様……! デュライ騎士学校のやつっすよ!)
(デュライ騎士学校!? あ、あの『光輝王』が出たっていう……!)
冒険者たちのヒソヒソ話が聞こえてくる。
ちゃっかりあの少女が五人目ということになっているが、まぁ存在しない五人目は俺なのでちょっと申し訳ない。
――デュライ騎士学校。
多くの著名な騎士を輩出した名門校。大手クランや王国騎士の実力者たちも調べてみるとデュライ騎士学校の出身だった、というのはよくある話だ。
俺のクランにはデュライ騎士学校出身の人はいなかったから、こうして絡むのは初めてだ。
ラソールも、冒険者たちに混ざらないまでも、じっと少女を見つめている。
「あんた、名前は?」
「名乗るほどのものではないが……シルヴィアだ」
「……はっ、名門ね。ま、アテにさせてもらう」
吐き捨てるように言ったかと思うと、ラソールが先に洞窟に向かい始める。
「ちょ、もう行くんすか!? ま、待ってくださいっすぅ!」
「自分も! 自分も行きますからぁ!」
続く二人の声にもラソールは振り返らない。
明らかに面白くない、といった態度だ。
「何か……してしまっただろうか?」
「いや、気にしなくてもいいと思う」
「そうか。だったら良いのだが」
シルヴィアが何かをしたわけでもないが、名門というだけでやはり人の注目は集めてしまう。憧れと羨望とは表裏一体だ。
まぁ、ともかく魔猪殺しのラソールに、騎士学校名門のシルヴィア。
まるで今から、強敵を倒すようなメンバーに思えるが、やることと言えばマナシュルームの採集。若干、いや、だいぶ過剰戦力かもしれない。
今回は、かなり楽に終わりそうだ。
――この時、俺はまだあんな事態になるとは俺は思ってもいなかった。