第一話-根無し草になった日-
「――どうしたものかな」
部屋のすみっこで膝を抱え込み、つぶやく。
呆然と天井を眺めているといつの間にか、天井シミを数え始めていた。
……このままずっと、こうしてるのも良くないかな。
少し、愚痴らせて欲しい。
俺は、ライゼル・アクト・フォード。
とあるクランに属する冒険者――だった。
本日付で、俺は長らく属していたクランをクビになった。
いや、より正確に言えば、おそらく俺は追放された。
ギルドで受けたクエストを終わらせ、宿屋に戻ってきたところ、仲間たちの姿はなく。代わりに一枚の紙切れ――『ギルド脱退表明書』というのがテーブルの上に乗っかっていた。
なぜか、その脱退表明書には、俺の名前が書かれていて。
なぜか、ギルドの了承の判も押されていて。
気がついた時には、根無し草になっていたのである。
「本人がその場にいないのに、ギルドもハンコ押さないでほしかったな……」
今日のクエストも片付いた、と達成感のまま宿に戻った所この衝撃の真実を知ってしまい、ショックのあまり膝を抱えてぼーっとしている。
……温度差で風邪を引きそうだ。
元々、俺とリーダーとの折り合いは良くなかった。
理由は……だいたいわかってる。
――俺が「育成師」という職業だったから。
この育成師というのは、普通の職業のそれとは違う。
何が違うか、と言われれば。おそらく何もかも。
まず、育成師というのは知名度がない。
「低い」のではない。「ない」のである。
過去に育成師だった人物は一人としていないし、今この瞬間にも「育成師」である人間は俺を除けば、誰もいない。
だから、他の人間からすれば、俺をどう扱えば良いのかわからない。
次に「育成」スキルは直接戦闘に絡む能力ではない。炎魔法が使えるとか、剣技が使えるとか、そういったわかりやすさがない。
それ故にリーダーからは。
「育成スキルなんぞ、なんの役に立つっていうんだ?」
といつも言われていた。
ただ、知らないのであれば、知ってもらえばいい。
俺は俺なりに、育成スキルをフル活用して仲間を育成し、リーダーに「育成師」とはどういう存在なのか、行動で見せていたつもりだった。
だった、のだが――。
「わかって貰う前にこうなるとは」
現実は非情である。
追放された以上、俺はもう仲間を育成することもできない。
「育成師」として、仲間がどう成長していくのか、なんとしてもこの目で見届けたかったけれど。
「……とりあえず、なんとかしようか」
立ち上がり、荷物をまとめる。
このままぼーっとしてても、なにかが変わるわけでもない。
――『冒険者は、常に貪欲であれ』。
人生は色々、冒険者も色々。
得られるものもあれば、失うこともある。けど、失ったなら、もっと貪欲になれば良い。失った分よりももっと大きなものを得ればいい。
踏み出せば、得られるものはきっとある。
もっともっと、俺はこの育成スキルで、多くの人を育成したい。
いっそ……一つのクランをゼロから育て上げる、なんてのも面白いかもしれない。
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《ライゼル・アクト・フォード》
職業:育成師
レベル:30
【スキルツリー】
└:育成-?
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