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アーモンの最期

 ケイは火球の光をたよりに、一歩ずつ階段を降りていった。

 階段を降りきったところに大きな扉があった。鉄でできた頑丈な扉だ。鍵がかかっている。ケイは押したり引いたりするがビクともしない。

 ケイは扉から一歩下がった。火球を消して、光魔法を発動する。屋敷の周辺の光を扉の一点、鍵穴のところに集めた。虫眼鏡で光を集めると紙を焼くことができる。それをさらに大がかりにしたものだ。屋敷の周辺の光を集めたのだから、かなりの高熱になった。

 扉の鍵穴あたりが青白く輝き、ジリジリと音がする。それから数秒ほどで鍵穴部分が溶けて穴があいた。扉に触ると熱い。ケイは水魔法を発動して水をかけて扉を冷やした。


 扉を開ける。中から人の気配がする。再び火球を出してまわりを照らした。中には5人の護衛が剣を握って構えていた。

 ケイは、一歩、二歩後に下がった。この場面で使える魔法は限られる。姿を消すためには火球を消さなければならない。しかし火球を消すと真っ暗だ。姿を消しても相手が見えない。

(どうするか……?)

 ケイはさらに一歩下がり、再び屋敷周辺の光を集めた。護衛の男たちの前に、今度は大きめな光の球を作った。強烈な光が男たちの目を射る。それまでずっと暗闇にいたのだから、そのまばゆい光に男たちはひるみ、あわてて目を押さえる。目が痛い、男たちはそう感じてもいた。

 そのすきに、ケイは剣を抜いて、一息で5人の男たちを斬り伏せた。


 さらに歩くとまた扉があった。同じようにして開ける。もう護衛はいなかった。

 そしてもう1つ、さらに頑丈そうな扉があった。これの鍵は2つ。それも難なく破る。

 ケイは、ゆっくりと扉を押し、小さな火球であたりを照らした。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「やはりお前だったのか……」

 部屋の中から、声がした。そこには、禿げた小太りの男が床にしゃがみ込んでいる。アーモンだ。

 アーモンは、屋敷の前でケイを見てから、ずっと気になっていた。ケイがいたガル鉱山の所長の息子のへーラーにもケイのことを聞いた。龍と関係があるのではないかとも考え、いろいろなつてでケイのことを調べてもみた。しかし、わかったのはウィントン伯爵領で捕らえられたということだけだった。

 ウィントン伯爵領では〈賢者の石〉がらみの仕事だった。それと関係があるのだろうか。それからさらに調べようと考えていたときに龍に屋敷が潰された。


「お前はもう終わりだ……」

 ケイは、火球をアーモンに投げつけた。火球はアーモンをはずれて壁に当たる。部屋は再び闇に包まれた。


「命だけは助けてくれ!」

 アーモンの搾り出したような叫びが真っ暗な部屋に響く。

(ちっぽけな男だったんだな……)

 有力商会の会長。王国の影の存在。ケイは勝手に大物をイメージしていたが、全く違う。こんな男に奴隷にされたと思うと、情けなくも感じた。


「お前は、そうやって命乞いをした者を許したのか?」

 ケイは、そうアーモンに問いかける。

 ボッ、また火球が現れ、部屋を照らした。その灯りで、アーモンの腕や服を飾る宝石がキラキラと光っている。


「まて! あのスンナ村では、全員の命を助けたぞ。全員の……」

「あそこは、まだ村人から搾り取れるからだろう。ほかでは何をした。子ども奴隷として売るために、その両親を、家族を、村人を殺した。いったい何人だ?奴隷にした子どもたちは100人をくだらないはずだ」

 ケイはリニ村やルイス村で見た過去の光……、村人たちの無念、それを思い出して、また身体の奥が震える。

 それをケイは必死に押さえようとする。それでも震えがとまらない。そのとき、ナンナの顔が浮かんできた。その笑顔が、ケイの気持ちを鎮める。

(そう、殺してはダメだ。アーモンから聞き出さなければいけないことがある)

 ケイは、冷静になって本当の目的を思い出した。


「確かに……、スンナの村では、村人を殺さなかったな……。それじゃあ、今から聞くことに答えたら許してやろう。無傷で、ここを出してやる」

「本当か? 何でも答える。何でも聞いてくれ……」

「俺が知りたいのは……、ウィントン伯爵夫妻の居所だ」

「やはり、それか……」

 アーモンは、一番聞かれたくないことを聞かれた、そう感じたように顔を伏せた。話せば、命が危ない。そう思っているようだ。しかし、意を決したように顔を上げた。

「夫妻は……、生きている。ただし、いるのは王城の奥だ。ただ、知っているのはそこまでだ。地下なのか、塔の上なのか、場所までは知らない。でも確実に王城に監禁されているはずだ」

「黒幕は王なのか?」

「まさか……、あの王にそんな力はないよ。実質的な王……」

「ヘスか?宰相の……」

「そうだ。伯爵は、〈賢者の石〉の隠し場所を知っている。ヘスが喉から手が出るほどほしいものだ。〈賢者の石〉があれば、鉛も鉄も金になる。どんなものでも作れる。不老不死の薬も……。だからその場所を言わない限りは殺されることはないはずだ」

「〈賢者の石〉を差し出すと、ウィントン様は解放されると思うか?」

「まさか、あのヘスだ。それはありえない。今まで、約束など守ったことは一度もないからな」

 ケイは、ヘスと会ったことを思い出していた。ウィントン伯爵領の神殿跡の調査……、〈賢者の石〉の探索をやらされていたときのことを。狐のようにつり上がった冷たい目が印象的だった。

(確かに、約束を守りそうにないな)

 ケイはそう思う。だからこそ約束は守らなければならない。ヘスやアーモンと同類になる。

 

「これで、もういいのだな」

「ああ、約束は守る。そこから出られるからとっとと出て行け。もう何もしない。それは約束する」

 アーモンは、膝に手をやり、よいしょ、と小さな声をかけ立ち上がった。足が震えている。それでも、命が助かった、その安堵の表情が見える。

 それから、ゆっくりと歩き、ケイのの横を通り抜け、出口に向かった。ケイは動かない。その手のひらの上で、火球がゆらゆらと揺れ、部屋の中を照らしていた。


 アーモンは、その部屋を出て地下の通路を歩く。その先には階段の上からかすかな光が漏れていた。そのわずかな光を頼りに歩く。

 分厚い鉄の扉の鍵の部分が溶けている。アーモンは、何かにつまずいて転びそうになった。それは、倒れた護衛の男たちだった。流れ出た血で滑りそうにもなる。

(なんてやつだ……)

 階段の下まで来た。上を見上げるが、人の気配はまったくない。

(護衛は何をやっているのだ)

 アーモンは、一歩ずつ階段を登り、広間に出た。そこで目にしたのは倒れた護衛だった。それに驚き、階段の下に落ちそうになる。

(100人はいたはずだが)

 男は屋敷の外に出た。そこにも何人もの男が倒れていた。斬られた者、焼かれた者、足が潰れている者もいた。血の臭いとともに何か焦げた臭いが漂ってきた。

 その先には木々の間に一本道がある。

(あそこを抜ければ……)

 アーモンは、その道へと歩みを進めた。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 アーモンが出て行ったあと、ケイはずっと考えていた。これからどうすべきかを……。

 部屋を出て、階段を上がり、出口のほうを見る。アーモンがよろよろと歩いて外に出て行くのが見えた。一本道で、人が行き交う街道までは数キロはあるだろう。

(助かるはずはない)

 ケイはそう思う。アーモンにまとわりついている血の臭いが彼を生かしてはおかないはずだ。周辺の森には狼やヒョウといった肉食獣が多くいる。それがいるから敵が来にくい。この別宅が隠れ家となったことの理由でもあった。


 先に逃がしたメイドや使用人には急ぐように言った。そういった肉食獣が集まる前に逃げる必要があったからだ。実際に彼等は無事に逃げられた。

 しかし、アーモンはそうはいかなかった。

 遠くから悲鳴が聞こえてきた。アーモンの声だった。

 立ち上がって外を見る。狼の群れが、倒れた男たちに群がっている。ヒョウが男たちを引きずっていく。遠くにトラも見えた。クマもいるだろう。


(これで、1つが終わった……)

 まだ、1つだ。本当にやらなければならないのは、ウィントン伯爵のことだ。

 ケイは、そばにあった小さな椅子に腰掛けた。

(王城の奥ということならば、とにかく王都へ行かなければ)


 ケイは王都に行くことにした。そして、そこでまた出会いがあるのだった。大きな出会いが。


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