アーモンの別宅へ
ケイは、男から聞いたオドラ山の麓にある森へ向かった。もちろん、アーモンと対決するために。
夜中に森を通り抜けるのは危険だ。だから森の手間にある小さな宿に立ち寄った。しかし、その宿は満員だった。どう見てもならず者。傭兵崩れだろう。そういった連中がたむろしていた。護衛のために雇われて、アーモンの別宅に向かうのだろう。
「まさかお前も護衛じゃないよな」
1人の男がケイに気づいてニヤニヤと笑いながら声をかけてきた。暇なんだろう。
「護衛ですか?まさか……、私は、商会から何か注文を聞いてこいと言われてきただけです」
商会の御用聞きのふりをしてごまかす。
「なんだ、そうか。商会の関係か……。それなら窮屈だけど、俺たちの部屋に泊まれよ。このあたりは他にないからな。それに……、お前みたいなやつが野宿すると危険だぞ」
商会関係者だと思ってくれて、妙にやさしく親切だ。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」
ケイは、それから部屋に通された。ベッドは一杯なので床だが、野宿するよりましだ。
その部屋には3人の男が泊まる。すでに酒が入っている。
「この間、押し入った家に若い女がいてさ……」
「俺が入ったところは年寄りばかり。たいして金もなくてさ、頭にきてぶん殴ったら死んじまったよ」
そんなクズな話ばかりだった。もう容赦する必要はない。ケイの決意は固まった。
翌朝、男たちとアーモンの別宅に向かう。全部で15人いる。道中もクズ話ばかりだった。
途中に簡単な関所があり、見張りの男が2人いた。身体が大きく長い槍を手にしている。
「あそこを抜けると、あとは一本道だ」
そう教えてくれた。商会の人間には親切にするのが基本のようだ。
「ありがとうございます」
ケイは、一言礼を言って、そして光魔法を発動して姿を消した。
「あっ、お前……、どこへ……」
話しかけたはずのケイが急に消えてしまったので、男はうろたえる。その瞬間、その男の首が飛んだ。
まわりの男たちは、まだ何が起きたのかはわからない。
ケイは、そのまま前の男の胸に剣を突き刺し、そしてまわりの男たちを次々と斬っていった。
20メートルほど先の関所の男たちには、ただ男たちが血を吹き出しながら倒れていくにしか見えない。
「いったいなんなんだ?」
1人の見張りの男が隣の男のほうを向いた。しかし、隣に立っていた男には首がなかった。そしてその男の胸から剣の先が出てきた。何が起きたのか……、それがわからないまま、槍を手にしたまま男は絶命した。
「ふう……」
ケイは一息ついて光魔法を解除した。姿を現したケイは血まみれだった。15人プラス2人、全員を斬るのに1分もかからなかった。ケイにとっては初めての実戦だった。ヴィクトールから習っていた剣の力を存分に発揮した。
ケイは倒れている男の服の裾で剣にこびりついた血を拭って、顔を拭いた。
ケイの勝算は、この光魔法で姿を消すことにあった。とはいえ、結構体力を使う。
(100人となると……、魔法も使わないと)
前を見ると屋敷までの一本道だ。途中で見つかっては面倒だ。ケイは再び光魔法を発動した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アーモンは別宅の自室でふんぞり返っていた。とにかくイライラがおさまらない。
届く報告は、悪い知らせばかりだ。
どこぞこの鉱山がなんとか商会に乗っ取られたとか、工場が地元の領主に差し押さえられたとか、そんな報告ばかりだ。
「あれだけ金を貢いだのに……、クソッ」
手にしていたグラスを壁に投げつける。酒でも飲まなきゃやってられない、そう思って朝から呑んでいたが、それでも気が晴れることはなかった。
窓の外では、護衛の男たちがチャンバラをしていた。
「あいつらの給金も安くはないんだがな……」
しかし、背に腹は代えられない。ここは龍にはバレていないだろう。もし龍が現れたら、あんな護衛が1000人いても太刀打ちできるはずもない。アーモンは、護衛を時間稼ぎに使うつもりだった。龍が護衛に気を取られているうちに逃げればいい。だから人数が必要だと考えたのだった。
アーモンはメイドを呼んだ。
「お茶をもってきてくれ」
もう酒は十分だ。少し気持ちを切り替えよう。そう思ったのだった。
しばらくしてメイドがお茶を持ってきた。しかし、そのメイドが部屋の入り口で固まって動けない。
「ん?どうした?」
アーモンが声をかける。
「そっ……外が……」
メイドはそれしか言えない。アーモンが外を見ると鍛錬をしている護衛から血が噴き出している。
「あいつら……、やりすぎだ」
注意をしようとアーモンは立ち上がった。
「敵襲だ!敵襲!」
外から叫び声が聞こえてくる。
「鍛錬じゃなかったのか」
アーモンは急いで部屋を飛び出した。
外では、護衛が次々と斬られて倒れていた。
(これで20人か……、結構しんどいな……)
ケイは次々と護衛を斬っていった。魔法を使えば少しは楽かもしれないが、姿を現すことになる。
そのときだった。ケイにいきなり斬りかかってきた男がいた。
(見えないはずなのに……)
ケイは、姿を消したまま男から距離をとる。しかし、その男はグンと一歩でケイとの距離をつめた。ケイの頭に剣が振り下ろされる。それをギリギリで剣で受けた。
「少しはできるな。しかし、その殺気じゃ、丸見えだ」
男は、ケイの気配を感じていたのだ。ケイはさらに距離を取ろうとする。
「足音で丸わかりだぞ」
また、距離を詰められる。
「顔が見えないのが残念だな。怯え、あきらめ、そして斬られるときの表情がたまらないのにな」
男は、殺人を楽しむサイコパスだ。
(こんなやつは野放しにできない)
ケイは姿を消したまま斬りかかるが、それもカンタンに受けられる。剣の腕でも数段は違う。
ケイは、光魔法を解除して姿を現した。
「ほう、思ったより若かったな。もう、これでお前は終わりだ。死の恐怖におののくがいい」
男は、そう言って剣を振り上げケイに迫った。しかし、その男の足が止まった。ケイは氷魔法で男の足を地面に貼り付けた。クソっ、男は足を動かそうとするが、まったく動かない。
ケイは、指を上に向けた。なんだ、と男は上を向いた。そこには巨大な氷柱があった。その尖った先が、男に落ちてきた。剣で防ごうとしても巨大な氷柱だ。剣は折れ、男はその氷柱に貫かれた。
「全員でかかるんだ」
姿が見えたから戦える。護衛の男たちは集団でケイに迫る。しかし、ケイは余裕だ。その男たちの足下から火が噴き出した。その火は、直径が10メートルにもなる火球となった。その火球の中で男たちは焼かれた。
「ファイアーボールって、こう使うんだっけ」
ケイは、そうつぶやく。
「バカな。ファイアーボールじゃないぞ、その威力は。なんていう魔力だ」
集まってきた護衛は、声が震えている。
「こんなやつに勝てない。逃げよう」
そう言って、散り散りと逃げ出す。
「逃がさない」
ケイは姿を消して斬り伏せ、姿を現して火や氷で、護衛の傭兵を倒していく。
森の中に隠れている者もいるが、ケイの光魔法の前では、カンタンに見つかり、そして倒された。
そして気がつくと、そこに立っていたのはケイだけだった。ハアハアと息が切れている。ケイはゆっくりとまわりをみわたし、深呼吸をした。
「まわりには……、もう誰もいないな」
ケイは光魔法で、周囲を確認していく。後は屋敷の中だけだ。
ゆっくりと歩いて屋敷に近づく。そして入り口で再び姿を消した。
屋敷の中では、何人かの男が隠れていた。その男たちの背後に、ケイは姿を消したまま近づき、そして一人一人斬り伏せていく。
「これで、全員だな」
その光景を見ていたメイドや使用人が部屋の隅で震えていた。
「アーモンは?」
ケイが聞くと、メイドの1人が床を指さした。そこに地下室への入り口があるようだ。
「君たちには何もしない。安心してくれ。そしてこの屋敷からは離れた方がいい。すぐにでも」
そう言われて、使用人、メイドは外へ走って飛び出して行った。
それからケイは、ゆっくりと床をなぞっていく。絨毯をはぐると、地下室への扉があった。それほど重くはない。それをあけると階段があった。その奥は真っ暗だった。
ケイが呪文を唱えると、ボッという音とともに小さな火の玉が宙に浮かぶ。その灯りをたよりに、慎重に、ゆっくりと階段を降りていった。




