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救出へ

 ケイは、暇を持て余していた。

 することといったらせいぜい魔法の練習だ。

 そんなとき、ギーマがやってきた。


「街に龍が出たのを知ってるか?」

 来て早々、そう聞いてきた。ギーマは見たと言う。

「僕も見ました。そのとき街にいたんです。ものすごく大きかったですね」

「本当に大きかった……。でもなんで現れたのだろう?」

 その一言に、ケイはギクッとしたが、知らないふりをするしかない。

「魔脈が乱れていますね。そのせいじゃないんですかね」

「そうかもな。ここのところよくないことばかりだ」

「蒼天の龍が現れたのは、悪い予兆ではないですよ。きっと……」

「蒼天の龍?そういうのか?」

「えっ、街で誰か言ってましたよ」

 ケイは必死でごまかす。


「まあ、いいか。それで今日来たのは……」

 ギーマは、少し改まって話し始める。

「スンナ村のことだ」

「スンナ村って……、ギーマさん……、なぜ?」

「ああ、俺も〈蒼天の龍騎士団〉なんだ。今はメッセンジャー。ケイに伝言を持ってきた」

「そうなんですか。それじゃあ作戦が……」

「決定した」

(ようやく……)

「それで、どうすればいいんですか」

 ケイの声が弾む。

「スンナ村の近くにナライという小さな宿場がある。そこにある宿に来週まで来てほしいということだ。ケイ一人で」

「僕一人ですか?」

「ああ、作戦だから必要な人員だけにするのが基本だ。関係ない者がいると失敗の確率が高くなる」

「関係ないといっても……」

「気持ちはわかるが、彼等にできることはない。ただ危険が増えるだけだ」

(確かにそうだ。ナンナたちも心配だろうけど、そうするのがベストだ)

 ギーマからそう言われて、ケイも納得した。

「わかりました。すぐに準備して向かいます」

「ああ、頼む。みんなケイを頼りにしているからな」


 ケイは、すぐにスンナ村出身の人たちに作戦が開始されることを伝えた。誰もが喜んでいる。

「ただ、行くのは僕一人です」

 その一言で、ざわめきが起きた。当然、一緒に行きたいはずだ。

「ここは僕たちに任せてください。危険もあります」

 ギーマから言われたことを伝えて、待ってもらうことにした。


「気をつけてね」

 ナンナが気にかけて言う。

「大丈夫。安心して待っていて」

 ケイは、そう言ってナライに向かった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ナライは、2つの大きな街道が交差するところにある。山奥だが、交通の要所と言うことで、いくつもの宿屋があった。ここからスンナ村まで街道から外れた山道を30キロほど、1日の距離だ。


 ケイは、指定された宿に着いた。古い、小さな宿だった。

 女将に通された部屋で待っていたのは、ボースたちだった。知った顔があるのはうれしいし、ほっとする。

「お久しぶりです」

「待ってたぞ」

「三人だけですか?」

「他のメンバーは、分かれて別の宿にいる。同じ宿に集まると目立つからな」


 それから、ボースは簡単に作戦を説明した。

 ケイと別れてから、騎士団のメンバーは、ずっとスンナ村を監視していた。

 週に一度、商会の馬車が来るという。必要な物資を届け、製品の絹を運び出すのだ。

 作戦は、馬車が帰った夜に設定された。脱出しても、次の馬車までの1週間は気づかれない。

「商会の監視員は、5人。夜になったら、まず暗殺部隊が全員を殺す」

「殺すのですか?」

「ああ、そのほうが確実だからなのだが、こいつらもどうしよもないクズだからな」

「クズ?」

「ああ、村人に、まあ……、いろいろとしてるんだ。情けをかける必要はない」

 ケイは施設での奴隷時代を思い出して、納得した。

「その間に、解呪師と一緒に、奴隷の首輪をはずしてくれ。できるよな」

「大丈夫です。その後、村人はどこへ行くんですか?」

「まっとうな商会が保護してくれることになっている。まっとうな貴族の領地で、今まで通り絹を生産することを条件にな。といっても今までとは段違いだ。自由もあるし、働いた分の給料も出る。それが当たり前なんだがな」

「それならよかったです。後からナンナたちも合流できるんですね」

「もちろんだ」

 みんな一緒に暮らせる日がくる。それを聞いて、ケイも俄然やる気が出てきた。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 作戦決行日。スンナ村の近くの茂みに隠れ場所をつくった。

 ボースたち、4人の解呪師。そして暗殺部隊が5人だ。

「もうすぐ帰りの輸送部隊が来る。やつらが行ったら決行だ」


 しばらくすると、ガタゴトと馬車がやってきた。アーモン商会の馬車だ。スンナ村からの製品を運び出すのだ。

 予定通りの時間。ケイたちは、茂みの中で馬車が通り過ぎるのを待った。

「行ったな」

「行きましたね」

「よし、スンナ村へ行こう」


 それから、スンナ村を見下ろせる丘の上で夜を待つ。

 日が暮れ、家々に燈が灯る。真ん中が、商会の施設だ。

 顔の周りを虫が飛び交う。今日は少し暑い。汗がにじむ。

 家々の燈が、一つ一つと消えていく。そろそろだ。


 すべての燈が消えた。しかし、まだ動けない。商会の監視員が確実に眠るのを待つ。

 そのためのケイだった。光魔法を発動して、丘の上から施設の内部を見ていく。

「5人ですね。全員寝ています」

「よし、GOだ」


 暗殺部隊が動いた。小走りだが、ほとんど音はしない。商会の建物にとりついて、音も無くドアを開けて、滑り込むように中に入っていった。


「それじゃあ、我々も行こう」

 ボースが声をかけ、ケイと解呪師が家々を回っていく。

 そっと家に忍び込む。どこから漏れるか分からないから村人には事前に伝えてはいない。一瞬驚くが、大きな声を上げることはない。夜に、商会の連中が忍び込むのはよくあったからだ。

「しずかに。助けに来ました」

 家で寝ている村人を驚かさないように、細心の注意を払い、そして、首輪を解除していった。


 奴隷の首輪を解除するための魔法の呪文は、すべて唱えるのに5分くらいかかる。その間、一言でも間違えると、やり直しだ。呪文の詠唱が終わると解呪の魔法が発動する。そのタイミングで、首輪に触れると解除されるのだ。だから時間がかかる。

 もう1つの方法は、魔方陣を使う方法だ。魔方陣を書いて、魔方陣を発動する呪文を唱える。これだと一言くらいの呪文ですむが、普通ならば魔方陣を書くのに時間がかかる。

 しかし、ケイは光魔法で、この魔方陣を保存していた。そのコピーを使うから、書く手間もかからない。魔方陣を首輪近くに映し出し、発動の呪文を唱える。ほんの数秒だ。


「すごいな」

 ケイの解除を見ていた解呪師が、思わずつぶやいた。

 とはいえ、全部で100人近くいる。ケイと解呪師は、急いで家々を回る。

 途中で、暗殺部隊と合流する。手で丸をつくる。成功したのだ。


 次は村長の家だった。

 無事に解呪も終わり、ボースが、作戦について説明した。

「明日に、荷物をまとめてここを出ます」

「商会の連中は?」

「5人全員始末しました。だから安心してください」

「5人?今日、もう1人来たはずだ。見習いの若者が……」

「何?いたか?」

 ボースは振り返って暗殺部隊に確認する。

「いや、寝ていたのは5人だけだった。だから始末したのも5人だ」

「調べます」

 ケイは、光魔法を発動する。

「暗くて、よく見えません……。あっ、1時間ほど前に若い男が建物から出ています。トイレに出て、それから我々に気づいて……、森に入っていきました。そこからは暗くて見えません」

 ケイの光魔法では、過去の光の粒子を集めることで、数時間前までの映像も見ることができた。

「無事に森を抜けて、追っ手が来るのは……、明後日か。それまでできるだけ遠くに離れたいな。解呪を急がせろ。今夜中に出るぞ」

 ボースは、即断する。


 暗殺部隊は、森に入って若者を探す。

 ケイたち解呪担当は、急いで家々をまわった。終わったのは半分ほどだ。もし、逃げ出した若者が、奴隷の首輪を爆発させたら、そう考えると気が気ではなかった。

(急がなければ……)

 焦れば焦るほど、呪文を間違えたりする。

(落ち着け、落ち着くんだ)

 そう自分に言い聞かせながら、一つ一つ、首輪を解呪していった。


 なんとか、1人の犠牲者も出さずに解呪はできた。

 森から暗殺部隊が戻ってきたが、首を横に振るだけだ。逃げられたようだ。

「たぶん……、新入りだから首輪を爆発させる呪文を知らなかったかもしれないな」

 暗殺部隊の1人が、そうつぶやいた。


 ボースは、村長や大人たちを集めた。

「村長。絹をつくるのに必要最小限のものをまとめてください。それがみなさんを引き受ける条件になってます」

「そこまでは何日かかりますか?」

「普通に歩いて10日ほどだ」

「それならば、繭になったばかりのをもっていけばいいですね。繭玉になって羽化するまで約2週間ですから、なったばかりのをもっていけば、そこで卵をとることができます」

 そう言って、村長は準備にかかった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 気がつくと夜が明けた。蚕の繭玉と桑の苗木をリュックやカバンに入れて出発する。衣類や生活道具はすべて置いていくことにした。とにかく、追っ手が来る前に少しでも遠くに行かなければならない。遠くへ行けば行くほど、分かれ道も多くなる。つまり、どこに向かっているのかわからなくなるのだ。

 とはいえ、100人以上がぞろぞろと歩くのは目立つ。大きな街道を避け、山道を歩いて行く。すでに下調べをして、どこで休憩をとるかなども想定していた。ただ、この状況では、ゆっくりと休憩をとることもできない。とにかく急ぐのだ。


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