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蒼天の龍

 翌朝、全員で隠れ家に向かうが、ケイだけは別行動をとることにした。

「無茶はしないで」

 そう言うナンナの頭をポンと軽く叩き、

「大丈夫だよ」

 微笑みながら答える。


 ケイはウィントン伯爵領の街に一人で向かった。目指すは、ミラが誘拐された場所だ。

(何か手がかりがあれば……)

 リニ村で見た過去の光。ミラが誘拐されたときの光が残っていればとケイは考えた。

 おそらく難しいだろう、それはわかっている。それでもじっとしてはいられない。


 街には見慣れない者が多くいる。身体の大きな男たち。以前の伯爵量にはいなかったような男たちだ。領主代理のメンゲレ子爵の手の者なのだろう。

 ケイは、話に聞いたミラが誘拐されたという場所に来た。光魔法を発動するが、何も感じない。古い光の粒子は、数時間程度前のもの。ミラの手がかりのかけらもない。

(やはり無理か……)

 ケイがそう考えたとき、何か視線を感じた。気づかれないように光魔法で背後の探る。男が2人、ケイを見ている。以前住んでいたといっても、今はよそ者だ。人口の少ないこの領では目立つ。

 ケイは、すぐにそこを離れるが、2人の男たちは、ケイの後をついてくる。

(しくじったな……)


 ケイは、2人を撒くため、もう1つの目的地へと向かった。もちろん光魔法での監視は怠らない。

 街を抜け、1本の山道に入った。ここで後をつけるのは目立ちすぎる。しかし男たちは、それでも着いてきた。誰もいなくなったところでケイを捕まえるのか。


 ケイは、横道に入り光魔法で姿を消し、さらに奥の藪の中に隠れて、じっとしていた。

 男たちは慌てて走ってきて、ケイの後を追って横道に入った。しかしケイはいない。そこで見失ったことに気づいた。

(助かった……)

 ケイは、そう考えて目的地へと向かった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ケイのもう1つの目的地は、古い神殿跡だった。ウィントン伯爵の言った言葉が、気になっていた。

 メンゲレ子爵と調査隊のために切り開いた山道は、まだ残っていた。鹿やイノシシが通って獣道となっていたのだろう。それを2時間ほど歩いて、神殿跡に到着した。

 神殿跡は、また雑草に覆われていたが、それをかき分けて中に入った。中は薄暗いから、光魔法で内部を照らす。ボウッと浮かぶ内部は、壁の石、床石が剥がされて荒らされていた。あの調査の後、〈賢者の石〉を探すのに掘り起こしたのだった。


 ケイが気になっていたのは、伯爵が言った禁止されていた歌だった。歌うと何が起きるのか?もしかしたら新たな魔法かもしれない。ケイはそう考えた。あのときは、まわりに人がいた。しかし、「禁止」というから災いかもしれない。その心配もあった。ケイは、伯爵のあの表情から、それはないと感じていた。秘密の何かなのだと。

 ケイは、深呼吸をして、心を落ち着かせ、伯爵から教わった歌の一節を歌い始めた。


 すると神殿跡の床が光り始めた。淡く青白い光だ。その光が、一つ一つの粒となって浮かぶ。その光の粒が床から湧き出すように出てくる。ケイが触れても何も感じない。熱くもなければ冷たくもない。圧迫されることもない。ケイのまわりを、ただ漂っている。それが何千何万となり、神殿跡の外へとゆっくりと流れ出ていった。


「なんなんだこれは!」

 神殿跡の外から大きな声がした。追ってきた2人だ。撒いたはずだったが、彼は尾行のプロだった。見えなくても、ケイが雑木をかき分けて通った跡が残っている。それをたどってきたのだった。


 その声で、ケイが外を見ると、光の粒子は空中に集まって形を作っていく。

「龍だ……」

 思わず声が出た。

 それは龍だった。太い身体から伸びた四肢に長い尾。長い首の上に見えるのは、鋭い牙が垣間見える真っ赤な口。背にある翼がゆったりと羽ばたく。頭から尾の先までは100m以上はある巨大な龍だ。


 その龍がゆっくりと地面に降りた。

 グシャ。2人の追っ手は踏み潰されてしまった。おそらく生きてはいないだろう。


(まさか……、こうなるとは)

 ケイは歌を試したことを後悔した。だから禁止されていたのだ。伯爵の表情から災いではないと考えたが甘かった。


 龍は、神殿跡の入り口に顔を向けた。そしてゆっくりと首を伸ばしてくる。

(やっ、やられる……姿だけでも隠さなければ)

 急いで光魔法を展開する。

 しかし、龍は外からケイを見つめている。姿は見えないはずなのに、まるで見えているかのように見つめているのだ。

 龍は「ふむ」と言ったように感じた。


「お前なのだな?」

 龍が口を開いた。どうやらケイが見えるようだ。

「言葉が……わかるのですか?」

「もちろんだ。」

 ケイは、助かったと全身から力が抜けた。

「あの娘との約束があるからな。力が必要ならば我を呼べ」

「力とは何ですか?」

 ケイが、そう聞くと龍はグイと顔をケイに近づけた。

 そのとき、ケイの瞳の中に、映像が流れた。


 ゆっくりと宙に浮かぶ龍。その龍が口を開けると光の束が放出された。その光は山の中腹に当たる。一瞬、周りが真っ白に輝き、山の中腹に赤い点が見える。その赤い点がグングン大きくなり、大火球となって大爆発する。爆風が、周りじゅうの木をなぎ倒していく。爆発の中心では、強力な上昇気流がある形の雲を生み出した。いわゆるキノコ雲だ。そしてもとあった山は跡形もなく消し飛んでいた。

(まるで核兵器だ……)

 こんな力を使ってはいけない。ケイは、そう直感した。

「1000年前だ」

「こんな力は必要ありません」

「なぜだ。力が必要なのだろう」

「破壊からは何も生み出しません」

「そうか……、やはりおもしろいやつだな。必要になったら我を呼べ。あの歌を歌えば、どこでもいつでも現れよう。我は、蒼天の龍。人は我を蒼天の龍と呼ぶ」

 そう言い残して、ふわりと宙に浮かび、そのまま街の方へ飛んでいった。


(蒼天の龍……。この名は……。でも、街の方へ行ったが大丈夫なのか)

 ケイの心配は、現実となっていた。

 街へ戻ると、ほとんどの人が建物を出て、空を見上げて騒いでいる。話を聞くと、龍を見たという。ものすごく大きな龍を。

 人々の話だと、龍は街の上空を横切り、たくさんの建物をゆらして、そのまま王都の方向へ向かって飛んでいったという。

「火のように真っ赤な口だった」

「大鎌のような爪が見えた」

 そのときの恐怖を興奮しながら口々に話す。

 しかし、何も被害はなかった。ただ街の上をゆっくりと飛んでいっただけだ。


 しばらくするとメンゲレ子爵の兵がやってきた。

「どこへ行った」

 街の人たちに龍の行方を聞いている。

 そうこうするうちにメンゲレ子爵もやってきて、街の人たちから龍の話を聞いている。相変わらず横柄な態度だ。

 

「龍の捕獲に行くぞ」

 メンゲレ子爵は兵に声をかけた。そのまま龍を追いかけて、王都方面へ向かうらしい。

(まあ、無理だろうな)

 兵の数は100人程、それで捕まる龍ではない。


「何もしなかったね」

 龍が去った後、人々はしみじみ言う。

 メンゲレ子爵の関心は、完全に龍になった。もうこの領地に興味はないはずだ。

 そうなることを蒼天の龍が意図したかはわからない。しかし、結果としてこの地に利することになった。

 だから、やはり龍は守り神だったのだと、領地の人々に強烈な印象を残すことになった。


 ケイは、隠れ家に戻り、龍のことをみなに話した。もちろん自分が召喚したことは言えない。街の人たちと同じように傍観者としての話だった。それを身振り手振りをまじえて、話をした。そのケイの話を誰もが興奮気味に聞いている。ただ、イザックだけは違った。


 それからしばらく隠れ家で何もしないで過ごした。

 スンナ村のことも思い出すが、何もできることはない。もどかしさだけが募る。


 そんな毎日も、奴隷時代を考えると天国のようだった。温かい食事、やわらかなベッド。ずっとこのままでもいいのではないか、そう考えてしまいそうにもなる。

 そんな日々が1月ほど続いて、ケイの元にメッセージが届けられた。あの〈蒼天の龍騎士団〉からだった。それも隠れ家にいるケイに。

 届けたのは、意外な人物だった。



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