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スンナ村

 村に近づくにつれて、ナンナの歩みは遅くなる。最悪の事態を考えているからだ。スンナ村に帰りたい、でも両親が殺されているかもしれない、この二つの気持ちが揺れ動いていた。


 スンナ村まで5キロくらいの所まで来た。

「こんな道……、あったかな」

 スンナ村出身で最年長のジーンが言う。スンナ村は山奥の村で、たどりつくには細いけもの道のような道しかなかったはずだ。それがきれいな一本道がある。馬車でも通れそうだ。

「もしかしたら……、まだ人がいるのかも。人がいるから道が整備されたんだ」

 ボースの一言に、一瞬期待が高まる。

 しかし、ここまで整備する必要はあるのだろうか。誰もが違和感を感じ、一抹の不安が残る。


「ここで待っていて、先に僕が見てくる」

 ケイはそう言って先に進んでいく。商会に占拠されていることを想定して、見つからないように、生い茂った木をかき分けて進む。


(ここからなら……)

 ケイは、光魔法を発動した。ずっと先のスンナ村の光を集める。

(ん……?人がいる……、畑で働いている!)

 スンナ村は無事だったのだ。それから村のあちこちを確認してから、みんなのところへ急いで戻った。


「人はいました。畑で働いてもいました。でも……」

「でも、なんだ?」

 ボースがせっつく。

「なんと言えばいいのかわからないんですが……、一緒に見てもらえますか」

 ケイにそう言われて、もう一度光魔法が届くところまで全員で移動した。


「見てください」

 ケイは光魔法を発動して、集めたスンナ村の光を、空間にホログラムのように映し出した。

「お父さんだ……」

 それを見た一人がつぶやいた。

「無事だった」

 涙目になっている。

「他のところは」

「すみません。もう少し待ってください。ここのところを見てください」

 ケイは、映し出された村人を指さした。

「奴隷の……、首輪だな」

 ボースが言う。

「やはり、そうですね。最初に畑で働いていた村人を見つけたときに、その目や仕草が施設の農場で働かされていた人たちと同じだと感じたんです。奴隷のように無理矢理働かされているのではないかと」

「それじゃあ」

 ナンナは、呆然とした表情でケイを見る。

「おそらく商会に占拠されているのだろう」

「どうする?」

 マロースがボースに聞く。

「3人で相談させてくれ」

 そう言って、マロース、ボース、ファーガスの3人は、その場を離れた。

 その間、ケイは村のあちこちを映像として映し出して、みんなに見せた。

「うちがある。変わってない」

「母さんたちだ」

 目を輝かせながら、その映像を見ていく。みんな目が潤んでいる。最悪の事態は回避された。ほっとした気持ちもあるのだろう。でも、このまま村に行くわけにはいかない。みんながそれを感じていた。


 ボースたちが戻ってきた。

「スンナ村は何か特産品があるのか?」

「絹です。カイコを飼っていて繭がとれますので、それから糸を紡いで売っていました」

「それだな。確か商会の売上の1割は絹だと聞いた。それに絹は、貴族がほしがるから、貴族とのつながりを強めるのにも重要な商品になっているはずだ」

「貴族?」

「ああ、貴族はドレスとか、とにかく絹をほしがる。それを用意できる商会は少ないからな。だから絹を扱える商会は、貴族にでかい顔ができるんだ」

「それじゃあ……」

「ああ、商会はこの村を手放すことはないだろうな」

「どうします?」

 ケイが聞いた。

「いったん、ここを離れたほうがいい。道も整備されているのは、商会の人間がよく来るということだろう。強行したら奴隷の首輪で村人が殺されるかもしれない。それに見つかったら、君たちも連れ戻されてしまうからな」

「ここまで来て……」

 スンナ村の出身者はがっくりと肩を落とした。

「いや、望みはまだある。我々が確実に助け出すから心配するな」

 ボースの力強い言葉に、顔を上げるが、まだ不安が入り交じったようだ。


「奴隷の首輪も、解呪師がいないとどうしようもないな」

「首輪の解呪はできるようになりましたよ」

 ケイがそう言う。

「解呪の魔法って、かなり高度で複雑だと聞いたが」

「記憶力はいいので」

 ケイは、解呪に必要な呪文と魔方陣をそのまま光魔法で保存していたのだった。

「それなら、早くできるかもしれない。本部と連絡をとって作戦を立案してくるから、少し時間をくれ。戦える者も、もっと必要になるしな」


 それからケイとボースたちは、もう一度スンナ村の状況を細かく調査した。

「警備の兵士はいないな……。それに、思ったより人が多いな」

 どうやら元の村人以外の奴隷もいるようで、全体で100人を超えている。管理をしているのは5人。武器は持っていない。奴隷の首輪があるからだろう。ボースの話では、奴隷の首輪は、一定の距離を離れると発動するようにもできるという。つまり逃げ出したら自動的にボンとなる。


 調べているときに、1台の馬車が通っていった。みんなは道から外れた茂みの中にいるのだが、一瞬緊張が走る。

 馬車は、荷物運搬用だ。絹を運び出すためなのか、それとも必要な物資を届けに来たのか、わからないが定期的に他との交流はあるようだった。そのための道の整備なのだ。


 一通り、村のことを調べたあと、ボースがケイに言う。

「彼等をウィントン伯爵領で匿ってもらえないかな」

「たぶん大丈夫だと思います。伯爵様がどうなったかは不明ですが、領民で親しい人もいますから」

「それなら頼む。詳しいことが決まったら連絡する」

「もし、伯爵領がだめだったら?」

「近くの大きな街の宿に行ってくれ。そういう街には必ず我々の仲間がいるから、連絡がとれるんだ」

「わかりました。連絡を待ってます」


 それから、ボースたちと別れ、ケイたちは伯爵領を目指した。ここからあと3日の距離だ。みんな、名残惜しそうに歩き始めた。途中、何度も振り返りながら。



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