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故郷へ

 奴隷狩りが行われた村は、どこも山奥の小さな村だった。街とはほとんど交流がなく、それぞれ人口は数十人という村。狙いやすく、そしてばれにくい。

 だからケイたちの道のりは、山の中のけもの道のようなところばかりだった。

 それでも、みんなの足取りは軽かった。帰れるという希望に満ちていた。


 案内についてくれたのは、〈蒼天の龍騎士団〉のボース、マロース、ファーガスと言った。3人とも騎士団の小隊長クラス。元傭兵で、歴戦の戦士でもあった。

 ケイは、歩きながら〈蒼天の龍騎士団〉について教わった。

「秘密もあるけどな……」

 そう前置きして、ボースが話し始めた。

「騎士団は、”蒼天の龍騎士”と呼ばれる5人の騎士が立ち上げたんだ。虐げられている国民を助けたいと。それに賛同した者たちの集まりなんだ。ただし、5人の、”蒼天の龍騎士”は、我々も会ったことがないし、本名、素性はすべてが謎なんだ。有力な貴族とも言われている」


 ボースの話によると、5人の”蒼天の龍騎士”の下に12人の幹部がいて、彼等が実際に活動しているのだという。


「そして、ミッションがあると、我々に声がかかるんだ」

 ボースのような騎士団の団員は、普段は別の仕事を持っていて、市井に紛れて生活している。3人とも荷物の運送の仕事をしているのだった。運送の仕事は、盗賊などに襲われることが多いから、元傭兵が就いているのはよくあることだった。そしてこの仕事なら、作戦のためにいなくなっても、誰にも気づかれないという利点もあった。


 ボースたちは、今までもいくつものミッションをこなしていた。

 今回のような奴隷の解放もあれば、悪徳貴族の財産を根こそぎ奪ったこともあるという。

「ただ、具体的なことは話せないんだ」

 興味津々のケイに、申し訳なさそうに話した。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 施設を脱出して3日目。100キロ近くを歩いた。もうすぐ最初の目的地であるリニ村だ。

「追っ手はこないんですか?」

 ケイは聞いた。

「その可能性は低い。ここに来たのは1000人のうちの50人。追っ手を出すとしたら多い方だろう」

「それじゃあ、他の人たちは……」

「それも大丈夫だ。その対策はしてある」

 ケイは、それを聞いて安心した。とはいえ、いつかはこの地に追っ手が来る可能性もあるという。


「あの山の向こうだ」

 ボースが指さした。

「ここで待っていてくれ。もしかしたら、村自体が商会に占拠されている可能性もあるからな。我々で、先に見に行ってくる」

 子どもたちだけを奴隷として連れていき、大人たちは村で働かせて施設の食料生産を担う、そういうこともあるのだと。

「それなら僕が……。僕なら、ここから見ることができます」

「ここからか?まだかなりあるぞ」

「やってみます」


 ケイは、リニ村のほうに向いて立った。光魔法を発動する。

(見えた……。ギリギリの距離だな)

 しばらく、村の中を確認していく。しかし、建物、家は朽ち果てていて、人の気配はない。

「誰もいません。家もボロボロです。人が住んでいる感じはしません」

「そうか……、そいうことなら……」

 3人の顔が曇った。

「最悪の場合を想定した方がいいな」

「最悪って、どんなことですか?」

 リニ村出身という男が聞いた。

「言いにくいが、村人全員が殺されたということだ」

「まさか……」

「だから最悪の場合だ。逃げ出したということもある」

「とにかく行ってみましょう。商会がいないのなら」

「そうだ。行ってみよう」

 3人を先頭に、村へと急ぐ。しかし、足取りは軽くはなくなった。早足だが、何か重たいものを感じる。


 それでも山を抜け、もう村の入り口まで来た。

「確か……、このあたりは畑があったはずだ」

 一人の男が、そうつぶやいたが、一面雑草だらけ。ずっとほっとかれたままだ。

「やはり、人の気配はないな」


「お母さーん、お父さーん」

 家族の名を呼びながら、自分の家があったところに駆けていく。

 この村が奴隷狩りにあったのは約10年前。この村からは26人が連れていかれた。過酷な環境での生活で、生き残ってここに戻れたのは22人だった。

 一番若いのは当時7歳。今は17歳になっている。男で最年長は当時14歳。そして女性は、未婚であれば20代でも連れていかれていた。だから村での暮らした記憶もしっかりと残っていた。


 それぞれが家に入り、誰かいないか見ていくが、やはり誰もいない。

 バタンと音がして、みんながそこに注目したが、子鹿が逃げていっただけだ。


「これを見てくれ」

 ファーガスが、道ばたに落ちていた黒い塊を拾って、ボースとマロースに見せた。

「やはり、最悪の事態だったな」

 ケイは、ファーガスの手にある黒い塊を見た。それは泥まみれの頭蓋骨だった。ケイは、実物を見たことはなかったからそれが人間の骨だという実感はない。


 その瞬間だった。

 ケイの眼に、当時の光景が映りだした。スライドショーのように、次々と人が殺されていく光景が浮かんでは消えていく。

 村のあちこちで、人が逃げ回り、それを屈強な男たちが追いかける。男たちは、手には剣をもっている。そして笑いながら人を追いかけ、笑いながら人を斬っている。

 おぞましい……、そう表現するしか言葉が見つからない。

 斬られた母親らしき女性の肩から血が噴き出すが、それでも身体を丸めて懸命に抱きかかえた子どもを守る。

 父親は、両手を広げて子どもたちの前に立ちはだかるが、一刀のもとに斬り捨てられた。

 音は聞こえない。それでも悲鳴が飛び交っているように思えた。

 ケイは、思わず手を伸ばすが、それはすべて過去の出来事。ケイにできることはない。


 ケイは、光魔法は発動していない。通常ならば光の粒子は物にあたった後は拡散していく。しかし、光の粒子の一部が拡散しないで頭蓋骨に染みついていた。殺された人たちの想い、村の記憶とともに……。その粒子とケイの波長が同調したのだ。

 その凄惨な光景に吐きそうにもなる。ケイの心の奥底に沸々と何かが湧き上がってくるのを感じた。どす黒い、何かが。


(なんだ……、これは……)

 ケイの全身が光り始めた。青白い、冷たい光だ。頭の中が黒一色になったようになり、何も考えられない。心の中を、全身を、何かモヤモヤしたものに支配されてしまったように感じる。


「下がれ!魔法の暴走だ」

 ボースが周りに叫ぶ。ケイの凄まじい魔法を見ているボースは、危険を回避しなければと考えた。

 ケイの光は、少しずつ輝きを強める。冷たい光だ。近くにあった古い家がガタガタと音を出す。ケイの周りの空気が震えている。

 周りにいた者たちは、ジリジリと後ずさる。


 そのケイを、飛び出してきたナンナが抱きしめた。細い腕をまわして、ケイの頭を胸に押しつけるように抱えた。

 痩せた身体、それでも柔らかさはあった。その柔らかさ、温かさをケイは感じていた。

「危ない!下がるんだ」

 ボースは叫ぶが、ナンナは聞かない。しっかりと細い腕でケイの頭を抱きしめる。


 ナンナに抱きしめられて、ケイから発していた光は徐々に赤みを帯びてきた。冷たい青ではない。わずかな温かさがある。そして光は徐々に弱くなり、魔法の暴走はおさまった。


「よかった……」

 ボースはつぶやいた。

 抱き合ったままの二人のまわりにみんなが集まった。

「無茶をするなよ」

 ボースは、ナンナに声をかけた。

「だって……」

 とっさの行動だった。気持ちが先に動いた。ボースもそれはわかっている。ナンナの頭をポンとたたいた。

「でも助かったよ」

 そう言って笑った。

 

「いったい何があったんだ?」

 マロースがケイに聞く。

「僕にもわかりません。何かモヤモヤしたものが……」

 そう言いかけて、ケイは気づいた。

(これは……村人の無念だ。そして……怒りだ)


 ケイは、これまで心の底から怒ったということがなかった。もちろん怒ったことはある。それでも身体が震えるような、そんな怒りはなかった。

 光の粒子が見せた無残な光景。自分のことなら我慢できたかもしれない。でも子どもを守りながら殺されていく人たち。それがケイを本当の怒りに駆り立てたのだ。


 村で生まれ育った人たちがまわりでケイを見ているから、悲惨な光景が見えたことは話すわけにはいかない。

「弔ってあげましょう」

 自然と、その言葉が出た。

「そうだな」

 ボースも同意して、全員で遺骨を探した。殺されて放置されたままだったのだろう。野犬か狼か、牙の跡がついた骨もあった。

 それから村の外れで眺めの良いところに大きな穴を掘った。みんな一緒がいいだろう、そこに集めた遺骨を丁寧に埋めた。

「これを……」

 ナンナが花を集めてきた。それを供えて、みんなで手を合わせた。


 夜は、それぞれがかつて住んでいた家に別れて休んだ。朽ち果てていても、やはり我が家なのだろう。ケイやボースたちなど他の村の出身者も、それぞれ別れて休むことにした。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌朝、村の広場だったところに集まった。

 一晩たったせいか、落ち着いた顔をしていているようだ。

「それでどうするんだ?」

 ボースが、リニ村出身の者たちに聞いた。

「さっき、みんなで話したのですが、村を出て街へ行くことにしました。もしかしたら逃げられた人がいるかもしれません。それを探してみます。それに……、ここには追っ手もくるかもしれません」

 ずっと帰ることを願っていた村なのに、そこを出て行くという。残ると、いつまでも悲しみが続くだろう。それを振り払うためにも、気持ちを切り替えて村を出る、そう決心したようにも見える。

「それがいいかもな。大変だけどがんばってな」

「はい。私たちは、もう少しだけ村を懐かしんでから出ます。みなさんもお元気で」


 それから、ケイたちはリニ村を出た。

 次は、ここから2日ほど、50キロほど離れたルイス村だ。出身者は16人がいる。

 みなの足取りは重い。帰れる喜びもあるのだが、リニ村の惨状を思うと、やはり足は重くなる。


 そして、ルイス村もリニ村と同じだった。

 ルイス村に近づいたとき、またケイが光魔法を発動して様子を探った。人の気配はなく、家は朽ち果てていて誰もいない。

 村へ行って見えたのはリニ村と同じ光景だった。

 ケイの心の奥には、アーモン商会への怒りが溢れ出しそうになる。それでもケイはなんとか気持ちを落ち着かせ、魔法の暴走を押さえることができた。

 ルイス村でも、同じように遺骨を集めて弔い、そして翌日に村を離れた。


 次は、ナンナが生まれたスンナ村だ。3日ほどの距離。

 ナンナたちは、リニ村、ルイス村を見て、もう絶望の表情をしている。それでも行かなければならない。ナンナは顔を上げ、歩みを始めた。


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