5-3 ミラノ五輪の定理 ~準々決勝 ドロテア(ドイツ) 戦~
<準々決勝です! 明智選手が順調に勝ち進んでいます! もはや負けなし! 対するはそこそこ激戦区ドイツのドロテア・シュレディンガー! 18歳の女性ですが、偉人・エルヴィン・シュレディンガーの親戚の一族で、あのシュレディンガー姉妹のレベッカの妹で物理学に通じているとの噂があります! 先ほど2回戦ではスウェーデン代表のキレル・トンベリ選手を破っています。巧みな物理法則を利用した技で、トンベリ選手が激高し、突然包丁を持ち出しての失格負けとなりました……今回も物理と心理での戦い、期待できますね――!!>
「……よろしく……わたしは「”赤髭王の怨霊”ドロテア」……闇のゲームにようこそ……いや、”ゲームの闇”、とでも言うべきかしら」
ドロテアはツインテールに髪飾り、結んだ赤髪に青い眼、そしてぱっちりとしたドングリのような瞳に、朱麻里ほどではないが筋のしっかりした鼻。
いわゆるゴシックロリータファッションの王道に身を包んでいるが、胸はかなり大きいのが目立つ。
身長が160cmあるか無いかなので、いわゆるトランジスタグラマーといったところだろう。
「そう……ヒデトは「”天王山のコペルニクス”」、ヒデト・アケチ。よろしく……ジャーマンガール」
「……?!!」
ドロテアがジャンケンを開始する前に狼狽している。
「くっ……なかなかのやり手じゃない……私のアキレウスが亀に追いつくまでの間に、終わらせてあげる……!」
(くうーっ! 二つ名が強すぎるのよ……どうしてわたしがこんな東洋人に怯んでるの……?!)
ジャンケン等は普通に明智が勝ち、後攻を選ぶ。
「山」は比較的早く完成し、50秒を切ったあたりからゆっくりと箱を開ける。
「全ての思考と法則はヒデトの手の中にある……”永久循環機構”……そして開け! ”宇宙量子重力扉”」
山は通常のものの周辺に一枚の層がそれを覆うだけの、比較的シンプルなものだ。
「なるほど……では、これが第50宇宙の原則に基づくタワーであれば、”宇宙量子崩壊”を迎えるということね……それならば……全てを今一度、やり直しましょう……」
「何をする……ジャーマンガール……?!」
ドロテアは明智が反応するとニヤリと口元を歪める。
「これより、”最終試験”発動! これにて貴方の法則は”マクスウェルの悪魔”によって全てが打ち消される……!」
人差し指を大げさに振り上げると、周囲の環を山の方へとピンと繋げ、一つの塊へと変化させてしまう。
1ターン目 先手 ドロテア(ドイツ):0点
1ターン目 後手 明智ヒデト(アメリカ):0点
<さぁ、まだ点数が1点も入らず、明智選手の手番になりますが、お互い何を言っているのか分かりません! SNSに投稿ができる方は、是非、お二人の台詞の意味を考えてみてください!>
「なっ…… “永久循環機構”が、”永久自傷機構”になってしまった! これは”ヘンペルのカラスからの挑戦状”なのか……?!」
「フフフ……アケチよ……そのまま地獄への闇に飲まれるが良いわ……」
(ヒデトさ……良く分からないんだけど……ガールがご満悦でこれで先手でオーライ? じゃあ、そろそろプレイボールと行こうか……!)
「”アンパッサン……永久輪廻からの脱出”!」
明智から見て、環が山の方に向かっているのはドロテア側で、明智側には敢えて隙を作っていた。
素早く金と歩を取り払う。
1ターン目 後手 明智ヒデト(アメリカ):金歩 3点
2ターン目 先手 ドロテア(ドイツ):0点
「なッ……!」
ドロテアは立ち上がると、明智側へと回り込む。
そしてドロテアはしめたと見るや、明智の席の方から長く伸ばした赤い爪で角と歩2枚をほじくり出す。
この際、ドロテアの豊かな胸が座ったままの明智の顔面を直撃したが、どちらとも全く気にすることはなかった。
(なぁに……こういうの……ヒデトとしては大歓迎ですよ……☆)
2ターン目 先手 ドロテア(ドイツ):角歩2 7点
2ターン目 後手 明智ヒデト(アメリカ):金歩 3点
「我が”サイクリック宇宙論”の中で、いずれはそなたも”レヴィアタン”に食われる羽目になるであろう……!!」
明智は先ほどドロテアが角を取った穴から銀と歩2枚をほじくり出し、まとめて出そうとしたところで歩が斜め外側に落ちてしまった。
2ターン目 後手 明智ヒデト(アメリカ):金歩 3点
3ターン目 先手 ドロテア(ドイツ):角歩2 7点
「ぐっ……ヒデト油断した……油断してない?!」
「その隙は逃さない。全ては”マクスウェルの悪魔”に魂を捧げた我が物に……!」
ドロテアは銀と歩のある方を奪い、しめしめと笑って煽る。
3ターン目 先手 ドロテア(ドイツ):角銀歩3 10点
3ターン目 後手 明智ヒデト(アメリカ):金歩 3点
明智の手番がくる。
明智は端に残った歩に近づくと、突然左手の中指を右手で弾き、デコピンの要領で、歩を飛ばす。
「”ゲイ☆ボルグ”よ! 心臓を貫け……!」
その明智の言葉通り、後ろを向いた状態の歩は、ドロテアの左胸を貫き()、その分厚い左胸に当てた位置エネルギーは深い位置への投射運動からの強力な弾性によって、高い反発係数をもって完璧な角度で右側の山へと突入していった。
ガシャァァ……!!
「なッ……?!」
ドロテアが思わず胸を押さえて顔を赤らめる。
<なんと、明智選手! これが初では無かったと思いますが、相手のドロテア選手の胸を使って歩のミサイルを山へと撃ち込んだ――! これは恥辱! かなりマナーの悪いラフプレイですね。しかし、物理学を極めたコペルニクス男には造作もなかったのか――?!>
3ターン目 後手 明智ヒデト(アメリカ):金歩 3点
4ターン目 先手 ドロテア(ドイツ):角銀歩3 10点
「なんたる侮辱! ”ヴァルプルギスの夜”を味わうがよい!」
ドロテアは一手分のアドヴァンテージを迷わず利用しようと、崩れた山から飛と香、歩を取り出した。
4ターン目 先手 ドロテア(ドイツ):飛角銀香歩4 18点
4ターン目 後手 明智ヒデト(アメリカ):金歩 3点
「15点の差を、その”偽りのゲイ・ボルグ”で埋められるか……?」
「あぁ……ガール、だが既にタイム・ゴーズ・バイ(時既に遅し)だ……”カモン☆キングス”……」
明智は素早く王と玉のある位置にある山を引き抜くと、自分の元に持って行く。
極端に偏った駒の配置。
全ては明智が後手である時点で仕掛けられた罠だったのだ……小さな賭けを除いては。
王、玉、飛、桂2枚、香2枚、歩2枚が明智のものとなった。
4ターン目 後手 明智ヒデト(アメリカ):王玉飛金桂桂香香歩3 49点
5ターン目 先手 ドロテア(ドイツ):飛角銀香歩4 18点
<大技が決まりました――! まるでこうなることを予言していたかの明智選手。これはもはやコペルニクスを超えてノストラダムスのようですね! 残り2点! ドロテア選手の反撃なるかー?!」
「おのれ……もっと力を……”薔薇十字”!!」
ドロテアは頭の髪飾りを外し、立ち上がるといきなり将棋盤に突き刺す。
ガシャァァーン――!
五本の鋭利な針の付いた青い薔薇の髪飾りが将棋盤に完全に食い込み、どす黒い液体を垂れ流して盤面を黒く染めていく。
5ターン目 先手 ドロテア(ドイツ):飛角銀香歩4 18点
5ターン目 後手 明智ヒデト(アメリカ):王玉飛金桂桂香香歩3 49点
「この液体には少量で死に至る毒が含まれている……つまりアケチ、このまま対局を続ければ、貴様の魂は、”ノヴァーリスの扉”の向こうへと逝くであろう……”不死のための死”、貴様にできるか……アケチ?!」
ドロテアが挑戦するかのようにクロックを押し、手番は明智に回る。
<審判……! おっと、これはセーフです……明智選手にこれを当てて直接傷つけてはいないので、まだセーフだそうです……試合を続けてください……!>
「ヒデト思うんだけど……それってさぁ……」
5ターン目 後手 〇明智ヒデト(アメリカ):王玉飛金桂桂香香歩5 51点
6ターン目 先手 ●ドロテア(ドイツ):飛角銀香歩4 18点
歩を2枚取り、勝利した明智が続ける。
「ダークチョコレートのソースなんて、洒落てるじゃん……凄いカカオの香りがしてさ……しかもなかなかデリシャス……これってさ……もうちょっとヒデトとしては早めに使ってほしかった……楽しかったよ……ガール、バイ」
ヒデトが指をぺろぺろと舐め、ダークチョコレートを味わう。
「うううーー!!」
<明智選手の勝利! ドロテア選手は残念ながら涙の敗退! これによって準決勝進出ですね! 今回は初回ながら実に32か国からの参加となっており、将棋崩し人口の増加がこれからも見込まれそうです! 明智選手はアメリカ人として、その牽引力となることが期待されますね!!>
――
「そう……シュマリはまだ戦ってるんだね」
『うんうん……多分このままいくと先生と決勝戦になると思うよ』
SNSで最近の写真を送ってきた女の子――藤井桜も最初に会った時よりはだいぶ髪も伸びて、今では二本のゴムで長く伸びた髪を結んでいる。
どうやら家族でミラノオリンピック観戦中で、国際電話で明智に話してきているらしい。
(ゴムが二本……カトリーヌ……どうしてユーを狙った矢は二発だったのか……)
※ヴァルプルギスの夜※
4月30日か5月1日に中欧や北欧で広く行われる、簡潔にいって無病息災を祈る行事である。かがり火が焚かれることもある。




