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5-2 ミラノ五輪の定理 ~第2戦 イクノ(エチオピア) 戦~


<2回戦が始まりました! 我らがアメリカのヒデト・アケチがエチオピアのイクノ・ドコイク選手と対決です! イクノ選手はエチオピア大会で弟のイクノ・イカナイ選手を破り、1回戦では韓国代表の優勝候補といわれる”上流博打王”にして”梨泰院イテウォンのブルドッグ”と恐れられた、コ・イヌ選手を破っています! なかなかの好敵手と言えますね!!>


 イクノは20歳の185cm以上はある長身で色黒の若い男で、どうして体力競技でなくこっちに来てしまったのかという筋肉質、帽子と、そして肩から掛けてある民族衣装らしき布が腰のあたりまで降りていて、それ以外を一切身に付けていない。下着類もこの位置からは見えない。


「ヒデト気になるんだけど……エチオピアって楽しい? イタリアとどっち良い……あんま良くない?」


「どっちも好き。ドコイクそれなりに楽しい。エチオピアたまにライオンとかチーターとかダチョウとか襲ってくるけど、それなりに平和。イタリアは勝てばタダで行けるって聞いたから来た。コロッセオ行きたい。ドコイクこっちもそれなりに楽しいよ……弟に見せられないのが残念」


(ヒデト思うんだけど……ちょっと楽しそうな国だけどダチョウに襲われるのだけは何となく怖いって……)


「あとさぁ……ヒデト気になってるんだけど……その下って履いてる? 履いてなくない? あとヒデト思うんだけど……寒そう……寒くない?」


「履いてないし、寒くないよ」


「角度によっては見える……見えてない?」


「横からだと見える……でもカメラの位置とか確認したからドコイク大丈夫」



 振り駒の結果、明智が勝ち、先攻を選んだ。


 120秒中60秒程度で器用にも山を完成させた。


「”ラリベラの聖ギヨルギヨス”」


 そこに立っているのは十字架の形をした地中世界遺産ラリベラ、それが立体的になってかなり無理のある高さになっている。


 明らかに将棋の箱よりも大きい。


<これは……! どこかで見た世界遺産だー! 多分そう! それにしてもこの高さは物理的に不可能な感じがしますが、エチオピアの選手の身体能力はどうなってるんでしょうか……?!>


「どうやって作った……? これ……めちゃくちゃ高い……高くない?」


「ドコイク指長い」


 よく見ると、確かにイクノの指は人差し指と中指だけが異常に長く、15cmは軽くあるだろう……それも、両手ともだ。


 一応だが、将棋の山を作る際は見えなければ指が山に触れていても特に反則にはならない。


 明智は少しばかり負けた気分になった。


「良いもん……ヒデト……ただ攻略して勝つだけ……それだけだから」


「どうかな?」

 

 明智が将棋の壁に向け指を這わせていくと、何かに睨まれている感じがして指が止まる。


 それは明らかに彼の全身に刻まれた入れ墨のような謎の紋様だ。


(この感覚なに……? もしかしてヒデト、催眠術かかってる……かかってない?)


「”シンドラー☆ノ☆昇降機リフト”……!」


 明智は壁の一番上にある角を中指でさすりながら上に載せ、ゆっくりと垂直にそれを下ろしていく。


 そして盤に付く寸前でゆっくりと駒の片側を下ろし、そのまま引きずって盤の外に出し、クロックを素早く押す。


 警告音が鳴り、25秒ほどかかってしまっている。


<なんと、角を獲りました! 明智選手、もはや獲れない駒は無いのか……! あの高い位置から音もなく絶壁に重なった駒を獲れる選手は世界にそう多くはいないでしょう!>

 


1ターン目 先手 明智ヒデト(アメリカ):角 5点

1ターン目 後手 イクノ(エチオピア):0点


「――アベベ!!」


 イクノの手番、突然大声を出すと、盤の外側をトン、と叩いた。


 駒の上層部が少しだけ動き、かなり際どい位置までずれてきている。


 審判が鳴った扱いにするかのジャッジをしている最中にクロックを押し、明智に回す。


1ターン目 後手 イクノ(エチオピア):0点

2ターン目 先手 明智ヒデト(アメリカ):角 5点


 明智の手番だが、少しばかり戸惑った。


(ヒデト思うんだけど……崩すならもう崩そうって……それが早いって)


「――ブブカ!」


「ブブカ?! ブブカ……?!!」

 

 ちなみに明智の掛け声に特にこれといった意味はない……単に先ほどのイクノの掛け声を真似しただけだ。


 しかし、イクノは「ブブカ」に対してどういう訳か完全に動揺しているようで、眼をグルグルと回している。


 十字架の半分ほどが崩れ、しかしながらなおも二段、三段になって完全に獲れる、という状況ではなくなっている。


2ターン目 先手 明智ヒデト(アメリカ):角 5点

2ターン目 後手 イクノ(エチオピア):0点

 

 イクノは自分の頭に触れると、白っぽい粘着性の「何か」を駒に付け、そのまま吸着させて静かに下ろすと、飛1枚を自分のものにしてしまった。


<イクノ選手、何やら不思議な白いものを使って、飛車を獲ってしまいました! これで同点!>


「へぇ……ドコイク……やるじゃん」


2ターン目 後手 イクノ(エチオピア):飛 5点

3ターン目 先手 明智ヒデト(アメリカ):角 5点


 明智はここで攻める。


 崩れた山の三段になっている部分を切り離し、一気に4枚を獲得する三段だ。


 この中には玉もあり、かなりのチャンスと見えた。


 盤外に出そうとする瞬間、異変が起こる。



ベチャ……!


 音もなく飛来してくる白いベッタリした固形物……さっきイクノが使ったものだ。


 それをかわそうと別の方向を狙うと……



ベチャ……!


 イクノは帽子の中にその半固形物を隠しているらしく、完全に明智の進行は阻まれた。


「なに、その気持ち悪い白いの……なんか臭うし……すっごい臭わない?」


「インジェラ……これエチオピアでは主食みたいなもの……それの生の生地」


 明智は諦め、そのまま小さい山を残すことにした。


3ターン目 先手 明智ヒデト(アメリカ):角 5点

3ターン目 後手 イクノ(エチオピア):飛 5点


<エチオピアのイクノ選手、よく分からない食べ物でねっとりとハラスメントをしてきます……! これにより明智選手、全く動くことができない!!>


「ドコイク……これ獲れるね。狩りってこういう感じ……エチオピアでは他のヤツに獲られると生きていけない……それに食糧……インジェラなしにも生きていけない」


 イクノは長すぎる指で片方を固定して支えながら、インジェラの間を通り抜けるように先ほどの4枚を獲得した。


3ターン目 後手 イクノ(エチオピア):玉飛香歩2 24点

4ターン目 先手 明智ヒデト(アメリカ):角 5点


「分かるよ、ドコイク……日本人だってそう……日本人は米なしには生きていけない……この意味分かる……分からない?」


 明智は再び山の上の金に手を伸ばし、先ほどの”シンドラー☆ノ☆リフト”で盤上に下ろし、横に移動させようとする。


 ベチャ……!


 ベチャ……! ベチャ……!


 明智はインジェラが飛来する方向を読んでいるがごとく、全方位に向けて金を滑らせる。


 結果、明智の指と金は山を囲むようにして投げつけられたインジェラによって拘束された。


「エチオピアの粘りってすげぇ……ふぅ……じゃあ後はヨロシク」


 金をそのままにして明智はクロックを押した。


4ターン目 先手 明智ヒデト(アメリカ):角 5点

4ターン目 後手 イクノ(エチオピア):玉飛香歩2 24点


 イクノの番になったあたりで、彼が指を動かすと……明智が動く。


「――”恐怖のアスワン☆ハイダム”!!」


 インジェラに囲まれた山に大量の天然水を流し込み、山は水に包まれた。


 僅かな横揺れの波によって山は徐々に浸食され、水攻めによって崩落の危機にある。


「さあ、問題DA☆……ヒデトが出したのは、物理と算数の問題……つまりさ……インジェラに囲まれた水が波を作って断続的に山を刺激する……そして、どこかで必ず山は崩れる……その秒数を間違えたら、つまりヒデトとイクノのどちらかは必ず負ける……どう? 苦手……苦手じゃない?」


「ドコイク算数と物理ってわからないよ……でも崩れたら盤の外に出るのだけはわかるよ! エチオピアたまに山崩れたりする」


 慌ててクロックを押すイクノ。


4ターン目 後手 イクノ(エチオピア):玉飛香歩2 24点

5ターン目 先手 明智ヒデト(アメリカ):角 5点


「じゃあ正解は……ユーが押してから、3秒後、DA☆」


「うわぁ……アァァァ――!!」


 ガラガラガラ……


 世界遺産をイメージしたイクノの山が崩れ、それはインジェラの上を通過して盤の外にはじき出される。


4ターン目 後手 ●イクノ(エチオピア):玉飛香歩2 24点(盤外落ちによる反則負け)

5ターン目 先手 〇明智ヒデト(アメリカ):角 5点



<なんと、わずか2秒の差で明智選手が勝ちました! イクノ選手の焦る心理を突きましたね……逆にイクノ選手が押すのがもう少し早ければ勝っていたことになります……エチオピア代表、2回戦で惜しくも敗退――!!>


「そういえばイタリアのピッツァって食べ物インジェラに少し似た感じだけどおいしい。ドコイク、ピッツァの勉強してからエチオピア帰るよ」


 明智はふと、あることに気付いた。


「あのさぁ……それ……見えてる……完全に見えてない? カメラ! カメラとりあえずオフ……!」


 先ほど取り乱したイクノ・ドコイクの布から股間が完全に飛び出しているのを確認すると、一旦カメラがオフになって、生放送は一時的に中止となった――



 ――



 ドタバタが終わって、明智はイタリアのビスケットをボリボリやりながら麦茶を飲んでいると、後ろから対戦相手の声がかかる。


「準々決勝はコペルニクスか……物理学の力が我が”理想郷シャングリ・ラ”を破れるか、試してみるがいい……!!」



 その声は、なんと若い女だった。






※ブブカ※

セルゲイ・ブブカ。ソ連・ウクライナの伝説的な棒高跳びの選手。「鳥人」と呼ばれていた。ちなみに「アベベ」はエチオピアの英雄的な陸上選手の名前である。

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